10 疑心
昨日おでかけしていたからか、お寝坊してしまいました。汗
急げ、更新!
10 疑心
「リディ、今日は色々見せてくれてありがとう。勉強になったよ。」
王子は珍しく素直に王宮に帰っていった。その姿に一抹の不安を覚えながら、サイト―とリディアーヌは馬車が去るのを見送るのだった。
王宮に戻ったジョルジュに国王からの呼び出しがあった。突然洋菓子を手配させたことが国王の耳にも入っていたのだ。
「ジョルジュ、フェムジットに出向いたそうだな。」
「ええ、いろいろと勉強させてもらいました。父上が貧しい国民にも心を砕いていらっしゃることも、聖女が子供たちを癒していることも良く分かりました。それから、驚いたのは、ガブリエルとサイト―が、共謀して我が国の財宝を狙っていることもね。」
ジャンメールの眉がピクリと動いた。突然の事に、王妃はなんとかとりなそうしたが、国王はそれを制した。
「それで、お前はどう動くつもりだ。」
「もちろん、悪者は成敗しなければなりません。」
にやりと口の端を歪め、自信たっぷりのジョルジュが言い放つ。ジャンメールは目を細めてその姿を凝視した。
「ジョルジュ、お前に一つだけ教えてやろう。お前が同盟国ルーアに留学している間に、我が国ではたくさんの事が起こっていた。ブリュノからの報告は確認しているか?今、見えていることだけが全てではない。それだけは、肝に銘じておけ。王太子として相応しいかどうか、見極めることにする。」
「ふっ、楽しみにしていてください。」
ジョルジュが勝ち誇ったように国王の執務室から出ていくと、とたんに王妃が深いため息をついた。
「グレースから聞いていた噂はどうやら本当の様ですね。やはり、ブリュノを留学先に付けておくべきだったのでしょうか。」
「終わったことは仕方がない。この帰国期間中に、どこまで視野を広げられるか、だな。明日から、少し国内情勢について学ばせよう。」
自分の執務室に戻るジョルジュの後を、小走りに付いて行くブリュノは頭を抱えていた。
「殿下、何を企んでいるのですか?」
「企んでいるだと?失礼な!俺は、忙しい父に替わって不正を正そうとしているだけだ。」
ブリュノは言葉を失った。自分に隠れて聖女に会いに行った挙句、国の事業として進めようとしているメゾン・デゼンファンにまで出かけ、いったい何を見つけたというのだ。あの施設に関わっているのは王宮魔術師団と聖女、それにサイト―だけだ。いずれも国への貢献度の高い人物ばかりだというのに。
王子が反抗期真っ盛りだという事は、分かっている。しかし、報告書も読まずに、この国の現状が分かるはずもない。そのうえで誰かを裁こうなど、とんでもないことだ。下手をすれば、王太子への道が閉ざされるかもしれないのだ。
「あ~、疲れた。おい、エリクはいるか?けん玉というものを探してくれ。」
自分の執務室に入るなり、王子はエリクを呼びつけた。ブリュノは慌てて控えの報告書を持ち出した。
「殿下、今のうちにお届けしていた報告書の控えに目を通しておいてください。」
「ああ、分かった。後で読む。机の上に置いておけ。俺はちょっと散歩してくる。」
エリクがいないと分かると、ジョルジュはさっさと部屋を出て行った。しばらくすると、中庭の東屋にたまたま来ていた貴族令嬢たちと姿を現し、楽し気に笑っている。ブリュノはそっと胃を押さえて息を吐いた。
「ブリュノ様、もしよろしければ、これを。」
差し出されたのは胃薬だった。しかし、苛立ちが募っているブリュノは素直に受け取る気になれなかった。
「君はいつから私の侍女になったんだ?殿下の上着の袖口のボタンが緩んでいたぞ。殿下に恥をかかせないよう、気をつけろ。」
「申し訳ございません!」
侍女は悲し気な表情を隠す様にして、下がっていった。それを見て、再び胃が悲鳴を上げる。こんなはずではなかったのだ。殿下は幼いころから見てきたが、もっと素直な少年だった。留学先ですっかりわがままになってしまった。あの調子では、留学先に同行した者たちも相当苦労してきただろう。先ほどの侍女もその一人だ。
突然、突き放す様に留学を言い渡された時の国王の厳しい顔と、悲し気な王妃の瞳を、ブリュノは忘れない。まだ、王子付きの側近として就き始めて間もない頃だった。それなのに、国王はブリュノを同行させず、護衛と侍女たちだけを同行させたのだ。あの時、王族ではどんなことが話し合われたのだろう。
物思いに耽っていたブリュノは、ふと殿下の机の隅に、握りこぶしほどの岩が置かれているのに気が付いた。そう言えば、メゾン・デゼンファンから帰ってきたときも、これを握り締めて何か考え事をしていた。そっと手に取ってみて、ブリュノはギョッとした。ごつごつした岩肌の裏側にわずかに見える青い輝きがあるのだ。
これは、ガブリエル殿が陛下に献上された物だ。殿下はこれを一体どこで…。
ブリュノは早速王宮の馬車が並ぶエントランスに出向いた。そして、担当御者に確かめ、頭を抱えた。王子を迎えに施設の前まで歩いて行った御者は、ジョルジュがポケットにそれを入れるまさにその瞬間を目撃していたのだ。
外は夕闇が迫っていた。御者が帰りたそうにソワソワし始めたので、ブリュノはそれ以上問いただすのを諦めた。深いため息とともに門の外を見ると、ちょうどサイト―家の馬車が通り過ぎるところだった。ほんの一瞬見えたのは、疲れた顔のリディアーヌだった。崩落事故の後も、誰かの怪我で出かけていたのかもしれない。
そうか、使命を持った者は、誰かに褒められなくとも、粛々と任務をこなしている。自分も頑張らねば。まずは、目の前の自分の仕事をこなそう。
読んでくださってありがとうございます。




