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間章:「剣を持たぬ軍にて」

――剣を捨てたとき、人は誇りも捨てるのか。それとも、“在る”ということに、誇りは残せるのか。

________________________________________

舞台:防衛省・地下第八会議区画 午後21:12(JST)

広大な軍用ブリーフィングホールに、ふたりだけの影があった。

堂島篤中将――国家戦略航空軍の最高指揮官。

朝霧千景――戦わないことを選んだ、異色の総理大臣。

対面することは稀だった。だが、この夜は避けられなかった。

________________________________________

「総理。失礼ながら、私は抗議のためにここに来ました」

堂島は背筋を伸ばしたまま、言葉を切り出す。

「今の日本には、“敵を倒す剣”がない。

軍人は、ただ“祈る”だけの存在に成り下がった」

千景は、ゆっくりと彼を見返した。

「……それでも、祈る人間がいる限り、この国は終わらないわ」

「軍は、祈るために存在していません。

我々の任務は、“国を守る”ことです。

そして守るとは、必要なら敵を排除するということです」

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対話:国家に必要な“力”とは

「中将。あなたは“排除”を『守ること』と定義するのね」

「ええ、当然です」

「では、こう問わせて。

もしその“敵”が、何も撃ってこない相手だったら?」

堂島は答えられなかった。

千景は一歩近づき、静かに言葉を重ねる。

「軍とは、本来“暴力を制限する”ための存在よ」

「それは“行使”のためではない。その存在が、暴力を起こさせないための重みになるの」

________________________________________

軍人の誇りとは何か

堂島は歯を食いしばる。

「……ですが、兵たちは戸惑っています。

誰も死なない。撃たれない。勝っても敗けてもいない。

では、我々は何を背負っているのか。

今やこの軍に、“戦士としての誇り”は存在できるのか?」

千景は、しばらく黙った。

そして静かに、手帳を一枚取り出す。それは、彼女の父が遺した遺書の写しだった。

「“剣を使わなかった軍人が、いちばん誇らしかった”

そう書かれていたの。私の父も自衛官だった。

でも彼は、一度も撃たずにこの国を守り抜いたわ」

「撃たないということは、何より勇気の要る決断よ。

君たち兵士は、“撃つ理由がないまま立ち続けている”。

それができるなら、あなたたちはもう、誰よりも誇り高い兵よ」

________________________________________

未来への灯火:役割を再定義するということ

堂島は黙って、遠くの作戦パネルを見つめた。

その中央には、静かに光るオルビスの演算パルス。

「ならば、我々は“兵器”ではなく、“境界線”であると……?」

「ええ。あなたたちは、戦うためにいるのではなく――“越えさせないため”にいるの」

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堂島の一言:変わる決意

沈黙の末、堂島は静かに敬礼をした。

「分かりました、総理。

私たちが誇りを捨てぬ限り、“剣なき軍”もまた、国家を支える柱となる」

「ですが――どうかお忘れなく。

私たち軍人は、“あなたが最初に倒れることを望んでいない”。

もし必要なら、私たちが“剣を手にする覚悟”も、常に残っています」

千景は微笑み、頷いた。

「その覚悟がある限り、私はあなたたちに“剣を握らせない”努力をし続けるわ」


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