94話 昔の関係
神子との会話を終えてアリアドネの隠れ家に戻ったユナは、何事もなかったかのように寝室に入ろうとした。
「またひとりで何処かに行ってたの?」
ドアノブに手をかけたところで呼び止められ、部屋に灯りがついた。
「……呼ばれてたから」
バツが悪そうに答える。また勝手に単独行動をしたことにだろうか、怒っている気配がした。
すぐに戻るつもりで、実際そうしたから問題ないと思っていた。
「声くらいかけてよって言いたかったところだけど、まあいいわ。何かあったの?」
「神子と話してきた」
「それで?」
「王都に張られた結界については、ダイオプサイトの神殿にメモを残しているから探してほしいって事と、周辺地域から離れるようにって言われた」
「じゃあ明日にでも動いたほうがいいわね。神殿を調べるのはユナひとりでやるの?」
「そのつもりだったけど、いいの?」
「言ってくれてるならいいわよ。何も言わずに姿を消されるのが嫌なだけだもの」
それに、とサリーは声には出さずに思う。
(神殿を調べるとしたら多分潜入捜査になるから。そうなったら私は足手まといになるって分かってるもの)
「私、どうしていた方がいい? 一緒に神殿に行かないのなら別行動よね」
「そうだな、ルーと一緒に雫の所に向かってて欲しいかな。一旦この国から離れたい」
「周辺地域っていうのがどこまでを指すか分からないものね。雫さんってセレスティスの勇者だったっけ。じゃあその国に行くの?」
「一旦はそのつもり。もしかしたらウィスタリアまで行くかもしれないけど」
「ウィスタリアってユーナちゃんが召喚された所だっけ」
「そう」
「直接そっちには行かないの?」
「ここからだと結構距離があるから」
国同士は隣接しているとはいえウィスタリアの目的地はセレスティスとの国境付近である為、そっちを経由したほうが効率がいい。
そもそもウィスタリアとリースベルトの国境を合法的に越えるのは手続きが面倒だという話だ。
伊達に敵国認定されていない。
「そっか。
とりあえず明日からの方針は決まったし、さっさと休みましょ」
「うん」
ーーーーーーーーーー
「じゃあそういうことだから」
次の日の早朝、ユナはルーにそう言った。
「いや、説明不足!」
そしてサリーは声を大きくした。
というのも、ルーにはほとんど昨日の会話について伝えていなかったのだ。
言った事といえば別行動をするということくらいであった。
「?」
どうしてそう叱られているのか分からないといった様子で首を傾げる。
「サリーさん。師匠はいつもこんな感じなのですよ」
訊いたら答えてくれるが最低限かそれ以下のやり取りしかしないことが多い。
あまり他人に興味を持てないからだということは、ある程度ユナと親しいひとたちにとっては共通認識なので、こういう事には慣れている。
「ええ……。それはどうかと思う……」
それを聞いたサリーはちょっと引いているが。
「気をつけてはいるんだけど」
「ま、前よりはちゃんと話してくれるのですよ! 少しは!」
ルーがフォローを入れるが、サリーは引いたままだった。
「じゃあ、代わりに私が話せば問題ないわね!」
そう言ったサリーにユナは少し目を見開き、直後細める。
それは以前の関係性と同じだったから。
身内以外に無関心なユナと誰にでも社交的なサリと。
表ではサリが動いて裏ではユナが動くのがふたりのスタイルだった。
ユナが懐かしく思っている間に、サリーはルーに昨夜の会話の内容を伝えていた。
「サリーさんの話し方は分かりやすいのです」
「そう? 良かった」
さすが慣れているだけはあった。
それを今は覚えていないとしても。
情報伝達も終わり、今度こそ出発する事となった。




