69話 かけられていた洗脳
「ここが例のキャンプ地だ。今日は他に利用者居ないみたいだな」
そう言ってラーザが案内してくれた場所は、キャンプ地と言うよりもただの広場といった方がいい場所だった。
「こんなんでも魔避けの結界あるからな。簡易的な安全地帯みたいな場所だから安心して使うといい」
そう言ってその辺の地面にリョウを降ろした。
「じゃ、俺は戻るな。そういや様子見しに来ただけで依頼の途中だったわ」
そして引き返そうとする。
「助かった。ありがとう」
ユナもその辺の地面にセレナータを降ろし、そう伝えた。
「ユーナも、こんな所に案内しといてこんなこと言うのもアレだがちゃんと休めよ。顔色悪いぞ」
「そうかな。色々片付いたらそうする」
「言うこと聞かねえやつの言い方だな。まあ何かあったら頼ってくれや」
ラーザはそう言い残して、今度こそ去って行った。
「顔色悪い、ね。確かにダメージはあったからかな」
そう呟いて気がついた。
「服も着替えないとだ」
さっきので焦げ跡がいくつかあるのと、背中と胸元に穴が空いてしまっている。外傷は治るがただの服はそうもいかない。
ユナは着替えるついでに洗浄魔法を使って身を清めた。
ーーーーーーーーーー
「……ん?」
色々済ませてシートの上で休んでいると、リョウが目を覚ました様だった。
「あ、起きた?気分はどう?」
今度はちゃんと警戒をしながらユナが声をかける。
「御影さん?どうしてここに……。
っ!!魔獣が!火が!」
今のリョウは正常で、どうやらユナが現れる直前くらいのことを思い出したようだ。
「その辺は片付いた。
ところでまだ僕を殺したい?」
ユナは直球でそう訊いた。
「ころ……す?」
リョウは何を言われているか分からないといった様子だった。
「あんなに殺意増し増しで刺してきておいて」
そう言って焦げ跡と穴の空いた服を見せる。
「そんなこと俺がする訳……あれ?」
否定しかけて、何かが引っかかり黙り込む。
「いや、そんなこと……でも手応えが、残って……?」
その時の事を思い出したのか、リョウはどんどん青ざめていく。
ユナはその様子を黙って見ている。演技をしているようには見えない。
「その、なんと言っていいかわかんないんだけど……本当にごめんなさい。どうかしてた、と思う」
一旦の整理が着いたのか、そう言って頭を下げた。
「無事だからそっちは気にしなくていい。けど、どうしてこんなことを?」
殺されかけたことに対する謝罪はサラッと流し、原因について訊く。
「助けに来てくれた、その後ろ姿を見ていたら急に、頭の中で『そいつを殺せ』って声が聞こえてきて……気が付いたら、刺してた。それでも足りないって言われて……。
その後のことは覚えてない」
「ふむ」
「暗示か洗脳か……現在は影響出ていなさそうなのを見ると、深い所と浅い所、両方にかかってる感じかな?」
曖昧なリョウの発言を聞いて、原因を検討する。
「俺、なんかされてるのか?」
その発言を聞いたリョウが不安そうな表情を浮かべる。
「多分。あの国、そういうの好きそうだし」
やり返したとはいえ何度もやられそうになった身となると呆れも出て来てしまう。
それでも何時かけられたのか分からないのが問題だ。深いほうは召喚時にかけられていたとすれば気が付かなかったかもしれない。大丈夫だとは思うけれど、後でサリーも確認しておかないと。そんなことを考えていた。
「あ、話はちょっと変わるんだけど。ユナ・フォレストって人知ってたりしないか?」
リョウが唐突にそんなことを訊いた。
「僕の事だね」
ユナはサラッと答えた。
正直、サリーにバレた時点で他はどうでもいいと思っていたから隠すつもりもない。
「へ?」
その答えを聞いた瞬間、リョウの様子が変わった。
一瞬で眼から光が消え、剣に手が伸びる。
「なるほど。浅い所がそれってことね」
特定事項に触れると発動するタイプの、暗示に近い洗脳。
それが完全に発動する前に、リョウの目の前で青い光が弾けた。
「うわっ!」
次に目を開けた時、リョウの眼には光が戻っていた。
「今、何が起こって……」
「何か発動してたみたいだね」
混乱するリョウにユナが軽い感じで答えた。
とりあえずの対処は簡単にできるようだ。
「そんなこと……。
それより!御影さんがその、ユナ・フォレストさんなのか?」
「そうだよ」
もう一度同じ問答を繰り返したが、次は起こらなかった。
「どうすりゃいいんだよ……」
リョウは手記の入った鞄とセレナータを交互に見て呟いた。
方や頼れ。方や殺せ。
どちらを信じればいいのか、と。




