92話 その時神子は③
「……ん?」
誰かからの視線を感じ、目を開けた。
「ようやく起きましたのね、ねぼすけなダイオプサイトの神子さん?」
声のしたほうを向くと予想通り元王都の神子がいた。
「ふむ、意識は保てるようにしていたつもりでしたが、ミスをしていたようですわね。やはり使い慣れない物を使うのは難しいですわ……」
調整はちゃんと出来ていたが、まさか本人の意志で寝ていただけだとは思いもしない。
「まあいいですわ。十分力も抜けていることでしょうし、次の段階へ入りましょう」
元王都の神子は先程使わなかった紐を手に取った。
「入れる方、と言ったのは覚えているかしら?」
そう言って拳大くらいの魔石を取り出す。
「これ、何だと思います?」
「……魔石なのはわかるけど」
「そう、これは魔神の力を込めた魔石ですのよ」
期待せずに訊いた質問に返事が返ってきた事に気を良くして更に情報を付け加える。
「ここまで言えばどうするつもりなのかわかりますわよね?
魔神の力を貴方に入れちゃいます」
「っ……」
はっきりと言われてダイオプサイトの神子は息を吸った。
分かっていた事だった。
その後しばらくは、自分がどうなるか分からないことも含めて。
最後に観た未来では、閉ざされた意識が誰かによって引き上げられていた。今までの流れから、助けてくれたのはユナであるだろうとは思うが正確には分からない。
ただしその未来へ繋ぐための条件はまだ満たされていない。
つまりは助かると確信が出来ないのだ。もしかしたら閉ざされた意識は沈んだままになってしまうかもしれない。
そしてそれは、未来を変えることの出来る存在。つまりはこの世界に属していない、異世界からの来訪者たちに任せるしかないのだ。
「一度限界まで力を抜いたのは、魔神の力が入りやすくなるようにするためでしたの。ついでに結界のエネルギーにできますしね。
そんなに怖がらなくていいのですよ」
そう言って微笑む。
「……だって、わたくしもやりましたもの」
ダイオプサイトの神子には聞こえないくらい小声で言った元王都の神子は遠い目をしていた。
「え? 今、なんて」
訊き返された言葉に小さく微笑み、元王都の神子は魔石を空中に固定し、紐を接続させた。
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
異物の入ってくる感覚に思わず悲鳴を上げる。
「少し強すぎたかしら。この調節も難しいのです。何しろ他人に施すのは初めてですので」
元王都の神子は魔石の調整をする。
「こんなものでしょうか」
「ぁ……ぁぁ……はいっ、て……」
声は少し落ち着き、ダイオプサイトの神子は定まらない視線を彷徨わせていた。
「もう少し強くしても大丈夫そうですが、これくらいにしておきましょう」
「いや、だ……ぁぁ! ……かわ、り……たく、ない……! ……んっ」
今は受け入れてしまう事しか出来ないと分かっていても、本能は抵抗しようとする。
魔神の魔力が自らを侵食していくのを感じながらも、抵抗できるはずの自分の魔力はほとんど残っていない。
いくら嫌がってみても結果はわかりきっている。
そんなダイオプサイトの神子を見つめていた元王都の神子は祭壇に腰掛けてそっと撫でた。
「ねえ、少し話をしましょうか。
今の貴方には聞こえていないでしょうけれど、わたくしが話したいんですの。
……これからこちら側についてもらうのですから、わたくしの目的くらい知っておきたいでしょう?」
元王都の神子はダイオプサイトの神子の悲鳴をBGMに話し始めた。




