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インヘリテンス  作者: 梅太ろう
9/64

第9話【ガルイード王国】

「ちょっと!」


 その時、一人の老婆が二人に声をかけた。


「エイ婆……」


 エイ婆はゆっくりと二人に近づいて来た。


「カツさん、これ(風邪薬)はいくら?」


「え? に、二百ギットだけど……?」


 エイ婆は金額を聞くと、カツに二百ギットを渡した。


「これでいいでしょ? その手を離してあげて」


「え? あ、ああ」


 カツがテツの腕を離すと、エイ婆はテツの前にしゃがみこんだ。


「アンジさんと言っていたけど、君の大事な人?」


「うん、風邪ひいて熱があるんだ」


「それは大変ねぇ……食事はちゃんと取ってるの? 暖かくしてる?」


「食事はリヴの船で食べて、それからは食べてない、今は毛布に包まってるよ」


「そう、風邪をひいたらちゃんと栄養のあるものを食べないと駄目よ、今アンジさんて方はどこにいるの?」


「んとね、あっちの方……今、川の横で寝てる」


「川? あっちの方の川って言ったら……ミラージュ川!? まあ、そんなところからここまで歩いて来たの?」


「ううん、走って来た!」


「そう、それは大変だったでしょう、坊や名前はなんて言うの?」


「テツ! アンジが付けてくれたんだよ!」


「そうなの? じゃあアンジさんはテツくんのお父さん?」


「ううん! お父さんじゃないって言ってた!」


「?? そうなの? 私はエイ、皆からはエイ婆って呼ばれてるわ、エイ婆って呼んでちょうだい、それと、テツくんさえよければ婆やの家に遊びに来ない? 長旅で疲れたでしょう、ご飯をご馳走するわ」


「でも、アンジに薬持って行ってあげなきゃ……ぐうぅぅぅ……」


「フフフ……そのアンジさんにもお弁当を作ってあげる、その間に食べていれば良いわ」


「そっか! わかった! じゃあ食べる!」


「決まりね! さあ行きましょ!」


 それを聞いていたカツは毒づいた。


「けっ! めちゃくちゃな話じゃねえか、どうせ嘘にきまってらぁ!」


 しかしエイは気にも留めず、二人は町の隅にあるエイ婆の家へと向かった。



 ――――


「さあ出来たわよ!」


「わあー! 美味しそう! 食べて良い?」


「ええ! もちろん! いっぱいあるから沢山食べて」


「うん! 頂きまーす!」


 テツは口いっぱいに頬張った。


「うまーい!」


「うふふ、お口に合ったかしら?」


「エイ婆ご飯作るのうまいね! アンジが作るのと全然違うや!」


「うふふ、そう? ありがとう」


 エイ婆はそう言うとテツの目をじっと覗き込んだ。


「な、なに?」


「テツくん……よく見ると変わった瞳の色をしているのねえ?」


「ああ、赤いの? アンジも言ってた……変?」


「んんん! いいえ、とってもよく似合っているわよ」


「ありがと! エイ婆はここで一人で暮らしてるの?」


「ええ……数年前に夫を事故で亡くしてしまってね……息子もいるんだけど、ガルイード王国って言う大っきな王国に働きに出てしまって、今じゃ婆や一人きりよ」


「ふーん、そういうのって寂しいって言うんじゃないの?」


「そうねぇ……寂しくないって言えば嘘になるわ、でも、町の人達も良くしてくれるし、こうしてテツくんみたいな可愛らしい子が遊びに来てくれれば、婆やは楽しいわよ」


「そっか! 楽しいなら良かったね!」


「そうね、それに、息子もやっと来年になったら仕事を独立出来るらしくてね、あと半年もすれば帰ってこれるって、それもお嫁さんを連れてね」


「へー! じゃあもう寂しくないね!」


「ええ! だから婆やもそれまで元気でいないと! 寂しいって落ち込んでいる場合じゃないわ!」


「そっかー!」


「ええ、ふふふ」


 テツはエイ婆の作った料理をお腹いっぱい食べた。


「ぷわー! お腹いっぱいだ!」


「ふふふ、それはよかった、アンジさんのお弁当も出来上がったわよ」


「本当? ありがとう! あ……でも、そういえば僕お金持ってないよ……」


「お金は良いのよ、とっても楽しい時間を過ごせたわ、それだけで十分よ」


「いいの? ありがとう!」


「ええ! ところでテツくんとアンジさんはこの先どこへ行くの?」


「アンジの国! アンジ怪我しちゃって、食料もなくなっちゃったから国に帰るって! んで僕も一緒に行くの!」


「へー、テツくんはアンジさんが大好きみたいね!」


「うん! アンジはいろんな事を教えてくれるんだ! アンジといると楽しいよ!」


「そう、それはなによりね!」


「あ! そうだ! アンジに早く薬持って行ってあげなきゃ! エイ婆、僕もう行くね!」


「そう、薬はちゃんと持った?」


「うん!」


「じゃあこれ、お弁当も、途中で落とさないようにね」


「うん! 気を付ける!」


「じゃ、じゃあ気を付けて行くんだよ……」


「わかった! エイ婆も元気でね!」


 テツはドアを開いた。


「テ、テツくん……」


「ん? なに?」


「また……また遊びに来てくれるかい?」


「いいよ! アンジの国でアンジの傷が治ったらまた島に行くから、その時にアンジと一緒に来るよ!」


「ありがとう……その時はまた腕に寄りを掛けてご馳走作るわ!」


「わかった! 楽しみにしてる! じゃあまたね!」


「ええ、じゃあまた……」


 テツはエイ婆の家を去って行った。エイ婆は、テツの姿が見えなくなるまで、いつまでも見送っていた。



 ――――


 テツは町中を走り回っていた。


(あれー? どっから入って来たっけ? んー)


 テツは家の屋根の上へと飛び上がり、辺りを見回して出口をさがした。


(えーと……あ、あっちだ!)


 テツは屋根から屋根へと飛び移り、町の出入り口へと急いだ。そして町の出入り口に辿り着くと、またもの凄い速さで林の中を駆け抜けて行った。


(お弁当落とさないようにしなきゃ)


 テツはエイ婆からもらったお弁当を胸にギュッと抱きしめ、アンジの元へと急いだ。


「アンジー!」


 町から三十分程でアンジの元へと辿り着いた。


「アンジ! 薬もらってきたよ! あとお弁当も!」


「うーん……うーん……スンスン……クンクン……!!」


 アンジはお弁当の匂いに気付き、勢い良く起き上がった。


「はいこれお弁当!」


 お弁当を受け取ると全力で頬張った。


「ガツガツ、モグモグ……!? テツの分は?」


「僕食べて来たから平気だよ!」


「そ、そうか……?」


 アンジはしばらく無心で弁当を食べ続けた。


「ぷはーあ!」


 弁当を全て食べ終えたアンジは、またその場に倒れ込んだ。


「アンジ! あと薬もあるから飲んで!」


 そういうとテツは寝転がるアンジに薬を飲ませた。


「うぅーん」


「これで良くなるかな?」


 テツは横になってるアンジに毛布を掛け直し、アンジの回復を待った



 ――翌日


「う、うーん」


 アンジは起き上がり、辺りを見回した。


(テツは……?)


「テツー!」


 林の中からテツが現れた。


「あ、アンジ! 身体良くなったの?」


「ああ! おかげさまで元気になったよ! テツ、ありがとう!」


「へへ、良いよ! なんかいろいろ楽しかったし!」


(楽しいって……)


「ところで、あの薬とお弁当はどうしたんだ? 誰か通りすがりの人にでも頂いたのか?」


「ううん、あっちの方に町があってね、そこでエイ婆って人が薬もくれたし、弁当も作ってくれた!」


「そ、そうか? ずいぶん奇特な人もいるもんだな……」

(あっちに町? そんな近くに町なんてあったのか?)


「なんて町だい? 近くならお礼を言いに行かなくちゃ」


「んー、町の名前は知らない、近いのかな? アンジじゃ時間掛かるかも、でもまたアンジの傷が治ったら一緒に行くって行ったから、そん時行こうよ!」


「そ、そうか、それもそうだな、こんな状況で行ってもまた御迷惑をかけるだけだしな、まずはガルイード王国に帰る事を優先しよう」

(しかしテツにとって僕はすっかり軟弱な印象なんだなぁ……)


「ん? 今なんて?」


「ん? ああ、僕の国だよ、ガルイード王国って言うんだ」


「ふーん……」

(なんかどっかで聞いたような……? ま、いっか)


「どうした?」


「ううん、アンジ、身体よくなったんなら早速行こうよ!」


「ああ、そうだな、では! 遅れを取り戻す為にも! 急ぐぞテツ!」


「えー、遅れたのアンジのせいだし、またすぐ疲れないでよねー」


 ズルッ……。


 二人は再び歩き出し、ガルイード王国へ向けて歩き出した。数時間でゴサマに辿り着き、町を抜けると幾つもの山を越え、およそ三日後……。


「はぁはぁはぁ……」


 二人はある山の頂上へと辿り着いた。


「み、見えた! テツ! ガルイード王国だ!」


「え! どれ? どれ? あ! あった! わー! 大っきなお城―!」


 それは、大きな山々に囲まれた、とても大きな王国であった。


「さあ、行こうテツ!」


「うん!」

次回第10話【訃報】

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