91話 その時神子は②
ばちんっ
という音と共に、朦朧としていた意識が浮上した。
(ユナさん……?)
その一瞬で存在を感じた。
そして祭壇を通じて結界との繋がりを利用して違和感があったところに意識を向けると、遠ざかるユナの後ろ姿が見えた。
(っ! 待って!)
引き止めたかったが、その思いは届かない。
その姿はすぐに見えなくなり、追うことも出来なかった。
それでも一度回復した意識は安定している。
力は全て吸われると言われていたが、少しは回復しているようだった。
(いつまでちゃんと意識を保てるかわからないわね。今のうちにできることを探さないと)
そう思った神子は結界を観察する。
どうやら今拘束されている祭壇が結界のコアになっているようで、繋げられている神子にも多少のコントロールが出来そうだった。
(これなら、まだ出来ることがありそうね。ユナさんとまた話せるといいのだけど。
それに、元王都の神子がまたいつここに来るのかもわからないし)
来てくれるのかわからないけれど、少しでも話せればと結界の操作をする。
さっきユナを感知した周辺の一部分を薄くして、何かあれば分かるように。
そうこうしているうちにどれくらい経っただろうか。
薄くした部分へ近付く存在を感知した。
急いで部屋付近の索敵を強化し、結界の操作をする。
そして声がした。
『来たけど』
ユナの声だった。
「捕まっちゃった」
神子はなんでもない事のように答える。
『そう。この会話は?』
「大丈夫。他には漏れないよ」
それを考慮してこの祭壇を一時的に結界から隔離してある。短時間しか出来ないが、会話するくらいだったら問題ない。
「しばらくは振り切れそうにないから、私のことは放っといていいわ。結界の事とかは、神殿の私室に隠してある。悪いけど探して」
『わかった』
「ユナさんのことは通せないみたいだけど、少しだけなら結界弄れそう。何かある?」
弾かれていたことの対策をしようとはしていた。
『そうだな、仲間の通行許可を。王城でメイドやってるアリアドネって子』
「その子は人間?」
『そう』
結界は純粋な人間以外を通さないようにされていたことはわかっている。
ユナは種族的な問題で通すことは出来ないのだと察していた。
「なら多分大丈夫。
……悪いけど、できるだけ速くこの近くを離れてくれる?偽装は完璧じゃないから」
このままの状態であればバレない自信があるが、今後どうなるかはわからない。
『わかった。神子も気を付けて』
「ありがと」
その後すぐにユナは去っていった。
「ちゃんと伝わったかしら」
神子は音に出さずに呟く。
向こうの言葉はちゃんと聞こえたが、こちらからの言葉は届きにくかったように感じていた。届いていることを信じるしかない。
(この状態じゃあ、これが限界ね)
祭壇に拘束されている神子はもうどうすることもできない。
そう思いながら隔離していた結界をもとに戻す。ついでにその他に触れていた部分も目覚めた時とほとんど変わらないくらいに見えるよう整えた。
(これでよし。傍目から見れば、私はただの動力源。実質支配してることはわからないはず。
それに、もしも私に何か異常が起きれば即時権限を切断する細工もしたから何かあってもバレないはず)
諸々の作業を終えて目を閉じる。
(……本当はたすけてって言いたかった。けどここで助けを求めてしまったら、今は助かってもより悲惨な事になる未来が視えてしまったから。
これでいいんだ)
そう自分に言い聞かせるように思った。
(やることなくなると暇ね、これ。能動的に未来を見れるほど魔力の回復もしていないし。
ちょっと寝ちゃおうかな、あいつも私の意識があるとは思っていないだろうし、ちょうど眠気も来たし)
そう自虐的に笑って神子は意識を手放した。




