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6 突然の訪問

6 突然の訪問


 ガブリエルから事情を聞いた二人は、帰りの馬車の中で思案していた。


「なんだか、おかしなことになりましたね。なぜ今頃、殿下が私に執着されるのか…。」

「そりゃあ、こんなに綺麗な女性に育ったリディを見たら、自分の物にしたくなったんだろ?その気持ちは分かる。けど…。」


 サイト―の耳が赤くなっているのを見て、リディアーヌも思わず俯いてしまう。その耳元で深いため息が聞こえ、顔をあげると、意を決したサイト―が言い放った。


「悪いが、しばらくはタウンハウスから出ない方がよさそうだな。俺も一緒に居られたらいいんだが、結婚式までに今のプロジェクトを進めておきたい。聖女としての仕事が入った時は、必ずラザールを連れて行ってくれ。いいね。」

「分かりました。王妃様たちも気を掛けてくださっていましたし、しばらくは、自宅でゆっくりしますわ。」


 微笑むリディアーヌを見て、ふと表情を緩めたかに見えたサイト―だったが、窓の外を眺める顔には焦りが現われていた。



 翌日、早朝から工房に向かったサイト―を見送って、リディアーヌは刺繍を始めていた。メゾン・デゼンファンの子どもたちにそれぞれの名前の入ったハンカチをプレゼントしようと準備しているのだ。


「リディアーヌ様、お茶が入りました。」

「ウラリー、ありがとう。」

「随分出来上がってきましたね。名前の横にはイラストが付いているんですか?凝ってますねぇ。」


 子どもたちの喜ぶ顔が見たくて、リディアーヌがそれぞれのイメージにぴったりの動物を名前の横に刺繍しているのだ。うさぎやねこ、リスやくまなど、子どもたちが喜びそうな図案だ。


「施設の子どもたちもきっと喜びますよ。それに、将来は、お二人のお子さんにプレゼントする図案の参考にもなりますね。」


 ニヤニヤするウラリーの横で、真っ赤になるリディアーヌだった。しかし、その表情は長くは続かない。


「そうね。そうだと良いんだけど。」


 香り高い紅茶を口にしても、今のリディアーヌの憂いを払拭することはできなかった。その時、ラザールがリディアーヌの元にやってきて、小さな小箱を差し出した。


「リディアーヌ様、旦那様から至急お渡しするように、とのことです。」

「なんでしょう?」


 リディアーヌが箱のふたを開けると、淡い水色から黄色に変わるグラデーションが美しい花と、深い赤のバラの練り切りが並んでいた。


「ゴホン。その、旦那様から聞き出したところによると、旦那様が以前いた国では、真っ赤なバラには、愛情という花言葉あるんだとか。それから、もう一つの物は二人の思い出の品だとのことです。」

「あら、聞き出したってことは、ラザール様、だいぶ粘って聞き出しましたね。グッジョブです。」


 傍に居たウラリーが、ふふふっと笑いながら突っ込んでいる。


「まぁ!シュウジ様らしい優しさだわ。」


 リディアーヌは自分でも気が付かないうちに微笑んでいた。どうしてこんなに不安になっていたんだろう。サイト―との絆は疑いようもないのに。そう思いなおすと、リディアーヌは真新しいハンカチを取り出して、サイト―の名前の横に赤いバラの刺繍を入れた。


「ラザール。これを添えて、旦那様にとてもうれしかったですとお伝えして頂戴。」

「承知しました。」


 嬉々として工房に向かうラザールを見送っていると、外に馬車の気配がした。ウラリーが外に出ると、きらびやかな馬車が目の前に留っていた。


「リディアーヌはいるか?」


 予定の無かった来客は、先ぶれも出さずにいきなりグイグイと屋敷に入ってくる。


「あの、お待ちください。今、旦那様に確認してまいります。」


「旦那だと?そんな奴に用はない!リディアーヌのところに案内しろ!」

「も、申し訳ございません、少々、お待ちください!」


 懸命にその歩みを止めようとする声を聞きつけて、リディアーヌが顔を出した。


「どうしたの、ウラリー。」

「ああ、リディ!俺だ!ガブリエルが会わせてくれないから、直々に来てやったぞ。」

「ジョルジュ殿下!先ぶれを下されば、準備いたしましたのに。」

「そんなものは必要ない。俺とリディの仲ではないか。」


 ジョルジュは勧められてもいないソファにドカッと座り、リディアーヌに手招きする。リディアーヌは、あまりの態度の悪さに戸惑いよりも怒りが沸き起こってきた。王子の手招きには従わず、立ったままで言い放った。


「殿下。殿下は留学先でもそのような態度でいらしたのですか?それではせっかくの留学も意味をなさないでしょうね。男性が女性を訪ねてくるのには、最低限のマナーというものがありますわ。王族の方ならばなおさら、スマートに対応なさるのではなくて?」


 ジョルジュは一瞬、何を言われているのか理解できなかったようだ。しかし、どうしてもサイト―がいない間にリディアーヌを振り向かせたい一心で、ぐっと堪えてリディアーヌに従うことにした。


「ああ、それは悪かったな。うん、ならば仕方ない。今日はどうしてもお前の元気な顔が見たかっただけなんだ。では、次に来るときには、お前にぴったりの花束を持って来るとしよう。」

「うふふ、分かってくださったのですね。さすが、殿下、大人ですわ。」


 リディアーヌは馬車まで王子を見送って微笑んだ。ジョルジュはそれを見てすっかり機嫌を良くして、手を振った。


「ふふ、やはり俺の事が気になっていたようだな。」

「お疲れ様です。」


 付き添っていたのはブリュノの部下、エリクだ。エリクは留学先にも同行していたので、王子のやり様には慣れている。しかし、ここは監視の無い留学先とは違う。王子の側近であるブリュノに黙って王宮の馬車を手配し、王子単独の外出を手配したエリクは、王宮に戻るなり、ブリュノに大目玉を食らうのだった。


読んでくださってありがとうございます。

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