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366 検知の事

 隼人(はやと)はまさか茉莉(まつり)相手に力で押されるとは想像もしていなかった。

武闘大会は既にベスト十六人からベスト八人を決める戦いとなっていた。

トーナメントAには、蘇芳(すおう)紫紺(しこん)小隊員 (すばる)対紫紺小隊員 茉莉対隼人 君崇(きみたか)対紫紺小隊員

トーナメントBには、 晋衡(くにひら)対紫紺小隊員 (あずま)惟継(これつぐ) 智衡(ともひら)春純(はるすみ) 春臣(はるおみ)春家(はるいえ)

AB別会場で行われている試合は、ここまででトータル三試合が終了し、これが四試合目だ。

先の三試合で勝ち進んだ蘇芳、昴、晋衡は、三人とも相手が紫紺小隊員だった。四試合目になって、隼人対茉莉。奥州同士の戦いであるから、他の試合に比べて注目度は低いが、茉莉がたった一人勝ち進んでいる女性であるため、女性の支持層は厚い。

 試合開始から茉莉は透明な箱型結界を足場にして宙を駆け回るアクロバット戦法。晋衡仕込みの自由な戦い方に、女性特有の柔軟さと軽さが加わると、まるで舞っているかのように美しい。藤黄(とうおう)色の髪がふわふわとするのが、蝶の鱗粉が舞うように蠱惑的だ。

 隼人は茉莉の軽い身のこなしは想像していたので、翻弄されぬように冷静さを保とうとした。

 これが一対一の戦いである以上、茉莉はずっと舞っている訳にいかない。どこかで仕掛けて来るはずだ。隼人はそのタイミングを見計らって攻撃をせんと思っていた。

 そして、案の定、茉莉が宙を蹴り上げてくるっと一回転した拍子に、そのままの勢いで隼人に刀を下した。隼人はすかさず反応して、刀を受け止めた。刀同士がぶつかる激しい音がした。

隼人は茉莉の軽い刀を薙ぎ払うつもりだった。

 けれど、それが誤算だった。

 「負荷。」

茉莉が一言発すると、刀の重さがずしっと増した。隼人が驚いていると、茉莉は容赦なく言った。

 「負荷、負荷。」

ずし、ずし、とまた刀が重くなり、隼人の腕力では薙ぎ払えなくなった。何か別の方法で対抗せんと思うよりも早く、茉莉が更に言った。

 「負荷、負荷、負荷。」

 「ちょおっ!マジか!待て待て!重い重い!」

茉莉の刀の重さに耐えきれなくなった隼人は、自分の刀を下ろさざるを得ず、切っ先が地面についた。

 「負荷。」

 「嘘だろ?これ以上負荷かけたら茉莉ちゃんだって持ち上がらんて!」

地面に突き刺さっていく刀を見捨てて、丸腰で戦う手段はあるが、刀を持っている茉莉に肉弾戦を挑んで勝機があるか?

 隼人はまさか茉莉相手に力で押されるとは想像もしていなかった。

 「負荷。」

 「わぁ!負け負け!降参!俺の負け!」

隼人としては、茉莉に唯一勝てるとしたら、男である事だけだと思っていた。それは力。単純な力比べであれば勝てる。そう思っていたのだ。けれど、それは大きな間違いだった。ならばもう勝つ手立てはない。だから負けだ。

 悪あがきしない隼人のあっさりとした降参に、茉莉はつまらなそうに攻撃をやめた。

 そして、負荷しまくった刀をひょいっと持ち上げると、肩に乗せて言った。

 「もうちょっと頑張りましょうよ。」

 「うわ、それ持ち上がっちゃうんだ…。」

 もう絶対に勝てないって。隼人は茉莉をゴリラ女子だと思ったが、口が裂けても言えなかった。

 「茉莉ちゃん、いつから筋肉狂信者になったん?」

 「術力負荷に耐えうるのは筋肉じゃありません。術力器官を鍛えれば良いんですよ。」

親切そうに教える茉莉の笑みに、隼人は意味が分からず何も答えられなかった。

 観客席からは割れんばかりの歓声が響いていた。


 ◆


 その後、君崇と紫紺小隊員の試合があり、君崇が勝ち残った。

 在仁(ありひと)は相変わらず病室から観戦しているが、先に敗退したメンバーがここで一緒に応援しているので、以前よりも賑やかだ。そして君崇の試合があるとなると、真珠(しんじゅ)もやってくる。大所帯になると、ここは病室ではなくパブリックビューイング会場に様変わりする。

真珠は在仁の隣で試合を応援していたが、やはり見て居られないと言って顔を覆っていた。

戦いというものを知らない真珠にとって、武闘大会は野蛮で危険な意味不明なお祭りなのだろう。勝敗などどうでも良いから、無傷で帰って来て欲しい。そう願う真珠の温かさに、きっと君崇も救われているはずだ。

 在仁は、ここまでの戦いで、とうとう紫紺小隊平隊員が全員敗退した事に気付いた。残っているのは紫紺小隊長の蘇芳と、副小隊長の茉莉だけだ。天下の紫紺小隊もここまでとなると、いよいよ大詰めだという気がして来る。

 配信は、次の試合までの間、これまでのハイライトと、これからの試合の解説タイムに入っていた。

 君崇の勝利をもってトーナメントAの試合は終了し、残っているのはトーナメントBだけだ。


 ◆


 トーナメントAの試合が終了したというのに、トーナメントBの試合がまだ残されているのは、試合時間をずらす事ですべての試合を観戦できるように、という配慮だった。

 そんな配慮で、東と惟継の試合は少々遅く開始された。

 一部界隈では「筋肉狂信者」で通っている東の刀は、一撃一撃がとにかく重い。いちいち受けていたら身が持たないので、避けてかわし、反撃の機会を探す事が望ましい。

 「殺す気か!」

 武闘大会では殺しはご法度。惟継が東に向かって叫ぶと、東は何でもなさそうに笑った。

 「これしきで死ぬタマだったら、とっくに死んでるでしょ。」

 「俺は頭脳労働派なのだ。知らぬのか!」

 「知らないわぁ。だって、最強の武士なんでしょお?」

言い合いながらも、東の重いのに早い斬撃が惟継を襲う。惟継は問題なく避けながらも、隙を見付けるに至らない。

 「誤解だ。勝手に押し付けられた称号に迷惑していたのだ。いつでも返品してやる!」

 「あっらぁ、そんな事言ってぇ。その称号が欲しくてたまらない人がどれだけいると思っているのかしらぁ。恥じない生き方をしないとねぇ。武士たちのお手本として。」

避けてばかりの防戦一方に見えるが、実際のところ、東の猛攻を避けきっている事実が凄い。東は惟継の視線を読みながら、先んじて攻撃を仕掛けるが、惟継はその攻撃を易くかわす。互いに視線と動きの読み合い。これは心理戦に突入している。

 だから東は話を続けるのだ。惟継を乱そうと。

 「武士の手本となる者は他にいよう。俺では荷が重い。」

 「そうかしら。綿毛ちゃんは惟継殿の事が大好きだけれど。綿毛ちゃんの目が狂っていたとでも?」

 「在仁殿は博愛だろう!」

東の斬撃を避けた時、余波で起こった風が惟継の髪を乱した。土埃が舞って、全身に浴びた気がすると、惟継は不快そうに肩を掃った。

 「これだから荒事は好かぬ。」

惟継は雅を愛する貴人だ。平家運営において武士たる義を問いながら、自分自身は貴族ぶって雅に興じる、まったく掴みどころの無い人物だ。戦い方も同じで、のらくらと避けてばかりで、掴ませない。

 東はこの、のらくら男の相手をするのに、いい加減苛立って来た。いや、前回の(いおり)との試合で鬱憤が溜まっていた。東と庵の試合は、東の圧勝だったのは言うまでもない。だが庵の不屈の戦い方は観客を惹きつけた。つい応援したくなるのは、庵の持つ魅力だ。いつの間にか東が悪者みたいな立場になっていて、物凄く理不尽な気がした。その時感じたフラストレーション分のストレスを、この場で解消してやろうと思った。

 ここは厳格なルールに縛られた武闘大会の場。東が本気を出せば、相手を葬ってしまうかも知れない。だが相手が同じ「最強」であれば、本気を出したとて死にはしないはずだ。本当に、「最強」であるならば。

惟継の未知の力量を計るように、東は刀を握り直した。そして、鬼を相手取る速度と威力で刀を振った。

 「殺す気か?」

 ぎょっとした惟継が慌てて避けたのは、ちょっと間抜けな動きだったが、次の瞬間には東の間合に攻め込んで来ていた。やはり本物の「最強」か。東は速度を上げた。


 ◆


 東と惟継の試合に湧く観客席の最後列通路を、南木(なぎ)冬至(とうじ)千之助(せんのすけ)が試合も見ずに歩いていた。

 試合の盛り上がりに一喜一憂する観客の歓声で、会話は困難だ。ジェスチャーを交えながら何とか意思疎通を図った。

 「蜻蛉(かげろう)ってかなり弱ってて、しばらく動きは無いって話じゃなかった?」

 「蜻蛉が休んでいても、晦冥(かいめい)教徒たちは休まないだろう。」

 「無駄に勤勉ですね。だからって、武闘大会に呪術札(じゅじゅつふだ)テロなんて、本当にあり得ますか?」

三人は、この武闘大会の会場内に呪術札などの呪いが持ち込まれていないかを検査するために、会場内を練り歩いている。

 「観客もスタッフも、厳しい荷物チェックを受けて入る訳だし、持ち込む事自体がかなり難しいと思うけどね。」

 「でも、呪術札一枚であれば紙一枚だからね。どうとでも紛れ込ませる事は出来るよ。」

 「発動しなければ、従来の呪性検知にもひっかからない訳ですからね。靴底の中にでも仕込んでおけばいくらでも持ち込めますよ。」

 「「お前ねぇ…。」」

冬至の「靴底」発言には、南木も千之助もビビった。そういうのは早く言っておいて欲しいものだ。

 「この改良型の呪性検知機、まだ試験段階だから、本当に実用可能か分からんよ。」

 「いや、限りなく実用に近い性能だと思う。もしこの会場内に呪術札があれば、絶対に反応するはずだと思うね。」

 「検知範囲があまり広くないのが、改良の余地ですが。量産の目度も立っていますし、現行のゲートにはアップデートだけで対応可能なんで誰も文句言わないと思います。」

冬至が言うと、後ろから話に混ざってきた声。

 「ま、呪性検知機能付きゲートを設置するのに馬鹿高い費用かけたのに、再設置に更に費用が嵩むとなると、どの家門も良い顔はしないわな。」

 三人が振り返ると、そこにいたのは蘇芳と茉莉と晋衡だった。三人とも試合を終えた身だ。

 千之助は勝ち残った事を祝うべきかと思ったが、勝って当然の立場という気もして、何を言ったら良いのか迷った。その隙に、晋衡が用件を言った。

 「会場の呪性検知作業を手伝いに来た。」

 「ですが、試合は良いんですか?」

冬至は、出場選手に手伝わせて良いものか躊躇った。それに、会場では今まさに東と惟継が戦っている最中だ。見なくて良いのか、と。

その意図に、晋衡が言った。

 「ありゃ泥試合だ。時間がかかるだろうから、呪性検知の手伝いくらいが暇つぶしに丁度良い。」

 「どろじあい…。」

ちらっと見ると、東と惟継は相も変わらずだ。

試合に全く興味がないのか、南木が勝手に改良された呪性検知機を配った。携帯端末にそっくりなそれを、三人がそれぞれに受け取った。

 「手分けして良いのか?」

 「あ、そうですねじゃあ二人ずつで。」

 そうして三組に分かれて会場の呪性検知作業を開始したのだった。


 ◆


 晋衡に泥試合と言われた、東と惟継の試合は、(もつ)れに縺れて長引いていた。

 「東殿の刀は雅さが足りぬな。」

 「鬼を倒すのに雅さは必要ないでしょ。」

いい加減、当人たちも面倒くさくなって来た。元々二人して武闘大会に消極的だったので、勝ちたいなら譲ってあげても良いよ的なスタンスだったのだが、相手が悪かった。互いにいけ好かないので、こいつにだけは譲ってやりたくねぇな、と思っているのだ。

「最強」なんてどうでも良いが、こいつムカつくな、と思ったら、負ける訳にはいかない。

 「そうだろうか。北辰(ほくしん)隊の清き姿には、雅さがよく似合う。在仁殿もまた、雅を愛する芸術肌ではないか。」

 「あっらぁ。でも綿毛ちゃんは、何を置いてもまず男で武士である事に拘るわぁ。優先順位を違えては、忠臣とは言えないのではなくって?」

同じ北辰隊員として、どちらが在仁の信頼を得ているか、なんて所まで競い合い出すと、もうジャッジ不可能だ。強さだけで測れるものなど、実際のところありはしないのか。

 「俺の忠について、貴殿に口出しされる謂われは無い。」

 「それは失礼したわね。普段から全く忠を感じないものだから!」

互いを測っていたはずの会話は、もはや無意味な口論になった。

 もうすっかり飽きた東が、本気で殺したろかとばかりに刀を振ると、惟継はそっちがその気ならばとばかりに応戦。斬撃同士がぶつかる時、相殺する光が火花のようにスパークした。


 ◆


 「あった…。」

茉莉が観客席の足元に貼られた呪術札を見付けた。

改良型の呪性検知機の動作確認のつもりだった作業で、まさか本当に呪術札が見つかるとは思わず、千之助は思わず頭を抱えた。

 「出ちゃうかぁ…。」

呪術札が出てしまったならば、試合は中断すべきだ。けれど今行われているのは、東と惟継の泥試合。いつ決着がつくとも知れない戦いを中断させるのは、忍びない。

 千之助が携帯端末で晋衡に連絡をすると、晋衡の方も呪術札を見付けたと言われた。

 観客席に複数仕掛けられているとすると、他にもあると想像できる。千之助は観客席のマップを眺めながら、呪術札が見つかった位置に印をつけた。

 「何ですか?」

茉莉が覗き込んで、千之助はマップを見せた。

 「仕掛けたからには、何かを起こすつもりのはず。そのタイミングはいつなのかなって。」

 「呪いによるテロは、被害が最も大きいタイミングを狙うはずですから、今日の試合で言ったら最後の試合じゃないでしょうか?」 

 東と惟継の泥試合が終れば、智衡と春純、そして最後に春臣と春家の親子対決。今日最も注目をされているのが、最後の試合だ。観客席の動員数は満席に立ち見を加えて超満員になり、配信視聴数も過去イチを記録するはず。テロを起こすなら、そのタイミングが望ましいだろう。

茉莉の意見に、千之助は嫌そうに顔を歪めた。

 「なら、この泥試合に感謝しないとね。無駄に長引いているお陰で、テロは阻止出来そうだ。」

他の試合は長くても十分程度なのに、東と惟継はかれこれ一時間以上もこうしている。観客も最初は手に汗握ったが、今はもういい加減に決着つけろやという空気だ。だが、お陰で観客席に仕掛けられた呪術札を見付けて撤去できそうだ。

 「急ぎましょ。全部見つけたら中断は無しで良いですよね?」

 「まぁ、今このタイミングで中断したら返って混乱するだけだからね。」

 観客席から呪術札が発見されたので試合は中断します、なんてアナウンスがあったら、大パニックだ。出来るだけ秘密裏に処理するのが望ましい。

 ただの動作確認作業のはずが、本番となってしまったので、千之助は仕方なく警備員を動員した。改良型の呪性検知機を配り、会場の隅々まで探しながら、持ち込んだ犯人の捜索が開始された。

 今以て泥試合を続けている二人に向かって、まだしばし試合を先延ばししてくれ、と千之助は思ったのだった。


 ◆


 トーナメントBの試合会場で呪術札が発見された事を受け、主催者サイドは司法局と相談した。その結果、トーナメントAの会場を調べて安全確保をした上で、残りの試合をそちらで行おうと言う事になった。

急遽、残っている二試合の会場の変更が公表されたが、誰も違和感を覚えなかったのは、東と惟継の試合が長すぎるからだ。この試合が延びた所為で、他試合に影響を及ぼした為、急遽変更を余儀なくされたものと思われたのはたいへん都合が良かった。

そして更に、二人の試合が長すぎるお陰で、トーナメントBの会場内の検査が進んだ。観客たちは飽きたと言っても誰一人席を立たずに応援している。腐っても最強同士の試合であるし、ここまで見たら最後まで見届けたいと思うのが普通だろう。

観客たちが大人しく席を動かずに観戦しているため、呪性検知作業も楽々と進んだ。そしてまた、犯人捜査も進んだ。


 ◆


 それから更に一時間後。

東の苛立ちを込めた一撃が、惟継の体ごと吹っ飛ばした。

 「この、馬鹿力…。」

恨みがましく呻いた惟継は、会場の壁に背を強かぶつけてから、崩れ落ちるように膝をついた。

その瞬間に、主催者サイドが強引に試合終了の鐘を鳴らした。

 もうこのタイミングしか、この二人の泥試合を終わらせるチャンスが無いと、主催者サイドが判断したのだ。

惟継は自分の敗退イコール平家の敗退であったため、大変悔しかったものの、すっかり疲れ果ててしまい、立ち上がる事が出来ず、あえなく敗退を受け入れる他無かった。

 勝利を得た東の方とて、余裕では無かった。本当は余裕ぶって嫌味をかましてやりたかったが、そんな気持ちも失せた。

 もう二度と戦いたくない。そう思って、試合が終わった事にほっとした。そして観客席を見渡すと、何やら妙な動きをしている者たちが見えた。

 「何かしら?」

 晋衡や、黒服が動いている。

 何となく会場の巨大スクリーンを見上げると、何故か他の試合が終わっていた。

 「え?」

東と惟継の試合の後には、残り二試合あるはずだったのに、いつの間にか最終試合になっていたのだ。


 ◆


 試合を終えて、会場を出ると、東と惟継を待っていたのは、晋衡の笑みだった。

 「いやあ、お前たちの泥試合のお陰で、犯人が捕まったぞ!グッジョブだな!」

 「「はんにん?」」

東も惟継も意味が分からない。

そこへ、茉莉と蘇芳がやって来た。

 「丁度この会場内で、南木が開発した改良型の呪性検知機の動作確認をしていたんです。」

 「そしたら、観客席から呪術札が見つかったんです。」

 「「じゅじゅつふだ…。」」

二人は長時間戦っていた所為なのか、驚きがシンクロしていた。

そして、挨拶も無くやってきた、千之助と冬至と南木が勝手に話した。

 「丁度試合が長かったものだから、全部の呪性検知作業が出来て、呪術札も撤去できたんですよ。」

 「丁度試合が長かったもんだから、犯人捜査も進んで、逮捕出来たんだよん。」

 「丁度試合が長かったものだから、残りの二試合は別会場で行う事が出来て、もう終わったんだよ。」

三人が口を揃えて「丁度試合が長かった」と言うのを、東と惟継が嫌そうに聞いていた。

 「いやあ、改良型の呪性検知機の性能も証明されて、助かったよ。」

 「協力、感謝感謝!」

 意味不明の感謝を向けられても、全然嬉しくないのだが。

東が頭を押さえながら整理した。

 「私たちの試合中に、改良した呪性検知機の動作確認作業をしていたら、呪術札が見つかったの?その地点で試合中止かつ大会中断の大事件なんですけど?」

 「だが、そうとして中断すれば混乱必至だ。呪術札の撤去と犯人逮捕が速やかに終えたならば、中断せずともよかろう。」

惟継が言うと、東はむっとして続けた。

 「残りの二試合を別会場で済ませたのはどういう事なの?」

 「我々の試合が終わった後、改めて会場内を調べる必要がある故だろう。」

また惟継が言うと、東はむっとした顔をした。

何だか呼吸がぴったりな二人を、晋衡が面白そうに見ながら言った。

 「準決勝からは、地龍様が直接観戦する事になっている。警備体制に不安要素があってはまずい。今回のケースはなかなか良い参考になった。何もかも、お前たちの試合が長かったお陰だ。」

 「お陰お陰って、全然嬉しく無いんですけど?」

非常に馬鹿にされている気がしたが、もう全て終わってしまった事だ。

 「不服なら大会主催サイドに申し入れをすれば再戦させて貰えるやも知れんぞ。」

 「「絶対にお断りだ。」」

 もう二度と戦いたくない。東と惟継の気持ちは同じだった。


 ◆


 何やら会場でテロ未遂があったと言う。

もちろんそうした情報は内密のもので、今後も公にされる予定はない。

けれど、もし公にされたとしても、既に終わった事だ。

今日の試合結果を覆すはずが無いし、話題トップが変わる事も無い。

 急遽試合会場を移動する事になった二試合は、智衡対春純、春臣対春家。

元々注目度の高かったこの二つの試合。

 結果は、智衡と春臣が勝ち進んだ。

 そう、あの優勝最有力候補だった北条春家が、息子の春臣に負けたのだ。

この事実が衝撃的過ぎて、世の話題はそれ一色だ。今まで春家が最強の中の最強だと言われていたのは何だったのか?過大評価だったのか、加齢による弱体化なのか。それともわざと負けたのか。色々な意見が飛び交っている。春家の敗退を認めたくない往生際の悪い者たちは、何かの間違いだと言い張っている。どうしてそこまで頑なかって、武闘大会賭博で春家に賭けていたからだ。

長い間、最強の中で最も強いと噂され続けていた実力を見込んで、多くの者が春家に賭けていた。おかげで大散財だ。ここで春家に賭けていた者たちは、春家を好ましく思って賭けていたのでない。人間性に難があれど、強さだけは本物と思って賭けたのだ。だが結果は敗退。強さすら偽物となると、春家の長所は何処?賭けていた連中も、また賭けていなかった者すらも、春家に対する評価を大暴落させた。

結局、何をしても何をしなくても、批判の的。それが春家クオリティーなのだ。

 そして、智衡は北条ツインズの両方を下した事になる。

 この結果を以て、次の試合は、智衡対春臣となる。

 奥州の魔王様が、北条一家を全員下せるのか。人々の注目はそこに集まっていた。

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