22 国王たちの宴
「聖女を召喚したはずなのに ~その後~」 いよいよ最終話です。
22 国王たちの宴
季節が移ろい始める頃、領地に潜んでいた二コラの元にもやっと、王子がルーアの検問所で入国拒否されたとの噂が届いた。
「な、なに!? なぜルーアは王子を受け入れないだと?」
怒りのため、思わず報告に来ていた執事に怒鳴りつけてしまった。驚いて言葉の出ない執事に救いのような呼び鈴が鳴った。急いで玄関に向かった執事は、今度は戸惑った様子で主の前に戻ってきた。
「だ、旦那様、御来客でございます。」
「来客だと?そんな予定はないだろう。」
「し、しかし、ブリュノ・パストゥール様が…」
ミストラルの額にじわりと嫌な汗がにじんだ。執事に寄れば、セルジュの事で話が聞きたいという。侯爵の直接の訪問だ。断ることはできない。
「お、お通ししろ。」
「はっ」
そう言って、振り向いた執事の手を煩わせることもなく、ブリュノが入ってきた。
「ミストラル卿、急な訪問で失礼する。最近、セルジュ君はどうしている?」
「どう、と言いますと?…」
なかなかソファを進めないミストラルに、ちらっと視線で確認を取ると、ブリュノはさっさとソファに座り、仕方なく向いに座るミストラルを見つめた。
「最近は随分猟の腕をあげられたと聞いてね。」
「まあ、息子の趣味のような物ですからね。」
ミストラルは、探るような目で見つめるブリュノに困惑していた。セルジュが猟銃にはまっていることは知っていた。禁漁区で悪さをするなとは言っているが、最近の息子の動向など興味もなかったのだ。
「困りますね。趣味で命をもてあそんではいけません。では、ミストラル卿が指示して子供を襲わせていたわけではないということですね。分かりました。」
それだけ言うと、あっけなくブリュノは立ち上がった。
「いや、待ってくれ。どういう意味だ。セルジュが誰かを撃ったのか?」
「ええ、そうです。罪のない子どもを、禁漁区でね。セルジュ君には取り調べに協力してもらいます。」
戸口まで来てそれだけ言うと、ブリュノはドアに手を掛けた。そして、思い出したように告げた。
「そうそう、あなたにも近々出頭命令が下ります。お楽しみに。」
「は?なんだと!」
ブリュノを追いかけようと立ち上がったミストラルに、答えを返す者はいなかった。
「よぉ、ジャン!!」
「おお、よく来てくれたな、レオポルド!マルクの葬儀以来か。」
「マルクの奴め、さっさと逝ってしまいやがって、3人でうまい酒を飲む約束をどうするんだ。まぁ、グレース嬢がついてくれたから、あの国も大丈夫だろう。」
今日はジョルジュの王太子任命式と婚約発表だ。この威勢のいいイケオジはルーアの国王で、ジョルジュの婚約者となったアンジェリカ王女の父でもある。ジャンと気軽に呼んでいるが、相手はジャンメール・エルヴィシウス国王その人だ。
「そうであってほしいものだ。こたびはレオにも随分迷惑をかけてしまったからな。」
「まったくだ!お前のせがれのせいで、うちの貴族たちは大騒ぎだった。しかし、おかげでふるいに掛けやすかったよ。ふふ。おまえのところも掃除が出来た様だしな。終わりよければすべてよしだ。」
イケオジ国王たちが、やれやれと乾杯して一息入れているとアランプール夫妻とサイト―達が挨拶にやってきた。
「おお、ちょうどよかった。こいつは弟アンドレの息子でガブリエル・アランプールだ。魔力が強いので魔術師団長をやっている。」
「ああ、君が聖女召喚をしたのか。噂は聞いているよ。魔物の討伐では大活躍だったらしいなぁ。」
「恐縮です。」
「奥方は相当な戦略家だと聞いているぞ。ジャン、彼女がいる間は、エルヴィシウスには絶対攻め込まないぞ。」
「わっはっは。賢明だな、レオ。それから、こちらが、ガブリエルが召喚した聖女、のはずだったサイト―卿とガブの妹で聖女のリディアーヌだ。二人の結婚式も近いぞ。」
二人が会釈すると、レオポルドはサイト―の両肩をガシっと掴んで頷いた。
「よくやった!献身的な介護で聖女の視力を取り戻したそうだな。」
「ああ、ありがとうございます。」
「そうかそうか。リディアーヌ嬢もすっかり聖女らしくなったな。我が国には聖女がいないんだ。大災害が起こった時には、助けを求めるかもしれんぞ。よろしく頼む。」
その言葉に、サイト―は慌ててリディアーヌの腰に手を回して引き寄せる。そしてジャンメールが割って入った。
「おい!そういうことは私に頼んでもらわねば困るな。」
「はっはっは。それもそうだな。結婚式が近いんだって?いいなぁ、若いもんは。ラブラブじゃないか。」
「後でサイト―卿のワガシと緑茶をごちそうしよう。いずれレオの国にも流通させたいと思っているんでな。」
4人が一礼すると、ジャンメールはゆっくりしていってくれと手を振った。
「それにしても、アンジェリカ嬢は納得しているのか?ジョルジュはまだまだ頼りないところがあるが…。」
ちらりと本日の主役を見ると、貴族たちから順々に挨拶を受けている。アンジェリカの胸元には、深い青のペンダントが輝いていた。レオポルドは片眉を器用に上げてにやりっと笑うと、ぼそりと呟いた。
「後悔するのは、坊主の方かもしれんぞ。」
「え?」
驚くジャンメールに、クイッと顎で本日の主役を差すと、その意味が分かった。疲れて背中を丸め始めたジョルジュを笑顔で支えながら、気づかれないようにお尻をきゅっとつねっているアンジェリカの姿が目に入ったのだ。
「ふふふ。いい塩梅だな。」
「だろ?」
二人の国王がグラスを傾けるそばでは、王妃たちが呆れたようにため息をついて仲良く緑茶を啜っていた。
おしまい
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