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14話・別邸の内情

 アリエラとコニスが帰ってから、侍女のルウがひょっこり顔を出しました。私を放ったらかしにして今までどこに行っていたのでしょう。


「おばーちゃんに別邸の中を案内してもらってましたぁ」


 おばーちゃん?


「お茶会の支度をしてくれた方ですよぉ」

「ああ、なるほど」


 老メイドのことでした。ルウはすっかり彼女に懐いていて、別邸内のことを教えてもらっているようです。私の世話をするなら客室にいるだけでは務まりませんものね。最低限、水場や厨房への出入りはできないと困ります。ただ、建物の外へは出ないように言われているようですけれども。


「フラウお嬢様、この別邸には本当に最低限の人員しかいないんですよ。厨房の料理人(コック)はおじーちゃんが一人、メイドもおばーちゃんが一人だけ。使いの人は二、三人いるそうですけど常駐はしてなくて、決まった時間に交代で御用聞きに来るだけみたいでぇ」

「まあ、予想より少ないわね」

「普段は週末にリオン様が泊まりにくるだけなので事足りてるみたいなんですよぉ」


 厩番は別邸の裏手に家があり、庭師は森の向こうにある集落から週に数日通いで来るんだとか。維持や管理だけならば人手は要らないと言いたいところですけれども、まさか別邸内で働く使用人が老コックと老メイドの二人だけだなんて。


「あたし、お年寄りが重いもの運んでるとこ見るとハラハラして落ち着かなくてぇ。昼間おじーちゃんとおばーちゃんのお手伝いしてもいいですかぁ?」

「もちろん。あなたにとっても良い勉強となるでしょうから」


 なんということでしょう。怠け癖のあるルウが自分からお手伝いを申し出るなんて。この機に老メイドのおもてなし技術を学び取り、侍女としての熟練度を上げてくれることを期待しましょう。


「それじゃ、あたし夕食作りのお手伝いに行ってきますね~!」

「あ、ちょっと待って」

「はい?」

「私にもお手伝いできることがないか聞いてくれないかしら。時間を持て余してしまって」

「分かりましたぁ!」


 ルウは元気に飛び出していきました。家事はしたことありませんけど、年老いた者ばかりを働かせてのんびりなんかしていられませんもの。監禁中の身ではありますが、室内でできそうな仕事があれば率先してやらなくては。


「お仕事もらってきましたぁ!」


 ルウが持ってきた仕事はひよこ豆の皮むきでした。下茹でした小さな豆の薄皮を取り除くのです。簡単な作業に思えますが、小鉢いっぱい処理するのは根気が必要です。


「あたしは芋の皮むきです!」


 テーブルに置かれたのは籠いっぱいの芋。ルウは私の向かいに腰を下ろし、小さなナイフを使って器用に芋の皮を剥いていきました。思いのほか手際が良くて、つい見入ってしまいます。


「ルウ、上手(うま)いわね」

「実家にいた頃はよくお手伝いしてましたから。伯爵家に奉公に上がってからは厨房には入らせてもらえなかったですけど」


 我が家は厨房、清掃、洗濯などの各仕事に数名ずつ担当がおり、自分の管轄以外の仕事には手も口もださないことが暗黙の了解となっておりました。侍女であるルウが許されているのは主人一家の居室の掃除くらいでしょうか。


 ルウは掃除より厨房の仕事に興味があったのですね。彼女は向かない仕事が嫌でサボりたがっていただけなのです。いえ、仕事の選り好みはいけませんが、何も知らなければルウがただの怠け者だと思い込んだままでした。


 真剣に取り組んだ結果、ひよこ豆と芋の皮むきは順調に終わりました。すぐさまルウが厨房に運んでいきます。


 小さな食材ひとつにも下ごしらえが必要なのですね。茹でたままでも食べられるひよこ豆の薄皮を取り除くことで口当たりを良くしているのです。料理人のこだわりや苦労がほんの少しだけ分かった気がしました。今までの私は食べるばかりで何も知りませんでしたから。


 なんだか社会勉強をしている気になってきました。もしかしたら、この監禁生活は私にとって不利益なことばかりではないのかもしれません。


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