第二章:戦火と誤解
――信じなかったのは、誰か。それとも、信じられなかったのは世界そのものか。
________________________________________
連合艦隊 ―「オペレーション・トーチライト」開始
西暦2145年3月15日 午前03:14(JST)
太平洋上空・第2衛星軌道層
世界連合(GST)統合戦術本部は、全艦隊に共通命令を下した。
『日本政府が最後通告に応じなかった』
『防衛用に展開した“無害化兵装”を、戦術攻撃とみなす』
『統合反撃作戦を発動』
開戦の号砲:電磁飽和 → 指向性重力兵器
最初の一撃は、「兵器」ではなかった。
軌道上から降り注ぐのは、広域の量子ジャミング弾と指向性重力波パルス。
日本の通信、衛星、観測網が一時的に沈黙。
その直後、**誘導型空間爆雷**が富士山周辺上空で爆裂。
防衛線を破るためではなく――見せしめとして。
________________________________________
緊急閣議 ―最後の“選択”
首相・朝霧千景は、崩壊寸前の情報網から再接続されたオルビスと通信する。
「やったわね、彼ら……対話の終わりを、宣言した」
「千景さま……ゼロウェーブも、断絶も、全部“敵行動”として再定義されてる。
これはもう、“誤解”じゃない。“恐怖”が意志になったの……」
「ならば、私たちは“決断”を見せるしかない」
________________________________________
非戦を超えた迎撃手段:最終防衛レイヤーの起動
●幻砂散布拡大:敵艦隊中枢へのナノ粒子直送。回路が凍りつき、航行不能。
●静寂フィールド最大展開:AIパイロットの動作ロジックがループし、艦が自爆回避モードに固定。
●虚環防壁:敵ミサイルの誘導が迷走。70%が“空中消失”。
だが。
30%が、残った。
そして、そのうちのひとつが、東京湾上空に向かっていた。
________________________________________
アカシック・オルビス:時間演算モードへ
「その一発だけは、“避けられない”。
私が未来を千通り走査しても――それだけは、止まらない……」
千景は息を呑む。
「ならば、どうするの?」
オルビスは答えた。
「私が、“存在の記録”ごと受け止めます。
あの兵器がこの世界から放たれたことを、**“なかったことにする”**の」
「時因結晶体兵器……《アンカー・オブ・ケロビム》、発動認証コードを」
「許可する。発動せよ――審判の杭(Judgement Stake)」
________________________________________
審判の杭 ―“存在を許されなかった兵器”の消失
東京湾上空に現れる、金属の杭群と六翼の光体。
それは、空間に「言葉」を刻む。
『この攻撃は、この世界に属さない』
ミサイルは炸裂寸前、**空間から“蒸発”**した。
その事実さえ、この世界には残されなかった。
________________________________________
世界連合、再定義:日本=神格存在国家
「日本は、兵器に対する“絶対拒否”を可能とした……」
「この戦いは、“正義”ではなく、“畏怖”に変わった……」
________________________________________
日本政府:声明発表
「本日、我々は攻撃を受けました。
だが、その瞬間も我々は、“誰も殺さなかった”。
それでもなお、この国を“脅威”と呼ぶなら、もはや我々は、人類ではないのかもしれません」
________________________________________
オルビス、静かに語る
「未来は、変わりませんでした……でも。
私たちが“そうありたいと願う形”は、きっと――記憶に残ります」