波
今日は楽しかったね。
よかったら、送ってくよ。 って言っても、俺も歩きだけど。
うん。 さっき、歩いて20分くらいって言ってたじゃん。
同じ方向だし、ここらも最近、物騒だからね。
女性の一人歩きは危ないよ。
それにしても、今夜は月が綺麗だね。
いや、漱石じゃないよ。
まぁ、確かに"I love you"って言いたい気持ちはあるかもだけど……
本当?
……よかった。 そう言ってもらえると嬉しいよ。
……そういえば、電磁波って知ってる?
え?
まぁ、確かに、脈絡のない話に思えるかもだけど……まぁ、聞いてよ。
そうそう、電磁波。
赤外線だとか、紫外線もそうだね。
電子レンジだって、マイクロ波だしね。
うん。 スマホも。
そう、波の性質を持ってるんだ。
だから、電磁波。
そう、世界にはいろんな電磁波が溢れてるんだ。
でも、これは知らないでしょ?
この電磁波の中に人の精神に影響する波が混ざってるってこと。
まぁ、人の脳波も電気信号だしね。
こいつらは、人の脳を支配して操るのさ。
ん? あぁ、ただの波じゃないんだ。
なんと言うか……
『邪悪な意思』って言うのかな?
操られるとどうなるか?
……そうだね、人に対してすごく残酷になるって言えば、わかりやすいかな?
他の人をいたぶる事に快感を覚えたり……
血を見るのが好きだったり……
人を苦しませて殺したくなったり……ね。
いや、その波は昔からあったよ。
ただ、そいつら、月から来るから……昔はオゾン層に守られてて、あんまり多くはなかったんだ。
うん、だから、最近は増えたんだよね。 その波に操られる人。
そうそう、昔から言われてる、月は人を狂わすってのも、そこから来てるんだよ。
だから、こんな綺麗な月の晩は、特に気をつけないとね。
え?
なんで、そんな事知ってるかって……
そりゃ……
俺が、その波の影響を受けてるからだよ。
◇
俺は、そう言って彼女の方を振り返り、怪しく笑って見せた。
今日、ダーツバーで知り合った彼女は、俺の言葉を受けて、恐怖に顔を歪ませた。
「……ぷっ! はっは、嘘! 嘘だよ。 冗談!」
俺の作り話に対する、彼女の反応が可愛くて、つい吹き出してしまう。
街灯に照らされた彼女が頬を膨らませる。
やはり、可愛い。
このまま、お持ち帰りできるといいなぁ……
俺は、そんな事を考えながら、少し開いてしまった彼女との距離を詰める。
「……もう! 本当にびっくりしたんだから!」
そう言って、彼女は持っていた小さなバッグに手を入れる。
「はは、だから、ごめんって」
俺は、そのまま彼女の肩に手を回す。
「……お仲間かと思っちゃったじゃない」
そう言って、妖しく笑う彼女の手には、全く似つかわしくないサバイバルナイフが握られていた。
~完~




