19 父の想い
19 父の想い
ジョルジュは目を見開いて父の目を見つめた。
「あの頃、私の失脚を狙って、いろいろやらかしていた奴がいてな。私の守りが堅いと分かると、アンドレや王妃の命を狙う様になった。そして、アランプール夫妻は事故に見せかけられて亡くなり、王妃も体調を崩して衰弱していった。その時、私は考えたのだ。次に狙われるのは誰か、と。」
「つまり、僕だと?」
「そうだ。そこで、お前を簡単に手出しできないようにルーアに留学させることにしたんだ。影には、お前の命を守ることを最優先とするよう命じていた。ブリュノが随行できなかったのは、こちらの捜査に入ってもらうためだった。」
「そ、それじゃあ、周りから言われているみたいに、僕が父上たちに愛されていないというのは、完全なウソだったんですか。」
「誰がそのような噂を!いや、確かにたった5歳の幼子を留学させるのは、子どもには冷たい仕打ちになっていただろう。すまなかった。ただ、お前を守りたい一心だったのだ。ルーアの国王は、幼いころからの親友でな。お前の事もしっかり守ってくれると約束してもらったのだ。しかし、その犯人もやっと見つけ出すことが出来た。もう、いつ帰って来てもいいと思っていたのだ。」
ジャンメールの目が国王ではなく、父親の眼差しになって息子を見守っていた。そんな中、ジョルジュははたと気が付いた。
「あれ、そう言えば、シリル叔父上にお目に掛かっていないですが、もしかして…。」
「そういうことだ。幸い、サイト―卿が来てくれたおかげで、王妃の体調も良くなった。リディアーヌも視力を取り戻していただろう?」
「やはり、サイト―殿のワガシは、不思議な力を持っているんですね。」
「ああ、あんなに飄々としているのに、リディに暴漢が襲い掛かった時は、身を挺して助けてくれた。」
「そう、なんだ。」
ジョルジュには想像できなかった。あんなにへらへらといつも笑っているだけの男に、それだけの覚悟があったとは。いや、そうじゃない。きっとそれだけあの二人は、深い愛情で結ばれているんだろう。将棋を教えてくれた時の、知的な表情を思い出して、すっとわだかまりが消えた気がした。
「さて、お前には大きな任務があるぞ。私の親友にかけた迷惑を償ってもらわなくてはな。まずは、グレースを訪ねて隣国コロージオに行きなさい。そして、グレースに間に入ってもらって、ルーア王国に謝罪に向かう許しをもらってくるように。」
「姉上は、僕の話を聞いてくれるでしょうか。」
「それは、お前の態度次第だ。今までも、お前のやらかしに波風が立たないように間に入ってくれていたのだ。きっと協力してくれる。」
「姉上…。分かりました。」
ジョルジュは、日を改めてコロージオに向かう準備を始めた。ブリュノはエリクの扱いに悩んだが、一旦実家に帰すことにした。
領地に帰るように言い渡されたエリクは、途方に暮れていた。ルーアに向かうと宣言してきたのに、今更帰れるのか。
「エリク、殿下が馬車をだしてくださるそうだ。あれに乗って領地に戻れ。たぶん、ミストラル子爵のことで、ご実家も大変な状況だと思う。自分がするべきことは何か、しっかり考えろよ。」
ブリュノに送り出されて、エリクは自分の領地に戻っていった。馬車に揺られながら、ふと、内ポケットに何か入っていることに気が付いた。兄からの手紙だ。途中で情けなくなって読むのをやめていたが、帰る前には確かめておこうと、内ポケットから取り出し、続きを読み始めた。
『おまえもすでに気づいていたと思うが、やはり母上はミストラル家に依存していたようだ。今回の事で半狂乱になって、お前を今回の画策の駒に使ってまで協力したのにと暴露していた。父上の怒りは限界を超えて、離縁すると決断された。あの人たちの悪だくみの内容ははっきりしないが、今のお前の立場が揺らいでしまわないか心配している。もし、今の場所に居られなくなっても、大丈夫だ。おまえには、ちゃんと帰ってくる場所がある。』
「兄上…。」
震える便箋の上に、ぽとりとしずくが流れ落ちた。
ジョルジュがコロージオに出発する日が来た。
「陛下、いろいろとご迷惑をお掛けしました。姉上に協力を仰ぎ、ルーア国王に謁見できる様、お願いしてきます。」
「うむ、しっかりな。」
「陛下、こちらを。」
隣に並んでいた王妃が小さな箱を差し出した。
「これは、お前がフェムジットで見つけた原石を磨き上げたものだ。おまえにとっての初めての労働への報酬として渡しておこう。」
掌に隠れてしまうほどの小さな箱を開けると、深い青が存在感を放っていた。宝石など、身近にあったはずのジョルジュだったが、その高貴な輝きに言葉を失った。顔をあげると、穏やかな両親の視線が自分を見守っている。
「ありがとうございます。では、出発します。」
ジョルジュは小さな箱を大事に内ポケットにしまうと、両親に深々と頭を下げて、馬車に乗り込んだ。
小さくなる馬車を見つめながら、ほっと肩の力が抜けるようなため息が漏れる。
「どうした?」
「ふふふ。随分大人になりましたね。」
「ああ、ルーアで受け入れられたら、こちらも王太子としての任命式の準備をせねばならないな。」
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