84話 異常発生?②
「……なんかすごく盛り上がってる」
宿に戻ってきたユナが見たのは、お喋りを楽しんでいるサリーとルーの姿だった。
「あ、おかえりユーナちゃん!」
「おかえりなのです」
返事をしたふたりは、ユナの後ろにもうひとりいることに気がついた。
「ついでだから連れてきた」
そこにいたのは神子。
教会から抜け出すのが大変だと言っていたのを思い出して連れ出して来たのだ。
「お迎え助かったわ。そろそろそっちから来てくれてもいいのだけどね。
おふたりとも昨日ぶりね」
するりと部屋に入り、扉を施錠した。
ちなみに、サリーはルーに先程の誤解を解いていた。
その件に関してルーが思ったことは、またか、といったくらいだった。
ユナがあまり自分の怪我について顧みない事はよく知っている、というかいくら言っても聞き流すから諦めているのもあったが。
肝心の襲っていた疑惑の方は、ユナのサリーに対する感情はなんとなく知っていたので邪魔してしまったことを後悔しているのは変わらなかった。
「それで、道中で軽く聞いたのだけど。魔物や魔獣の異常行動についてだっけ。
確かに、起こっているわ。それも王都を中心に、きっかりこの国だけで。原因は王都のギルドが調査中と言ったきり、進展なく不明ね。
私としても視えていない事だからそこまで脅威ではないんじゃないかって思っている件ね」
部屋で落ち着いた神子が話しだした。
「王都での異常は?」
ユナが訊く。
「今のところなさそうね。例のあの件も見えなくなったし、対策してくれたんでしょう?
ところで一緒じゃないみたいだけど」
神子が話に出したのはリョウのこと。
連れてくる予定だったのに一緒にいないことに疑問を持ったのだ。
「合流したし、連れてきたといえば連れてきたんだけど……」
と、口籠る。
魔書についてどう説明したものか、と考えていた。この世界にそんな魔法具の存在は確認されていないから。
「言いにくいのならいいわよ。
あ、異常……というのかはわからないけれど、王都に関してね。どうも、例のあの件以外意識しても視えにくいのよね」
「視えにくい?」
「そうなのよ。国所属じゃないとはいえ、一応は住んでいるわけだからね、定期的に視ているのだけど。最近は異常がないのが異常というか。貼り付けたような情景しか視えないのよ」
「貼り付けたような、ね」
監視カメラの偽装映像みたいだ、と思ったが予知の偽装となると話が難しくなってくる。
「ちなみに、王都所属の神子の予知能力がどれくらいかってわかる?」
「すごい神子が少し前まで居たけど、今はそこそこくらいの子がいるくらいだったと思うわ。でもあの件で騒ぎが起きていないことを考えるとそこまで能力の高い子はいないのかも。こういう重要情報は、情報統制していても神子のネットワークでは回ってくるもの」
「そう、なら予知が偽装されているのは考えにくいかな」
その呟きに神子は表情を曇らせる。
「予知が偽装されている可能性なんて考えもしなかったわ。ないとは思うけれど、注意してみるわね」
「でもね、なんというか、うまく言えないのだけど」
神子がなにか言いたいけれど言葉がうまく出て来ない、といった様子で考え込む。
「王都に何かしらの違和感があるっていうのは間違いないと思うのよ。王都というか、この国全体?
なんだろう。とにかく違和感。詳しく探ろうと思うといつの間にか意識が逸らされているというか」
「それは、」
ユナはその違和感の正体になんとなくだが心当たりがあった。
洗脳、とまではいかない精神操作の存在だ。
今までやられていることを考えると可能性が無いとは言い切れない。
「最後に王都に行ったのはいつ?」
なにかしらの操作を受けたとしたら、直接行った時ではないか。そう思って質問をする。
「半年前ね。さっき言ったすごい神子の葬儀に参列した時だから」
「……魔物や魔獣の異常が起き始めたのって、半年前くらいなのです」
それまで黙って聞いていたルーがぽつりとそう言った。




