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4 舞踏会

4 舞踏会


「リディ、来ていたのか。どうした?」


 急に声を掛けられてリディアーヌは我に返った。目の前には心配そうなガブリエルがいる。


「あ、お兄様!何でもないんです。少し考え事を…。」

「考え事? ああ、フェムジットから魔獣が消えたから、存在意義が、とか考えていたんだろう?はぁ、私も似たようなものだ。だけど、災害や怪我や病気がなくなることはない。油断するなよ。」


 同じようにこれからの事を考えていたガブリエルが眉を下げて笑って見せれば、リディアーヌには頷くほかなかった。


「そういえば、もうすぐジョルジュ殿下が一時帰国されるそうだ。」

「ジョルジュ王子殿下というと、同盟国ルーアに長らく留学されているんですよね。」

「ああ、もうすぐ15歳か。私の結婚式の時、一時帰国されていたが、随分大きくなられていたな。」

「私は、ゆっくりお話する機会もなかったですわ。あの日は、お兄様は大変でしたし、お義姉様のことが気がかりで、それどころではなくて…。」

「ああ、そうだったな。」


 ガブリエルは、結婚式の最中に任務に飛び出して行ったことを思い出して苦笑いする。


「近々、ジョルジュ殿下の生誕祭を兼ねた舞踏会が開催されるらしい。陛下は、殿下の婚約者候補を探りたい意向のようだ。リディもシュウと一緒に舞踏会に招待されるだろう。」

「殿下もそんなお歳になられたのですね。私がお目に掛かったのは殿下が5歳の頃なので、なんだか不思議です。」


 

 いよいよ舞踏会の当日になった。サイト―も国王主催の舞踏会ということで、仕事を休んで参加することができた。


「リディ、用意はできたかい?」


 サイト―がリディの部屋を訪ねると、ちょうど準備が出来たところだった。


「うん、いいんじゃないか?」

「ゴホン!旦那様、せっかく婚約者様がこんなにも美しくされているのに、もう少しきちんとお褒めになってはいかがでしょう。」


 執事の助言にプイっと顔を背け、ぼそりとつぶやく。


「リディはいつだってきれいなんだ。何を着ていても…」


 しかし、肝心のリディアーヌには、そのつぶやきはほとんど聞こえていなかった。顔をそむけるその仕草に、微かに視線を下げただけで、なんでもないふりをしてサイト―に向き直った。


「よし、では行こうか。」

「はい。」


 馬車に乗って出かける主たちを執事ラザールと侍女のウラリーが見送った。


「まったく、旦那様の照れ屋ぶりには呆れてしまいますわ。」

「そんな風に言うもんじゃないよ、ウラリー。あれが旦那様の良いところでもあるんだから。良ーく見ていれば、どんなにリディアーヌ様を大切に想っていらっしゃるかはすぐ分かる。」

「まぁ、確かにそうなんですけどね。女性としては、もう一言、言葉が欲しいところなんですよねぇ。ああ、まどろっこしいわ。」


 王宮には、豪華な馬車が次々とやってきて、きらびやかな会場に着飾った貴族たちが吸い込まれていく。サイト―とリディアーヌも、会場へと足を運んだ。


「シュウ!なんだか久しぶりだな。メゾン・デゼンファンであったきりじゃないか?」

「そうだな。事業がうまくいくっていうのは有り難い事なんだが、こうも忙しいとな。」

「まぁ、今日はジョルジュ殿下の婚約者選びが主な目的だ。私たちはゆっくりさせてもらおう。」


 笑い合う男たちの傍で、ジゼルがリディアーヌの表情がさえないことに気が付いた。


「リディ、どうなさったの?なんだか元気がないですわ。」

「お義姉様、そんなことはないですよ。それより、その後、あの施設の子どもたちの様子はどうですか?」

「ふふ。みんな可愛いですわ。知的好奇心に満ちていて、教え甲斐がありますのよ。」


 ざわざわする会場にファンファーレが鳴り、王族の入場を知らせる。会場内はさっと静まり、みな頭を下げた。


「皆の者、面をあげよ。今日は久しぶりに帰国した我が息子ジョルジュの生誕祭だ。若者も多く出席してくれたようだな。みなで親交を深めてくれ。」


 貴族たちの王子への挨拶が終わると、ジョルジュは着飾った貴族令嬢にさっそく囲まれていて、ほとんど見えない状態だ。


「音楽が始まったぞ。国王に続いて私たちも行こう。」


 ガブリエルが声を掛け、アランプール夫妻とサイト―とリディアーヌは手を取り合ってホールの中ほどに向かった。


「あ~、その。この頃、ちっとも相手が出来なくてすまない。」

「いいえ、大丈夫です。でも、シュウジ様のお体が心配です。」


 少し寂し気な笑顔で返すと、サイト―も眉を下げた。


「もう少しで一段落になりそうなんだ。もう少しだけ、がまんしてくれるか?」

「ええ、もちろんですわ。」


 踊りながら耳元で語り合う二人は、まさしく理想のカップルに見える。その姿をじっと目で追っていた人物がいた。


読んでくださってありがとうございます。

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