95話 神殿への潜入
「……また、別行動か」
ユナは先に出発させたサリー達を見送りながらため息をついた。
自分からそうするように言ったとはいえ、だ。
「いったい何時になったら落ち着けるんだろ」
そうこぼした。
(そろそろ燎原も戻ってくるだろうし、そうなったらふたりきりでいられる時間も減ってしまうのに)
戻る時間の設定をしなかったとはいえそう長くはならないだろう。
そう思って鞄を見るが、特に変化はない。
とはいえこれからの行動を考えると今戻って来るのは都合が悪いわけだが。
「僕も行くか」
ユナもダイオプサイトへと移動を始めた。
なお、先に出発したふたりの事は途中で追い抜いた。
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「やっぱり騒ぎになってる」
ダイオプサイトへ辿り着いたユナは、その辺の屋根の上から遠目で神殿の方を見ていた。
神殿周辺は人が慌ただしく動いている。
そりゃあ大事な神子が失踪したのだ。当然といえば当然である。
ついでにいうと同時期に町を出たユナたちも多少疑われていたが、正式な手順で出ていたのでそこまで優先度は高くされていなかった。
ちなみにユナは門を通って来ていないので密入国状態である。
「この分だと神子の部屋に行くのは難しいかな。少し待つか」
人が少なくなるであろう時間まで待とうにも、まだ昼前の時間。
日が沈むまでにはまだまだ時間がある。
情報収集をしようにも、ユナは今この町に居ないことになっているので人目につくのも避けたい。
この町でそう多くの人と接していないとはいえ行動していたのは神殿周辺だ。
顔を覚えられている可能性もある。
辺りが暗くなり、町には灯りがともり始めた。
結局、大衆酒場の隅で気配を薄くした状態で時間を潰していた。
特に有益と言える情報もなく、無駄に時間を過ごしただけだった。
ただ、情報統制がされたのか、慌ただしかったのは神殿のみで町の様子は平穏。
酒場の客も変わった様子はなく、平時と変わらないようだったのが収穫か。
ユナは先程とは別の屋根に登り、神殿を観察した。
昼間よりは出入りする人は少ない。
中の様子はここからは見えないが見張りがいないということはないだろう。
深夜まで待つほうが安全だろうとは思いつつ神殿へと近付く。
「結界の類はなし。……事が起きた後なのに不用心。
入りやすくていいか」
そう呟いて神殿に踏み入れる。
数人はいた見張りを躱しながら何事もなく神子の部屋へと辿り着く。
中にも見張りは居ない。
都合がいいなと思いながら部屋を見渡す。
ぱっと見た感じ神子が隠したと言っていた情報は見当たらない。
そう分かりやすいところにはないかと思いながら机の引き出しを開けると、何か引っ掛かりを感じた。
下を見ると紙が貼り付けられている。
「……わかり易すぎでは」
紙を開くと、どこかの地名だけが書かれていた。
「さすがにこれじゃないか。
……と見せかけておいて二重にしてある」
引き出しを取り外した部分にも紙が貼り付けてあった。
ここにはこれだけしかないと思わせて捜索対象から机周辺を外すという心理的トラップ。
そっちの紙には言われた通り結界の詳細について書かれていた。
「時間がなかっただろうに、よくこれだけ書けたな。
……怖かっただろうに」
神子という役割を与えられたとはいえただの少女である。平気そうな素振りをみせていたとはいえこれから攫われるというのは平静ではいられないだろう。
しばらくは助けが来ないと分かっていれば特に。
メモには時が来るまで助けに来ないで欲しいと書かれていた。
すぐに救出されれば、悪い方向へと未来が動くと。
ユナは2枚のメモをしまって改めて部屋を見渡す。
そして、これ以上の情報は残っていないと判断して神殿を脱出した。




