59話 2度目の森を行く
アリアドネの小屋を出て森の中を進んでいた2人だったが、ふと思い出したようにユナが立ち止まる。
「そういえば、街道には戻らないで森を進むつもりだけど大丈夫?」
前回は森の中で1泊することになった。今回は早めに出発しているし目的地が明確なので日が落ちる前には辿り着けるはずだ。
問題は、整備されていない場所を歩くという事だが。
「それは大丈夫だけど、迷わない?」
人の手の入っていない森なので、方向感覚を見失いがちだということは前回通ったことで分かっている。
それこそ前回はルーという案内役がいたから迷わずに真っ直ぐ抜けられたけれど。
「目的地が分かっているから大丈夫。最悪迷っても、上から探せばいい」
「上?」
「木の上まで行けば、見晴らしはいいから」
王都とオブシディアン間は1度森の上を往復しているので大雑把な位置関係はわかっている。
それこそ最短で移動しようと思うのなら、ユナがサリーを抱えて森の上を飛ぶ方が良かったりもする。そこまで急いでいる訳ではないからやらないけれど。
「そうなんだ……」
当たり前のように言うユナに、サリーは何かしら突っ込もうとしたのを止めた。
(隠さなくなってから人外な動きを平気でやるようになったな)
そう思いながら。
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「サリー?大丈夫?」
旅程も中程まで来た頃、ユナがそう声をかけた。
休憩は挟んでいるといっても整備されていない地面を歩くのは疲れる。
それを加味してもサリーの顔色が悪くなっていた。
「ちょっと、疲れた、かも」
「少し長めに休憩しようか」
相当疲れている様子のサリーを見てそう提案する。
そして大きめのシートを取り出して地面に引いた。
「はい、これ」
ついでにペットボトルも取り出して渡す。
「ありがとう」
「なんか疲れがとれるみたい。これなに?」
一気に半分程まで飲んでしまった後に訊く。
「ポーションをスポドリで割ったやつ。効いたのなら良かった。
……でもまだ顔色悪いかも。少し横になったら?」
ユナはそう言ってシートに触れる。
するとどういう訳かシートが柔らかくなった。
「わ、ふわふわになった。
そうさせてもらおうかな、ちょっと眠たくなっちゃった」
サリーがその場で横になると、すぐに寝息をたて始めた。
ユナはここまで速く眠ってしまうとは思っていなくて驚いていた。
誤解がないように言っておくとさっき渡した飲み物に睡眠薬といったものは含まれていない。ただ、回復促進の効果を高めていて、それの副効果としても寝付きが多少良くなる程度のもののはずだった。
横になって云々と言ったのも本当に寝かせるつもりではなく、少しでも身体を休められるようにと思っただけだった。
(余程疲れていた?リアのところを出てからまだ半日も経っていないし、歩きやすい場所を選んでたつもりだったんだけど。
……もしかして)
ユナは心当たりを思い付き、そっとサリーの額に触れた。
「やっぱり、かなり魔力を消耗してる。気付かなくてごめん」
聴こえてはいないだろうけれど、そう謝った。
恐らく無意識に警戒、索敵系の魔法を使っていたのだろう。
慣れないことをしていた精神的疲労、未舗装地面を歩くことの肉体的疲労も相まって消耗が大きくなってしまったと考えると納得がいく。
昔はこれくらいの事で疲れるようなことはなかったので完全に思考から抜けていた、と反省する。
それにあたって予定を変更しようと考えた。
ユナはしっかり休ませて(休ませられて)貰ったことで万全だが、今度はサリーを休ませる必要がある。
しっかり休むとなるとやはり屋内が良いけれど、オブシディアンに取っている宿に戻るには情報が足りないからナシだ。
「そうだ、神子」
思い出したのはオブシディアンで会った神子だった。
たしか隣町のダイオプサイトから来たと言っていた。そんなに遠いところでもないと。
神子はどの場所でも特別扱いされているし、その彼女とはもう知らない仲でもない。
そうと決めたら通信用の魔法具に魔力を込めた。宛先は神子へ。
相手の持つ魔法具は使い捨ての物だったはずなので簡潔に、ひとことふたこと入れて送った。
使い捨てと言えども返信できるくらいの強度はあったはずだ。




