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16 クレマン男爵家の心配事

16 クレマン男爵家の心配事


 ジョルジュがメゾン・デゼンファンに滞在している間、エリクは王宮の南にある領地に戻っていた。彼はクレマン男爵の次男だ。領地に帰ると、不満顔の母が待ち構えていた。


「やはり、あなたも受け入れてもらえなかったのですか?」


 あなたも?と疑問に思いつつ、お気楽なエリクは長期休暇をもらったのだとごまかしていた。

 その夜、気分が悪いと食事の席に母は姿を見せなかった。静かな食卓で、クレマン男爵が声をあげた。


「随分前の話になるが、王宮で聖女様が襲われた事件を覚えているか?」


長男・アルフォンスは手を止めて、静かに頷いた。エリクは興味のない話には無頓着で、きょとんとしていたが、父から大まかな話を聞いて、思わず顔をしかめた。


「うわっ、やばいねぇ。」

「これは、他人事では済まされない話なんだ。あの事件を起こしたのが、お前の母上の姉の子ども、つまりお前たちの従兄弟リュカ・バレーヌなんだ。リュカは投獄されバレーヌ家は領土の半分を国に返し、嫡男は伯爵と共に信用を取り戻すべく、懸命に動いている。」


 王子についてルーアにいたエリクには、寝耳に水の話だ。しかし、アルフォンスは深いため息をついた。すでに父の仕事を手伝っている彼は、その事件以来商談に手間取ることが多く、悪い影響が出ているのだ。


「この度、ジョルジュ王子がフェムジットの施設に入られたとのうわさは聞いたが…。エリク、お前の休暇とやらと何か関係があるのではないか?」


 食卓がしんっと静まった。話すべきか、黙っておくべきか、エリクは逡巡した。アルフォンスの視線が痛い。

学校の成績もよく、礼儀正しい兄は、先生の覚えもよく、エリクはいつも兄と比べられていた。その自分が、どういう訳かジョルジュに気に入られて異例の取り立てとして、王子付きに選ばれたのだ。はじめて兄に勝てたと思った。ここで失敗を認めるわけにはいかない。


「陛下が、反抗期の王子にいろんなことを学ばせようとされただけだよ。僕もずっとルーアに行ったままだったから、リフレッシュさせてくださったんだと思う。王子の通う学校の長期休みが終わる前にはまたルーアに同行することになるからね。」


「…、そうか。」


 父の反応はそっけなく、エリクは背中に冷たい物を感じていた。



 ルーアの新学期開始が迫って来ても、王宮からの手紙は届かなかった。それでもエリクは何食わぬ顔で荷物をまとめ、王宮に向かう準備をしていた。そこに、兄アルフォンスがやってきた。


「もう、行くのか?」

「ああ、向こうの新学期が迫ってるからね。」

「そうか。」


 そのまま荷造りする弟の様子を眺めていたアルフォンスは、独り言の様に話し始めた。


「お前は、小さいころから母上やリュカに似て、わがままで他人の意見を聞かない性格だったから、心配だった。だけど、せっかく王子付きになれたんだ。本当に大切なことは何なのかよく考えて、行動は慎重にな。迷った時はパストゥールさんを頼れ。クレマン家はお前を誇りに思っている。がんばれよ。」

「兄上…。ありがとう。」


 兄からの意外な励ましに、思わず胸が熱くなる。荷物を馬車に積み込むと、両親が見送りに出て来た。不機嫌そうな母と、決して笑顔にならなかった父に見送られ、エリクは王宮に戻っていった。



 ジョルジュが再び王宮に戻ってきたのは、留学先ルーアに戻る3日前だった。


「父上、先日のプランタード男爵への配慮、誠にありがとうございました。」

「いや、私の目の届かないところで、このようなことがあったとは、ジョルジュ、よく民の声を汲み取ってくれた。ミストラル子爵についても、追って沙汰を下す。ところで、もうガブリエルの悪だくみとやらを追求しなくても大丈夫なのか?」


 国王はにやりと口角をあげる。いつもなら突っ張って反発する所だ。ブリュノはひやひやしながら王子の様子を伺った。すると、王子は、すっと顔をあげ、すっきりとした顔つきになって答えた。


「おr…僕の誤解だと分かりました。ガブリエルやリディアーヌには失礼なことをしたと思っています。それから、サイト―殿にも。」

「ほう、随分成長したな。」

「あの施設で、多くの仲間に出逢いました。貧しくとも、ちゃんと前を向いて頑張っている姿を見せてもらって、…ショックでした。もう一度、勉強しなおしてきます。あっ!そうだ。これを。メゾン・デゼンファンで偶然見つけた原石です。」

「そうか。これは専門の機関に送っておこう。それでは、卒業までの半年、しっかりと学んできなさい。今回はブリュノを同行させる。」

「はっ。」


 荷物を整えて馬車に乗り込もうとしていると、エリクが駆け寄ってきた。


「殿下、今から出発ですか?では、俺が荷物番になります。」

「いや、お前は今回、呼ばれていない。下がってくれ。」


 エリクの目の前に立ちはだかったのは、ブリュノだった。


「せ、先輩。それはひどいですよ。向こうの事情は俺の方が詳しいんですから。」

「陛下の許可が出ていないだろう。ダメだ。」

「むぅ~、先輩のケチ!」


 ふくれっ面のエリクは馬車から降ろされ、馬車は早々に出発した。


読んでくださってありがとうございます。

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