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18 後悔

18 後悔


「その先輩というのは、私の事ではないな。」

「ええ、騎士学校の先輩で、セルジュ・ミストラルさんです。彼は子爵嫡男で、俺より貴族社会の事に詳しいからって、いろいろアドバイスしてくれたんです。」

「セルジュ・ミストラルだって?!おまえはミストラルの手先だったのか?!」


 ジョルジュは思わずエリクに詰め寄った。悔しさに握りこぶしが震えている。それでも、エリクをそれ以上責めることはできなかった。己の愚かさを知った今では、エリクだけの責任ではないと、分かっている。


「エリク、先に伝えておこう。お前が領地に戻っている間に、ミストラル子爵の悪事がいろいろと発覚してな。今頃は、爵位を剥奪されているかもしれない。後は陛下のお考え次第だ。」

「ええ!それはヤバい!母上に知らせなくちゃ!」

「母上?」


 うろたえるエリクを問い詰めると、貴族の夫人たちの横のつながりが見えて来た。エリクの母・クレマン男爵夫人と、その姉でリュカの母・バレーヌ伯爵夫人は、ミストラル子爵夫人と幼馴染だという。そして、ミストラル子爵夫人がミストラル家に嫁いだころから、夫人たちの考えが偏りはじめ、クレマン家では、男爵やアルフォンスが夫人と言い争うことが多くなっていったという。


「つまり、おまえは私の指示よりミストラルの指示に従っていたというのか。まったく!殿下のお気に入りだからという理由だけで、お前を同行させたことは大きな間違いだったな。」

「じゃあ、どうしてブリュノ様は同行されなかったのですか?」

 

 ビクビクしながらも、エリクは問いかけた。


「お前が知る必要はない。それより、市井での殿下の身勝手に見える振舞いも、貴族令嬢たちを無理やり集めさせて豪遊するように仕向けたのも、全部ミストラルからの指示だな。良く分かった。」

「お、俺は、なんて愚かなことを…。」


 気が付くと、ジョルジュが頭を抱えてうなだれていた。


「はぁ~。コレット、悪いがお茶を入れてくれな…え?」


 ブリュノが隅に控えていた侍女に声を掛けようとして振り向くと、激しい怒りをあらわにした少女に慄いた。


「殿下の御前ですが、どうしても我慢できませんので、失礼いたします。」


 そう前置きをすると、すたすたとエリクの前までやって来て、いきなりパチン!と平手打ちをかました。


「自分だけ可哀そうみたいに言うんじゃないわよ!たった5歳で見知らぬ国に放り出されて、殿下がどれだけ不安だったのか、あなただって知っていたでしょう?弱った心に付け入るようなことをして!それもやっぱりミストラルの差し金だったのね!」

「こ、コレット。どうしたんだ?!」

「殿下、申し訳ございません。後でどんな処分でも受け入れますので、もう1発殴らせてください。これは、私の親友のマリアンヌの分です。」


 そう言うや否や、握りこぶしに力を籠め、腰の入った一発をエリクの顔面に打ち込んだ。


「いってぇ。何するんだ!」

「マリアンヌは、あんなわがままな男のせいで、行方不明になってしまったのよ!お家も無くなっていたわ。あんな善良な人たちが、どうして糾弾されなくちゃならないの?」

「マリアンヌ?…もしかして、マリアンヌ・プランタードのことか?」


 うなだれていた頭をパッと上げて、ジョルジュが声をあげた。


「ご存知なんですか?」

「ああ、メゾン・デゼンファンで元気に暮らしている。フランシスも一緒だ。」


 その言葉に、コレットの瞳からぽろぽろと涙があふれて来た。


「良かったな。では、落ち着いたらうまいお茶を淹れてくれ。殿下、いろいろと見えてきましたね。一度王宮に戻って、陛下と話を詰めた方がいいでしょう。」

「ああ、そうだな。やはり、ブリュノがいてくれて良かった。」


 ジョルジュの言葉に、エリクは唇をかみしめた。痛いのは殴られた頬だけではなかった。



 王宮に到着すると、ジョルジュは早速国王に謁見を申し入れた。エリクはブリュノの指示で、一旦王宮内の王子の部屋の控室に待機を命じられた。その時、文官から、一通の手紙を渡された。


「あれ、兄上からだ。」


 封筒には、ルーアにいるであろうエリクに届けてほしいと書き加えられていた。中を開くと、やはりミストラル子爵が爵位を剥奪されて、王都から逃れた旨が書かれていた。手紙は続いていたが、もう読むのも辛い気持ちだ。エリクは深いため息をついて、手紙を封筒に戻してそっと内ポケットに入れた。


 国王との面会が叶ったジョルジュとブリュノは、早速謁見の間にやってきた。


「父上、いや、陛下。この度は僕の失態で我が国に恥をかかせるようなことになってしまったこと、心からお詫び申し上げます。」

「うむ。事の次第は先ほどブリュノから報告をもらった。おまえをたった5歳のうちからルーアに送り込んだのは私だ。影からの報告も入っている。もっと早くに戻って来れるようにするべきだった。」

「戻って来れるように? とは、どういうことでしょう。」


 国王は、少し考えた後、意を決してその真意を伝えた。


「お前を留学させる少し前に、私の弟・アンドレ・アランプール夫妻が事故に遭ったことは覚えているか?」

「ええ、覚えています。確か、あの事故のせいでリディアーヌの視力が無くなったと聞いています。」

「そうだ。あの事故が、誰かの手によるものだったとしたら、どう思う?」


読んでくださってありがとうございます。

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