25話・対決開始
問題は何ひとつ片付いておりません。
リオン様が私をどう思っていようが、我がヴィルジーネ伯爵家に婿入りしていただけないのなら婚約解消。これは決定事項です。どうしても私と結婚したいと仰るのなら、出奔したアルド様に戻っていただくしかありません。
その辺を理解しているのかと問えば、リオン様は一応考えているとのこと。騎士団の仕事の合間に色々と動いていらっしゃるようです。だから帰りが遅い日がありましたのね。
「アルド様まだ見つかってないんだ~」
次の週末、いつものようにコニスとアリエラが別邸に遊びに来てくれました。お茶を飲みながら情報交換に勤しみます。
「捜索状況聞いてないの?」
「全然」
正直、リオン様からアルド様の行方に関する話は聞いておりません。何度か尋ねてはみたのですが「気にするな」の一点張り。私に話したところで状況が変わるわけではありませんものね。でも、アルド様が見つかるか見つからないかで私たちの今後が決まるのですから、部外者扱いしないでほしいとは思います。
「そういえば、ちょっとおかしいのよね」
アリエラはちらりと周りを見回し、近くに誰もいないことを確認してから口を開きます。
「アルド様の捜索をしているのはカレイラ侯爵家の私兵ばかりで、ネレイデット侯爵家はほとんど動いていないのよ。いえ、動いてはいるのだけど、一見関係のなさそうなことばかり調べているの」
「どういうこと?」
意味が分からず問い返すと、アリエラは更に言葉を続けました。
「普通人探しをするなら潜伏できそうな場所を探すでしょう? 知人の屋敷や別荘、宿泊施設、あとは乗り合い馬車の利用状況とか検問所の記録とか。でも、ネレイデット侯爵家は何故か商業店ばかりに聞き込みをしているらしいの。とても人探しをしているとは思えないわ」
アリエラの話が真実なら、ネレイデット侯爵家はアルド様を探していないことになります。跡継ぎが姿を消したのに探さないなんてことが有り得るのでしょうか。
「もしかして、アルド様の居場所を既に知っているとか?」
「うーん……」
コニスの言葉に頭を悩ませていると、不意に、外から複数の馬の嘶きが聞こえてきました。
慌てて窓に張り付くと、別邸の門から四頭引きの立派な馬車が駆け込んでくるところでした。馬車の側面にはこれ見よがしに大きな紋章があしらわれております。
「あれは、カレイラ侯爵家の馬車?」
私たち三人はあの紋章に見覚えがありました。何故なら、グレース様のありとあらゆる持ち物に刻み込まれているからです。貴族学院に通っていれば嫌でも視界に入り、記憶に残ります。
馬車が止まり、すぐさま馭者が踏み台を用意しました。そして恭しく頭を下げながら扉を開きます。
「こちらにいるのは分かっていてよ、フラウ!」
姿を現したのは、やはりグレース様でした。彼女は地面に降り立つなり、別邸の建物に向かって大きな声で私の名を呼んでおります。彼女のそばにはデュモン様の姿もあり、更に十数人の武装した男たちが別邸を取り囲みました。もし私が呼び掛けに応じねば踏み込むつもりなのでしょう。
「どうする? フラウ」
「私は逃げも隠れもしませんわ」
「でも、相手はあのグレース様よ?」
二階の窓からグレース様を見下ろす私の左右にコニスとアリエラが寄り添います。グレース様が乗り込んでくることは、デュモン様に居場所が知られた時点で分かっていました。逆に、あれから数日も間が空いたことのほうが不思議でした。てっきりその日のうちに殴り込みに来るのではないかと予想しておりましたので。
客室を出て階下に降り、外へと出ます。コニスとアリエラも付いてきてくれました。巻き込みたくはありませんが、味方がそばにいてくれるだけで嬉しく思います。手足が震えずに済んでいるのは二人のおかげですわ。
「素直に出てきたわね、フラウ」
「私に何の御用ですか、グレース様」
玄関ポーチを出たところで向かい合って立ち、睨み合いに……とは言え、私は弱小貴族の娘。グレース様に逆らうことはできません。
さて、どうしましょうか。




