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15話・ストックホルム症候群

 監禁生活は予想より平穏なものでした。私の自由は二階の客室だけ。初日以降はルウが出入りするようになったため、出入り口の鍵は廊下側からではなく内から掛けるようになりました。つまり、出ようと思えば出られる状況です。


 でも、既に貴族学院には休学届が出され、父からは帰ってくるなと言われております。加えて、クラスメイトのグレース様から絡まれる可能性があると知った今、王都郊外の別邸で隔離されている状況が最適ではないかと思うようになりました。故に、私は自分の意思で『客室から出ない』と決めました。


 整えられた客室に美味しい食事。話し相手のルウ。週一で訪ねてきてくれる友人たち。たまの手伝い。学院の課題。割と充実した日々を送っておりますが、ただひとつ悩みがありました。


 リオン様です。


 彼は朝早くから日が落ちるまで王都の中心街で騎士団のお仕事をしております。普段はそのまま王都のネレイデット侯爵邸に帰っているそうですが、私を監禁してからは、わざわざ郊外にある別邸まで馬を走らせて帰ってきます。


 そして客室に顔を出し、私に「婚約解消を撤回する気になったか」と尋ねてくるのです。その度に「撤回いたしません」と答えています。


 ルウは「毎日顔を見に来るなんて熱烈ですねぇ♡」などと囃し立ててきますが、私は戸惑うばかり。


 リオン様はどうして婚約解消に反対なのでしょう。抱擁や口付けをされたことから推測すると嫌われてはいないようですが、婚約してから今に至るまでリオン様から好かれていると思ったことはありません。形式的な付き合いしかしておらず、彼の態度も非常に冷たいものだったからです。


 しかし、別邸に監禁されてからというもの、彼の私に対する執着めいたものを感じるたびに不思議と胸が苦しくなるのです。


「いや、それ監禁されてるからじゃない?」


 次の週末、再びアリエラとコニスが様子を見に来てくれました。そこで現在の心境を語ったところ、コニスから真顔で指摘されたのです。


「ええと、コニス。それはどういう」


 意味か分からず聞き返すと、二人は引きつった笑みを浮かべて顔を見合わせました。


「今のフラウはリオン様によって行動の自由を制限されているでしょ? 閉鎖的な環境に置かれていると、いつしか『制限を与えている者』に対して好意を持つようになっちゃうんだって! 前にアリエラが教えてくれたの」

「昔の犯罪史に似たような事例が載っているのよ。被害者が身の安全と精神の均衡を保つために加害者に対してそういう心理状態になるとかなんとか」

「えええ」


 言われてみれば、監禁生活が始まるまではリオン様のことは名ばかりの婚約者としか思っていなかったのに、今ではこの客室への来訪を心待ちにしている自分がいるのです。心境の変化は監禁生活という特殊な状況がもたらしたものでしたのね。


 ていうか、アリエラはなぜ犯罪史に目を通しているのかしら。おとなしく控えめな子だと思っていたけど、もしかしたら違うのかもしれませんわね。


「フラウがリオン様を好きになれば何にも問題ないんじゃない?」

「そうね、実際に花嫁修業してるみたいだし」


 そう。平日の昼間は学院からの課題をこなしてもまだ時間を持て余すので、少しずつ家事の手伝いをしているのです。弱小とはいえ貴族令嬢ですので水仕事や力仕事はしておりません。ルウと共に簡単な食材の下ごしらえを手伝ったり、老メイドから時々刺繍や針仕事を習っている程度ですけれど、一応これも花嫁修業と呼べるのかしら?


「でも、私はリオン様と結婚できないわ。今の状況では婿入りしていただけないもの。早く別の相手を見つけなくちゃ」


 私の目的は最初から変わっておりません。我がヴィルジーネ伯爵家に婿入りしてくださる殿方でしたら誰でも構わないのです。


 構わないはずなのに、何故か胸が痛みます。これも監禁されたことによる気持ちの変化なのでしょうか。


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