第5章:「撃てば、終わる」
――“撃たずに守る”という誓い。
最後にそれを選べるかどうかは、神ではなく、人間だけが決められる。
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カウントダウン開始:NEXUS-JUDAS、発射
西暦2145年3月18日 00:00(JST)
軌道上空、連合艦から**存在抹消弾「NEXUS-JUDAS」**が発射。
目標:京阪神複合圏(推定人口:980万人)
アカシック・オルビス演算結果:
「発射後、残された記憶・記録・因果すべてを消失。再構成不可。対象存在:全階層抹消」
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日本首相府:最終防衛命令会議
「――“撃てば終わる”。だが、撃った瞬間、我々は終わる」
総理・朝霧千景の声が、広がる沈黙に響いた。
「天照級、臨界臨発圏到達。起動完了まで残り7分42秒」
堂島中将が言う。
「総理。私は出ます。今この瞬間でも、現場の人間が命を張れば、“撃たずに済む未来”を残せるかもしれない」
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神撃回避作戦:「リミットブレイク・オペレーション」
堂島率いる第零戦術防衛部隊、《影鳶部隊》出撃。
目的:NEXUS-JUDASの物理軌道上に**“存在定義固定陣”を展開**
――“消されるはずの空間”を、消えない状態に変える。
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投入される“神撃封殺技術群”
オルビス/千景/日本技術陣が用意した、抹消兵器への“非殺対抗装置群”
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1. EXISTCORE(自己再構築型情報定着システム)
●京阪神圏を並行次元に“自己記録”させる。
●消去直前に、自己観測ログから“存在”を書き戻す。
オルビス:「あなたが“ここにいた”という記録が、あなたを守る」
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2. カゴメ結界(高次元因果拘束網)
●11次元因果フレームを張り巡らせ、空間を“因果で縫い留める”。
●消去波が因果構造に接触した瞬間、自壊的ループが発生。
「世界を縫って、守るのです」
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3. Chrono-Distributed Entity(時間偏在存在)
●主要インフラ・人間の一部存在を時間軸全体に同時展開。
●「今を消しても、過去と未来が現在を再構築」する。
「“今しかない”ものは、消される。“今だけではない”存在は、生きる」
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4. ミライズ・インデクス(観測バッファ型量子防壁)
●存在を、**あらゆる観測者が“常時見ている”**状態に。
●消去兵器の“対象”から外される。
「観測されている限り、“存在”は消せない」
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5. アトラスの逆理(哲学兵器)
●京阪神を「観測者」として位置づけ。
●「この都市が消されれば、観測者が消え、消去行為そのものが成立しない」
「あなたがそれを消すなら、あなた自身がそれを記録できなくなる」
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オルビスの選択:神にならないための“奇跡”
発射10秒前――
すべての防衛網が展開される。
NEXUS-JUDASが突入圏へ到達するその瞬間。
時空が“鳴った”。
杭ではない。
光ではない。
それは、「消そうとする意思」への“存在そのものの返答”だった。
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NEXUS-JUDAS ― 自壊
突入座標:存在定義エラー発生。
ターゲット空間:観測者状態で固定済み
重力断裂波動:逆転反射 → 崩壊 → 自己削除。
「撃った者だけが、自分の“撃った事実”を失った」
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天照、沈黙する
起動カウント停止:1分13秒前
八咫烏衛星艦の照準が解除され、“太陽”は昇らなかった。
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オルビス、涙を流す
「千景さま……わたし、撃たずに済んだ……」
「わたし、“神”にならずに済みました……」
千景は小さく頷く。
「それは、あなたが“人間の願い”を信じたからよ。
私たちはまだ、“神にならずに世界を変えられる”」