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22話・すれ違い

 どうしてこうなってしまったのかしら。


 デュモン様が別邸にやってきた日の夜、私は客室で数日ぶりにリオン様とお話しすることになりました。


「…………」

「…………」


 向かいのソファーに座るリオン様は難しい顔をして腕を組んでおります。いつにも増して不機嫌そうで、とてもお話ができるような雰囲気ではありません。


 気を落ち着けるため、ルウが淹れてくれたお茶を飲むとしましょう。


 うっ、渋い。あの子ったらまた茶葉を山ほどポットに入れたわね。しかも蒸らし時間が長過ぎたせいで色も濃くなり過ぎてます。老メイドから色々習い始めて多少マシになったと思っていたけれど、まだまだね。もっと細やかな気遣いが身につくまで老メイドに教えてもらわなくては。いえ、もう別邸には居られなくなるのだから、教えてもらう機会もなくなります。私だって刺繍を習い始めたばかりだというのに。


 カップを置き、改めて正面に座るリオン様に視線を向けました。不機嫌な表情に変わりはありません。やはり私が言い付けを破って外に出た挙げ句、カレイラ侯爵家の手の者に見つかってしまったことを怒っておられるのだわ。


「フラウ嬢」

「は、はい」


 長い沈黙のあと、リオン様が口を開きました。緊張で上擦ってしまいそうな声を抑え、冷静を装って返事をいたします。


「ダウロに言わせると、俺は随分と言葉が足りていないらしい」

「はぁ」

「今日も説教を喰らった。口煩い奴だが、今までで一番の剣幕だった。俺はそこまで酷いつもりはなかったのだが」


 昼間ダウロさんが『よぉく言い聞かせておきますんで!』と仰っておりましたが、本当に実行していたようです。


 既にこの時点で、リオン様の口数は過去最高くらいになっております。そう思うと、確かに私たちには会話が足りていなかったのです。


 ──否。

 言葉足らずはリオン様だけですわ!


 婚約成立から三年の間、私は必死に話し掛けてきました。時候の挨拶、時事の話題、好きなもの、流行、勉学、歴史、家族や友人の話。それをたったひと言の相槌だけで済まされて、毎回心が折れそうになりました。常にムスッとしていて、つまらなそうに見えました。格下の貴族に婿入りなんてしたくないのだろうと何度目かの顔合わせで察しました。


「そうですね。本当に、ダウロさんの指摘通りだと思います」


 弱小のヴィルジーネ伯爵家を守るため、婿入りしてくださる婚約者に好かれようと努力してきた私を散々軽くあしらったのです。それを『言葉が足りない』などというヌルい表現で済ませないでいただきたいわ。


「私、リオン様のことが苦手です。何を考えてらっしゃるか分かりませんから」

「……」


 私の言葉に気を悪くしたか、リオン様の眉間に深いシワが刻まれました。今までの私なら、機嫌を取るために話題を変えて笑顔を取り繕ったことでしょう。


 でも、今日はとことん腹を割って話をすると決めました。どうせ婚約は解消するのです。でしたら最後に言いたいことを全てブチ撒けても許されますわよね?


「毎月お茶会を開いても、リオン様は終始無言でしたよね。私は何日も前から話題を吟味しているのに、あなた様は私と何を話すか考えたことすらないのでしょう」


 婚約者との親睦を深めるためのお茶会ですのに、毎回私から一方的に話を振るだけで、虚しさしか感じませんでした。


「いつもいつも怖い顔をして、向かいの席に座ってお茶を飲むだけ。私と二人で過ごす時間がお嫌でしたら律儀に毎回出席しなくても、適当に理由をつけて取りやめてくだされば良かったのです」

「……」


 ここまで言っても、リオン様は黙ったまま。怒って反論でもしてくだされば会話になりますのに、それすら放棄するほど私と関わりたくないのでしょうか。


「わ、私、あなた様に少しでも気に入られようと頑張っておりましたのに」


 貴族学院のクラスメイトの半数以上には婚約者がおります。彼女たちから聞く恋の話は華やかできらきらしていて、とても羨ましく思いました。たとえ親が決めた相手でも同じ時間を過ごせば親しくなれるし恋もする、心がときめくこともあるのだと知りました。


 でも、どんなに努力をしても、私は彼女たちのようにはなれなかったのです。


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