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20 二コラ・ミストラルという男

20 二コラ・ミストラルという男


***


少し時間が遡るが、ジョルジュがフェムジットのメゾン・デゼンファンに入った頃、貴族の夜会では、その噂が瞬く間に広がっていた。周りの貴族たちと談笑していた二コラ・ミストラルはイヤな予感に苛まれていた。


「かわいそうな孤児の館に入ったところで、享楽の味を占めた坊やが、簡単に更生されるとは思わないが…、あの駒はなにをやっているのだ。」


 ベランダに出て、夜風にあたりながらぽつりとつぶやく。野心家の二コラは学生時代に第3王子だったシリルと知り合った。貴族社会では、王族とのつながりで力関係も変わってくる。前王が亡くなった後も、公爵となったシリル・バイヤールを献身的に支え、周りからも一目置かれる存在になっていった。

 二コラの思惑は、公然の事実として囁かれていた噂に寄って打ち砕かれた。シリルには、王族ならではの強い魔力がないというのだ。王族の証とまで言われていたサファイアの瞳を持たないシリルは焦っていた。そんな時、二コラはシリルから思わぬ計画を持ち掛けられたのだ。王位継承者を亡き者にして、自分が玉座に座るのだと。

 難色を示す二コラに、自分の本当の魔力を見せてやると豪語したシリルは、数日後に起こったアランプール公爵夫妻の馬車転落事故がデカデカとトップ記事に載っている新聞を持って再び二コラの前に現れたのだ。教会で計測される魔力とは違う本当の魔力を見せつけられたと思った二コラは、すっかりその力に魅了されてしまったのだ。


「まったく、愚かだったな。あんな男に加担してしまうとは。」


 魔力など持たない二コラは、時間をかけて巧妙に仕掛けていった。間者を仕入れ業者に紛れさせ、王族に提供される野菜に遅効性の毒物を混入させたのだ。目論見は半分うまく行った。王妃は体調を崩し、臥せっていると聞く。しかし、野菜嫌いの国王はそれを口にしていなかったのだ。次の手を考えている時、ふと、現王の王子が姿をくらましていることに気が付いた。色々調べて見ると、ルーア王国に留学させているというのだ、たった5歳の子どもを。

 国王が何かに気付いていると悟った二コラは、王子の命を狙うのではなく、国王に相応しくない人物にしてしまえばいいと考えたのだ。それには、自由に使える駒が必要だった。二コラは自身の妻ドロテの幼馴染に魔力持ちの息子がいると聞きつけると、伝手をたどって金で動いてくれる魔術師を見つけ出した。洗脳が得意なその魔術師は、ドロテやその幼馴染の姉妹を洗脳した。残念ながら侍女として王子に付けるのはうまく行かなかったが、王女の結婚式に参列するため帰国してきた王子に洗脳された婦人の息子エリクを近づけたのだ。


「そう、確かにあの作戦はうまく行った。派手に遊ぶ王子のお陰で、こちらに入っている金には誰も気づかなかった。なにも今更孤児の家などに行って、更生などしなくても良いのだ。頭の悪い王子は、そのまま生き恥を晒しながら、私の糧になっていれば良い。問題はアランプールか。」


 洗脳された婦人のもう一人の息子は魔力を持っていた。王宮魔術師団にいれ、アランプール公爵の若き後継ぎガブリエルに近づけたのだ。

 二重三重の仕掛けで、万事うまく回るものと思われた頃、魔獣の出現が多くなってきたのだ。ガブリエルが聖女を召喚したところから、どうにも二コラの計画に狂いが出てきたのだ。


『なにをやっているんだ。聖女はどうした?!王宮魔術師団長が聞いてあきれるな!』


せっかく説得して大人しくさせていたシリルを、魔術師団長として名高いガブリエルの聖女召喚が刺激した。やってきたのが聖女ではなく男だったことで、シリルの虚栄心が頭をもたげたのだ。何かとガブリエルに突っかかり、ついには国王に注意されるまでになっていた。


「もうあの頃には、あいつはおかしくなっていたんだろうな。」


 二コラは成長した自分の息子セルジュをシリルの私設騎士団に入団させていた。シリルが国王になったら、そのまま騎士団長にする計画だったのだ。ところがシリルは国王からの咎めに逆上し、あろうことか私設騎士団を連れ、どぶ掃除と称して貧民街を襲っていたのだ。


「やぁ、ミストラル卿。久しぶりだな。」


 声を掛けてきたのは、ルフェーヴェル子爵だ。そう言えば、ここの令嬢も王子について同盟国に渡っていたはずだ。二コラはさりげなく、話を振ってみた。


「そう言えば、ご令嬢は王子付きで長らくルーアにいたそうだな。」

「ああ、ここだけの話、なかなかのわがままぶりで、苦労していたようだ。休暇をもらって今は領地でゆっくりしているが、おかげで忍耐力が付いたと言っていたよ。そういえば、卿のところのご令息は息災か?なにやら揉め事があったようだな。」

「ああ、もう2年も前の事だ。しかし、まさかあのプランタード男爵が薬物を扱っていたとはな。息子とは縁がなくて良かったよ。」

「確かにな。しかし、まさかあのプランタード男爵がなぁ。私は未だに信じられないよ。だれかに陥れられたんじゃないんだろうかと思うね。まぁ、明日は我が身だ。お互い気をつけよう。」


 夫人がやってくると、ルフェーヴェル子爵は軽く帽子をあげて去っていった。その姿が見えなくなるまで注意深く見送って、二コラはふうっと大きく息を吐いた。息子セルジュがプランタード家の令嬢に入れあげ、挙句に振られたと聞いた時は、素晴らしいタイミングだと思ったのだ。上質の野菜を献上しているプランタードに毒の罪をかぶせれば、息子の気も晴れるだろう。そう思って無理やり罪を着せて爵位を剥奪させた。ところがシリルが貧民街を襲ったことで、プランタード男爵は本当にこの世から消え去ったのだ。

 目の上のたんこぶだったシリルも、とうとう国王の怒りを買って投獄されている。ここからはしばらく大人しくしている方がいいだろう。二コラは、それからしばらくは夜会に参加せず、王子の留学再開を静かに待つことにした。


***


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