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5 わがまま王子降臨

5 わがまま王子降臨


「おい、ブリュノ。あの銀髪の女性は誰だ?」


 側近を呼びつけ耳打ちすると、当たり前のように返事が返ってくる。


「お忘れですか? 殿下の従兄弟にあたられるリディアーヌ・アランプール嬢です。亡くなられた陛下の弟君アンドレ・アランプール前公爵様のご令嬢です。」

「なんだって? リディは目が見えなかったはずだろ?」

「ご存知なかったですか?少し前に聖女召喚でやってきたサイト―殿の献身的な介護によって、奇跡的に視力を回復なさったのです。その縁で、今はあんなに仲睦まじくなさって…。もうすぐ結婚なさるとのことです。」

「はあ?それはおかしいだろ。リディは元々、俺と結婚するはずだったんだ!視力を失くしたと聞いたから、候補から外しただけだ!それに、聖女召喚で男が来たのか?おかしいだろ?」


 側近ブリュノはため息をつきたいところをぐっと堪えて、改めて王子に向き直った。


「私からは殿下に逐一報告をあげております。帰国されるにあたって、当然目を通してくださっているものと思っておりましたが、お忘れでしたか?」

「ぐっ…。と、とにかく!俺はリディの結婚に反対だ!王族の許可なく婚約するなど、言語道断!」

「陛下はこのご縁を大変お悦びでございます。それに、殿下のお目付け役のあの方も、本日はいらっしゃっていますよ。」


 すました笑顔をその顔に張り付けて、側近は言い放った。ぎっと睨みつける王子に、待ちくたびれた貴族令嬢たちが迫ってくる。


「殿下、あの、もしよろしければお飲み物などいかがですか?今日の舞踏会には、私の領地特産のぶどうジュースが出ておりますの。」

「あら、私の領地のバターを使ったクロワッサンはいかがです?」


 それを良いことに、ブリュノはそっと王子から離れた。ふてくされたジョルジュ王子がソファに座ると、貴族たちが娘を連れて次々に贈り物を手渡す。どうやらリディアーヌと結婚するとの発言は聞こえていなかったようだ。貴族たちの野望に満ちた“ごあいさつ”を、ジョルジュは疑いもせず受け取っていく。しかし、一部の貴族たちは、そんな軽率な態度のジョルジュに眉をひそめてもいた。

 そこに、ゆっくりと王妃がやってきた。貴族たちは慌てて数歩下がると、さっと頭を下げた。


「ジョルジュ、いい加減になさい。あなたの浅慮な態度は見るに堪えません。」


 一時は命をも危ぶまれていた王妃は、サイト―のワガシで健康を取り戻している。


「母上、俺は…、ゴホン。僕は落ち着いているよ。どこの貴族がどんなものを貢いでくるかで、その貴族の考えが見えてくるじゃないか。」

「なんてことを!」


王妃が窘めるのも聞かず、ジョルジュは続ける。


「それに、僕の妃候補はリディアーヌに決まっている。いずれ王太子妃候補を立てて教育するんだろ?それなら公爵家の令嬢がてっとりばやいじゃないか。リディは僕の好みなんだ。大人しくて、従順そうだし。」


 それを聞きつけて、慌てて割って入ったのは、ガブリエルだった。


「殿下、お待ちください!リディアーヌはすでに婚約しております。何を根拠に…。」

「えっと、あれは…。アンドレ叔父上の葬儀の少し前だったかな。リディも僕の妃になると了承したんだ。」

「父上が亡くなる前…? 10年以上前ではないですか。リディはまだ10歳にも満たない頃だ!殿下はおいくつだったんですか!」

「ご、5歳だ。」


 5歳の王子がご機嫌を損ねてわがままを言ったなら、その場限りの約束をすることなど容易に考えられる。改めてジョルジュを見つめるガブリエルの顔には、受け入れがたいという表情が現われていた。


「で、殿下、まだほかにも美しいご令嬢はたくさんいらしています。ゆっくり吟味なさってはいかがですか?」

「ブリュノの言う通りよ。ジョルジュ、あなたの態度は王太子に相応しくないわ。もう少し周りに配慮しなさい。」


 きっぱりとした物言いは、ジョルジュの姉、グレース・コロージオだ。久しぶりの弟の帰国に合わせて、嫁ぎ先のコロージオ王国から来訪したのだ。


「うわ。うるさい奴がいた。どうしてお前がここにいるんだ。」

「誰に向かって言っているの!私はただの『あなたの姉』ではないのよ。あなたの発言は、コロージオ王国王妃に対する言葉なのです。わきまえなさい。父上はあなたが王太子として相応しいかどうか、見ていらっしゃるのよ。」

「ああ、王妃様!大変失礼をいたしました。」

 ブリュノが宥めると、まったくと言わんばかりのため息をついて、大げさに呆れた様子で言う。


「ああ、分かったよ。ご忠告、感謝いたします。他国の王妃様。」

「ジョルジュ!!」


 貴族たちに気付かれぬよう、それでも最小限の注意でアドバイスする姉や母の言葉は、耳に入らない。そんな様子を、国王ジャンメールはただ冷静に眺めていた。


「まったく、せっかく帰って来てやったのに、ガミガミうるさい奴らだ。」


豪語する王子からそっとその場を離れ、ガブリエルはリディアーヌ達の様子を伺った。幸い、サイト―が多くの貴族たちに囲まれ、商談に花が咲いていたため、ジョルジュの暴言は届いていなかった。リディアーヌはサイト―の腕が腰にしっかり回っており、困ったように頬を染めている。良かった。そう胸をなど降ろしながらも、王子が近づかないよう配慮した。そして、波乱を含んだまま、舞踏会は終わった。


本日も読んでくださってありがとうございます。

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