85話 神子
「その、半年前に亡くなったという神子の死因はなんだったのです?」
半年前という時期に何かがあったと思い立ったルーが訊く。
「……不明、よ。まだ若かったし、寿命じゃないのは間違いないわ」
神子がぽつりと答えた。
「当時も疑問には思わなかった?」
「そうね。昔仲が良かった子と久しぶりに会ったり、次代の王都専任の神子を決めたりするので忙しくて考える暇がなかったっていうのもあったかもしれないわ。あの時は国中から神子が集まっていたわけだし」
「国中からというと、一時的に王都以外の土地には神子が居ない状況が起こっていたということだよね」
そのユナの指摘に神子ははっとしたように目を見開く。
「そうよ! どうして気が付かなかったのかしら。それなら魔物たちの異常行動の説明がつくわ!」
「どういうこと?」
「ユナさんが神子のことをどこまで知っているのかは分からないけれど、未来を視るだけが神子の役目ではないの。むしろ出来ないって子も割といるわ。
神子の一番の役目っていうのは、魔力の安定化なの。神子ってよく祈ってるでしょ? やっている私もイマイチ分かっていないのだけど、あれが周囲の魔力を安定させているらしいの」
「どうして言い方が曖昧なの?」
ずっと話を聞いていただけのサリーが口を挟んだ。
「私、座学が苦手だったから……」
神子は言いにくそうに言った。
「苦手だったのなら仕方ないね……」
サリーはそっと目を逸らした。
「と、とにかくよ! 祈りは基本的に毎日やっているのだけど、不在だった数日、場所によっては数十日それが出来ていなかったのは確かだわ!
ねえ、何かわからない? この国、おかしい?」
そう言ってユナに詰め寄った。
「この国の元の状態を知らないからなんとも言えない」
ユナはそう答えた。
「そっか。そうよね。貴方は少なくとも異常が起きてからここに来たものね」
「でも、ウィスタリアに比べたら不安定な所がある気がする」
ユナが言ったのは魔力と霊力のバランスの事だった。
この世界では霊力の存在がほとんど知られていない。自然のエネルギーの一種、と言われている地域もあるがあまりメジャーではない。
ウィスタリアでは、魔力も霊力も満遍なく存在していたが、リースベルトでは魔力はあったが霊力が極端に少ない場所が存在した。
「ただ、魔力に影響があるのかは分からない」
あくまで不安定なのは霊力なのだ。
「そうなのね。でも何かあるのは間違いなさそうね、ちょっと調べてみなくちゃ」
ぬか喜びしてしまった神子だったが、糸口を掴めた、と気持ちを新たにしていた。
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「あら? 誰かが私の支配から逃れましたわね?」
時を同じくして、王都の神殿でそんな事を言った人物がいた。
「そんなに気にすることないとは思うけど、ちょっとだけ様子を見に行かせたほうがいいかもしれないわね? 少し前から怪しい動きはあったもの」
その人物は、そこには存在しない誰かと話すように言葉を続ける。
「ええ。貴方様のおっしゃっていた例の彼女……、フォレストの精霊と関わっていた神子ですわ。
期待していなかったとはいえ、この国の王族は無能ばかりですもの、こちらからアクションを起こしたほうがいいかもしれませんわ」
「……それはやり過ぎではなくて? いくら怪しい動きをしていたからと言って切り捨てるのは。あの子の才能はなかなかのものでしてよ。
私も例の件で予知能力はほとんど失ってしまったわけですし」
「では、連行して傀儡に。出来なさそうでしたら勿体ないですが消えて貰いましょう」
そう言って、半年前に死んだはずの神子は指示を出すために配下を呼んだ。




