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27話・反撃手段は婚約者

「──それで、()()フラウ嬢を泣かせた理由はなんだ? 事と次第によってはただではおかんぞ」


 リオン様は窓から飛び降りたりはせず、普通に階段を使って階下に降り、普通に玄関から出て参りました。現在は私を庇うように前に立ち、グレース様を睨みつけております。


 予定外のリオン様の乱入に勢いを削がれていたグレース様も、彼が到着するまでの間に気を取り直したようです。わざとらしく咳払いをしてから再度主張を始めました。


「あ、アルド様の代わりに弟であるリオン様があたくしと結婚すべきだと申し上げているのです! フラウには身の程をわきまえるように注意しただけ。不当な話ではありませんわ!」


 リオン様本人を前にしても堂々と宣言しているところをみると、グレース様は当たり前の要求をしているつもりなのでしょう。『代わり』だと言われて喜ぶ者がいるとお考えなのかしら。


「貴族学院イチ美しくて家柄も良いあたくしと結婚できるのよ。光栄に思いなさい!」


 本気で喜ぶと考えてそうです。残念ながら、他の男性なら喜ぶような話でも、リオン様には通用いたしません。何故なら、彼は私に心底惚れ込んでいるのですから。


「聞くに堪えん」

「なんですってぇ!?」


 即座に却下され、グレース様がショックを受けております。好意を持たれていた私でさえ嫌われているとしか思えなかった素っ気ない対応です。本当に嫌われているグレース様相手にリオン様が愛想を振り撒くはずがありません。


「そっそんな態度を取れる立場だと思って? 元はと言えばアルド様が行方知れずになったせいですのよ! ネレイデット侯爵家は我がカレイラ侯爵家との繋がりを一方的に断つつもり?」


 確かにグレース様のおっしゃる通り。アルド様が出奔さえしなければ何の問題もなかったのですもの。


「アルド様の代わりにあたくしと結婚すると約束なさい! さあ!」


 それにしても、何故グレース様はこんなに必死になっていらっしゃるのかしら?


 我がヴィルジーネ伯爵家とは違い、グレース様には上に兄弟がおります。跡継ぎが欲しくて迫っているわけではありません。カレイラ侯爵家と縁続きになりたい貴族なら他に幾らでもおります。いなくなったアルド様や、その気のないリオン様に結婚を迫る必要があるのでしょうか。


「我が家と同等以上の家格で年齢が近くて婚約者がいない殿方はもう他におりませんのよ! あなたがた兄弟どちらも駄目になったら困ります!」


 有力貴族ほど早いうちに婚約者が決まります。確かに、侯爵以上の家柄で婚約者がいない者は十歳未満の少年か後妻を求めるおじ様くらいしかおりません。散々『伯爵家ごときに』と馬鹿にしてきた手前、今さらご自分が格下の貴族と婚姻を結ぶなど矜持が許さないのでしょう。


「フラウ嬢、大丈夫か」

「大丈夫ですわ、リオン様」

「目が赤くなっている。これを使うといい」


 私を気遣い、ハンカチを手渡すリオン様。先日の話し合い以来、思ったことを出来るだけ相手に伝えるように努力しておいでです。コニスとアリエラも、これまでの話とは全然違うリオン様の言動にキャーキャー騒いでおります。


「ちょ、ちょっと! あたくしを放ったらかしにするなんてどういうことですの!」


 私にばかり構うので、完全に無視されたグレース様は怒り心頭といった様子。その怒りに呼応して、周りにいた男たちが武器を構え直しました。さすがに攻撃はしないと思いますが、今のグレース様は冷静さを欠いております。どんな命令を下すか予想ができません。


「……はあ」


 リオン様が溜め息を吐き出しました。心底面倒臭そうな表情を隠しもせずグレース様に向き直ります。やっとこちらを向いた、と気を良くしたグレース様が笑みを浮かべますが、すぐにその顔は凍りつきました。


「俺が何も知らないと思っているのか?」

「えっ」


 リオン様が懐から取り出したのは数十枚にも及ぶ書類でした。それをグレース様の眼前に突きつけております。


「こ、これは」


 顔色を失い狼狽えるグレース様に対し、リオン様は無言のまま。あまり喋りたくないようです。代わりにどこからか現れたダウロさんが説明役を買って出てくれました。


「全てネレイデット侯爵家に送られてきた請求書の写しです。近頃覚えのない請求が増えておりまして、こっそり調査をしていたのですよ。……アルド様のご指示で」

「なっ……!」


 アルド様の名前が出て、グレース様が目を見開きました。まさかの展開に私とコニス、アリエラも驚きが隠せません。


 というか、私は何も知りません。先ほどだって、リオン様がグレース様を追い返してくださることに期待して嘘泣きをしただけなのですから。


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