68話 ユナ、炎上
水蒸気が立ち込める中、ユナは自分から突き出た刃を見た。
しっかりと人体における急所を貫いていた。
魔法行使中ではあるが、周囲の生体反応がリョウとセレナータだけだと分かっていたから警戒を怠っていたのは確かだった。
「リョウ?」
そう背後に声をかけるが、返ってきたのはそれに対する返事ではなかった。
「燃えろ」
冷たく低いその声と共に、魔力が刃を伝わり、炎が噴き出した。
先ほど森を炎上させていたような広範囲の魔力ではなく、一点集中型の魔力。
急所を刺され、内側から燃やされている。
そんな状態でもユナは冷静を保っていた。
「こんなの、僕じゃなかったら死んでるよ。よくもまあ後ろから的確に刺せるよね」
そんなことを言うが、やはり返事は返ってこない。
「ご丁寧に魔力阻害も込めてあるね、この炎」
先ほどと同じように水で炎を消そうと試みたが魔法はうまく発動しなかった。
「でも霊力のほうは阻害されない」
呟きながら、ユナは後ろ足でリョウを蹴り、握られた剣ごと引きはがした。傷がこれ以上広がらないように真っ直ぐに。
「厄介だ」
そう呟いたユナはリョウの方へ向き直った。
リョウは蹴り飛ばされ倒れた状態のまま、虚ろな眼で何かを唱えるように小さく口が動いている。そしてふらふらと立ち上がろうとしていた。
剣が抜けたことで傷口はすぐに塞がるが、炎は消えない。
「ほんと、厄介」
そうため息をつくと、リョウの周囲に青色の光が発生し、リョウに襲い掛かった。
それは立ち上がりかけていたリョウに直撃し、リョウの意識を奪った。
それに従って、ユナを焼いていた炎も消えた。
「油断してた。結構きつい」
その場に座り込み宙を見上げるユナの瞳は、さっきの光と同じ青色の燐光を出していた。
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「おう、なんだここ。無事か?」
少し時間が経ち、水蒸気もほとんど落ち着いた頃。
様子を見に来たラーザが合流した。
「そこそこ?」
その質問に、ユナは立ちあがりながら答えた。
「そこそこって……そもそも何があったんだ?」
「知らない。僕が来た時には既に燃えてたから消してたくらい。
それと、そこの人はもうダメだね」
ユナが視線を向けた先には息絶えた護衛が転がっていた。全身を酷く熱傷していてあまり原型を留めていなかった。
「そこの人って……オイオイ、こいつはやべえな。というかリョウの同行者じゃねえのか?」
「リョウのというかレナ、そっちの女性の同行者だったと思う。話したこともないからどこの誰とかは知らない」
そう言われたラーザはセレナータのほうをじっと見て、ため息をついた。そして小声でユナに言う。
「なあ、あの女性ってお偉いさんじゃね?前に王都で見たことある気がするんだが」
「知ってるんだ。一応お忍びらしいからバレないように気を使ってやって」
「気を使ってって、それどころじゃねえだろ。その同行者ってことは。
ああ、もう。かなりの面倒事じゃねえか」
ラーザはがしがしと頭を掻いた。
「よし。俺はただの通りすがりだ。立往生している顔見知りを見かけたから手を貸しただけだ。そこの倒れてる奴は既に手遅れだからその辺に埋葬する」
「手伝ってくれるんだ」
「さすがのお前でも失神した人間ふたり抱えて移動するのは大変だろう?」
「まあ」
やろうと思えばたいしたことはないが、手伝ってくれるのなら断る理由もない。
「こっから近いところに小さなキャンプ地があるんだ。街に戻るよりもそっちのがいいだろ。この時期だと多分人も少ないし、森を突っ切ればすぐだ」
ラーザはリョウを小脇に抱えながらそう提案し、返事も聞かず歩き出し、止まり、リョウを降ろした。
「埋葬すんの忘れてたわ。なんか地面掘れるやつ持ってるか?」
「これでいいなら」
ユナは小さな魔法具を取り出し、その辺の地面に放った。
魔法具が着地した所には、そこそこの大きさの穴が開いていた。
「便利なもん持ってんな。十分だ」
ラーザは遺体を適当な布で包んで穴の中へ横たえさせた。
「っと、これは取っとかないとだな」
そして遺体の胸元辺りから何かを外した。
「それは?」
「認識票だ。冒険者のギルドカードみたいなやつだな。そっちのお嬢さんに持って帰って貰えばいいだろ。
もう埋めていいぞ」
ラーザがそう言って、ユナが魔法具をもう一度起動して土をかけた。
「じゃ、行くか。着いてきてくれ」
ラーザはリョウを抱えなおして、歩き出した。
ユナの色を、淡い方にするか濃い方にするかで迷い中




