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10話・親公認の監禁

 夕食は客室に運ばれてきました。食事の時くらいは階下に降りられるのではないかと期待していたのですけど。


 給仕はあの老メイドです。昼間も思いましたけど、ぷるぷる震えているのに手際が非常に良くて感心してしまいました。私の侍女ルウは動きが大雑把で、お茶の支度も食器をガチャガチャ鳴らしながらしています。ルウは勤め始めて三年しか経っていないのですから仕方ありませんね。いずれこの老メイドのように動きが洗練されることでしょう。


「お嬢様、お支度が整いました」

「ありがとう。あの、リオン様は?」

「来客の対応をしておられます。お食事は階下でお召し上がりになるそうですよ」

「そう」


 こんな辺鄙な場所ですのに、誰か訪ねてくることもあるのね。向かい合って食事をすることにならなくてホッといたしました。改めて老メイドにお礼を伝えてから食べ始めます。


 スープは黄金色に輝いており、ひと口飲んだだけでは何が入っているのか予想もできません。あらゆる野菜や肉、香辛料などを丁寧に仕込んで旨味を抽出したということだけは分かります。


 メインは鹿肉のロースト。肉の中心に赤みが残るくらいに絶妙に火が通されていて、ナイフでスッと切り分けられるほど柔らかく仕上がっています。添えられたフルーツソースがまた鹿肉によく合います。


 綺麗に皿に盛り付けられた料理はどれも美味しくて、ついつい残さず食べてしまいました。おそらく私が食べ切れる量を計算して用意してくれていたのね。


「とても美味しかったわ。ありがとう」

「それはよろしゅうございました」


 老メイドは手際良く食器をワゴンに片付け、食後のお茶を用意してくれました。ひと口サイズのプチケーキには新鮮なフルーツが飾られ、見た目も鮮やか。


「わあ美味しそう! じゃなくて、あなたに聞きたいことがあるのだけど……って、あれ?」


 しまった。目の前に置かれたデザート皿に気を取られている隙に老メイドが客室から出て行ってしまいましたわ。話を聞こうと思っていたのに。


「あら?」


 ふと窓辺に視線を向けると、別邸の門から馬車が一台入ってくる様子が見えました。とっくに日が落ちているため暗くてよく見えませんけども、あれは昼間私を置いて行った我がヴィルジーネ伯爵家の馬車ではありませんか。もしかして迎えに来てくれたのかしら。


 期待のあまり、窓に張り付いて様子を窺います。すぐに使用人らしき者が出て対応し、馬車から一人降りて別邸内に通されました。きっと父が迎えを寄越したんだわ!


 しかし。


「フラウお嬢様の身の回りのお世話をするため、あたしもこちらに泊まり込むことになりましたぁ!」


 やってきたのは迎えではなく、私専属侍女のルウでした。彼女は大きなトランクを抱え、満面の笑みで客室までやってきたのです。


「ルウ、お父様はなんと?」

「旦那様は『くれぐれもリオン様のご機嫌を損ねないように』とのことですぅ」

「はぁ~!?」


 なんてことでしょう。ヴィルジーネ伯爵家のために婚約解消をしようとしているのに、どうして父はそのようなことを。


「私、屋敷へ帰りたいのだけれど」

「リオン様のお許しがなければ、例え帰ってきても屋敷の敷居は跨がせないと仰っておられましたぁ」

「なっ……!」


 再び窓から外を見れば、馬車が走り去っていくところでした。


 ば、馬車……ッ!

 またしても私を置き去りに!


 これでは逃げ場がないではありませんか。まさか親公認で監禁されることになるなんて思いもしませんでした。


「でも、ルウが来てくれて嬉しいわ」


 客室内で一人で過ごすのは退屈だし、話し相手がいてくれるだけで心強く思います。


「そういえば何を持ってきたの? 着替えの服とかかしら」

「お嬢様の部屋着とあたしの着替え、あとはお勉強道具一式をお持ちいたしました! 学院の先生から課題プリントをお預かりしてますぅ」

「ぬぅ……」


 休学しても課題は出るのね。まあ、他にやることもありませんから構いませんけれども。


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