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インヘリテンス  作者: 梅太ろう
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第44話【風の牢獄】

「に、にいさん……」


 カダン隊長は、掴んだデズニードの腕を上げると、 腹部に拳をねじ込み吹き飛ばした。そして這いつくばるロムへと目線を落とした。


「うぐぐうう……に、にいさ……カ、カダン隊長……も、申し訳ありません……偉そうなことを言っておきながら……結局は無様で……」


「……」


「くううう…… 僕の、十五年間は……結局……ううぅ……兄さんには…… 兄さんにはどうやっても追いつけない……僕は……僕は……ううううう……」


「……ふんっ……」


 カダン隊長は特に声を掛けることもなく、ロムに背を向けデスニードの方へと向かった。そして、うなだれるロムの前には薬草の入った袋が置いてあった。


「コホォォオオオオ……」


 デズニードは起き上がり、カダン隊長を観察するようなそぶりを見せた後、得意の左足で踏み込み、カダン隊長へと突っ込んだ。


 するとカダン隊長は呟いた。


「いいのか? その足でそんなに強く踏み込んで……」


「??!!」


 デズニードが左足で強く踏み込んだその瞬間、左足の甲冑がバラバラに砕けた。 


 先ほどロムが左足を燃やした時、甲冑は炎により金具が溶かされ脆くなっていた、その状態で強く力を掛けたので一気に砕けたのであった。


「コホッォ!!」


 そして、デズニードがバランスを崩したその時、 カダン隊長は凄まじい速度でデズニードへ詰め寄り剣を抜いた、そしてその瞬間 、デズニードの身体に無数の閃光が走った。


「ふんっ!」


 カダン隊長が剣をしまうと、デズニードの身体はバラバラになり崩れた。


「自分の身体の異変にも気付かぬ愚か者め……」


 そしてカダン隊長は振り向き、テツとアンジを見た。


「これで……あとはお前達二人だけだ」


 他の隊長達もデズニードを倒し、テツとアンジの前へと詰め寄り、ついには残りの全兵士が、テツとアンジの前に立ちふさがった。


 そして、ピリついた空気の中、ブロウ隊長が口を開いた。


「なにやらおかしな魔法を使うみたいだが、これだけの面子を前に、どうする?」


 ノーズもそれに続いた。


「へっ! 俺達の戦いを見て、腹ん中じゃ今更後悔してんじゃないすかね?」


 そんな中、グローランドは憤りを抑えられずにいた。


「やられていった兵士達の無念! 晴らさせてもらうぞ!」


 テツは目を爛々と輝かせ、アンジに問いかけた。


「ねえどうする? アンジやる?」


「よろしいのですか?」


「うーん……いい! アンジやって! 僕がやるよりアンジがやった方が面白い事になるから!」


「承知致しました」


 アンジが隊長達の前へ一歩踏み出ると、それを見たケイスは思った。


(流石に自分の子供を戦わせる程、非道ではないみたいね……)


 そしてサンタニロ隊長がアンジに叫んだ。


「貴様! この状況で勝てると思っているのか!? 自分の子供を巻き込むな! 意地を張らずに降伏しろ!」


 それを聞いたエイルは怒りを押し殺しながら呟いた。


「冗談じゃない、子供はともかく、こいつはガイル達をあんな化け物に変え、ミゲルやグローランド達を殺した張本人だ! 降伏なんてさせない! 必ず殺す!!」


 アンジは笑った。


「くっ! ふふ! ふはは! はははは! はーっはっはっは!」


「な!? こ、こいつ!」


「……っふう……さっきから黙って聞いていれば片腹の痛い……たかだかスズメの涙程のオームを与えた兇獣きょじゅうを倒したくらいで調子に乗ってもらっては困る……」


「き、兇獣きょじゅう……? オーム……?」


「……」


 アンジの話を聞き、ロムはたじろいでいた、そして、カダン隊長は黙ったまま、うっすらと額に汗をかいていた。


 そんな中、アンジは話を続けた。


「ただ、お前達の戦いは、大変興味深いものがあったよ、力無き部分を補う機転や応用、そしてなにより、互いの絆だ」


「…………」


 全員が固唾を飲み、アンジの話を聞いていた。


「他を思い、信じ、それに応え……個々ではとるに足らない力でも、時にその絆が己の能力以上の力を引き出してくれる……」


「な、なにを言っているんだこいつは……」


 ディムは気味悪そうに言った。


「素晴らしいよ、感銘を受けた、少しだけ……人間だった頃の淡い記憶が蘇ったような、そんな気さえした……」


「人間だった頃……?」


 ストロス大臣もまた、アンジを不気味に見ていた。


「人と人との絆……美しい……特に、兄弟愛はなおさら……」


「…………」


 カダン隊長の汗が止まらない。


「そして……」


 アンジは手のひらを上に、右手を前に出した。


「それが壊れていく様も!」


 アンジは右手の指を上に上げた。


「!!??」


「うわ!!」


「??!!」


 突如ロムの足元からロムの周りを囲うように円筒の厚い風の膜が貼られた。


「な! なんだこれは!?」


 ロムはたじろぎ、左足を後ろに退げた。


「うわああああ!!!」


「なに!?」


 ロムの左足を無数の風の刃が切り裂いた、それを見てアンジは不敵に笑った。


「風の牢獄【バルウィンド】かまいたち、は知っているな? その中で動くと無数の風の刃に切り裂かれる事になるぞ」


「うわああああ!!!」


 バルウィンドの中で、ロムは全身を切り裂かれ始めた。


「お、おい!」


「ああ!」


 それを見たエイルとディムはバルウィンドに突っ込み、剣を振った。


「ぐわ!」


「がぁ!」


 しかし、二人の剣は風の刃に弾き飛ばされてしまった。


「半端な攻撃は通用しない」


 アンジは不敵に言い放った。


「うわあああ!!!!」


 風の刃はロムを容赦なく切り裂いていった、切り裂かれる中で、ロムは自分の死を悟った。


(あああ……結局僕は……なんの役にも立てず……兄さん……)


 遠のいていく意識の中、ロムが目にしたのは……バルウィンドの中へと入ってくる兄、カダン隊長の姿であった。


「うおおおおおお!!!!!!」


 カダン隊長は切り裂かれながらも強引に自分の体をバルウィンド内にねじ込み、ロムを外へと突き飛ばした。


「うぐっう!」


 すると、今度はカダン隊長がバルウィンド内に閉じ込められ、無数の風の刃に襲われた。


「うがああああああ!!!!」


「に! にいさん!!」


「来るなあ!!!! はあー……はあー……」


 カダン隊長は精神を落ち着かせ、体勢と呼吸を整えていた。


「ほうっ……素晴らしい……バルウィンドは中でじっと動かなければ刃に襲われることはない、その精神力、さすがは隊長、といったところか」


 ロムはカダン隊長に助けられたことに、動揺と混乱をしていた。


「に! 兄さん今何とか! いや、僕が中に! なぜ!? 兄さん!?」


 バルウィンドの中で、カダン隊長は小さく呟いた。


「はあー……はあー……だ、だから……だから戦場なんかに出てくるべきではなかったんだ……」


「え? にいさん……?」


 ロムは十五年前、オブシオンの森で兄に助けられた、その後を思い出した。



 ――――


「はあ! はあ! はあ!」


「に、にいちゃぁぁぁん……」


 リダはしばらく様子を見た後、ロムの方へ振り返った。


「よし! もう大丈夫だ! ロム! 安心しろ」


「うわああ!!! にいちゃああああん!!!!」


 ロムはリダに抱き着いた。


「うおっと! へへ! 泣くなロム! 大丈夫だって言ったろ!」


「うん! うん!」


 リダはロムを泣き止ませた後、自分の服を破り、ロムの傷口に巻いた。


「兄ちゃん、兄ちゃんは将来兵隊さんになるの?」


「ん? ああ! 俺は頭も悪いし、喧嘩ばっかしてるから、まともにカダン家を継げるなんて思ってないしな……兵士になって、強くなって! ゆくゆくは隊長になって、この国の平和を守るんだ! そして、もう……もう二度と大切な人は死なせない!」


「お、おかあちゃん………………んん!! 僕も兄ちゃんみたいになる! 強くなって! 兵士になって! 一緒に戦う!!」


「えー? ロムは、頭もいいし、世間の評判だっていいんだし、わざわざ危険な兵士なんかにならなくったていいんだよ、立派にカダン家の跡取りになるんだ」


「やだー! 僕も兄ちゃんと一緒に戦う!! 強くなる!!」


「ロム……いいか、兵士になるってのは、戦場に行くってことなんだ、戦場に行くっていうのは、危険で、いつだって死と隣り合わせなんだ、お前がそんなところに来ることなんてないんだ、戦場には兄ちゃんが出る! お前は安心して国で平和に暮らすんだ、兄ちゃんがいつだって国ごとお前を守ってやるから!」


「にいちゃん……んーいやだ!」


「な! こら! いう事を聞け! お前は戦場には出なくていいの!!」


「いーやだ! 兵士になる!!」


「こら、駄目だっての!」


「いーやーだー」



 ――――


「に、兄さんは、僕を危険な目に合わせたくなかったから……僕が兵士になる事に反対し続けて……」


 バルウィンドに手を伸ばそうとしたロムだったが、カダン隊長が叫んだ。


「来るなといっただろう!!!!!!」


「うう! 兄さん……僕は、結局兄さんの……足手まといにしか……ごめんなさい……うう……どうすれば……ふううぅぅ……」


「はあー……はあー……ロ、ロム……じ、十五年前の、オブシオンの森でお前が俺のようになりたいと言ってくれた時……本当は、うれしかったんだ……」


「え……?」


「だ、だが……それと同時に俺は怖かった……昔、俺を守ろうと獣に襲われ死んだ母さんのように……あの時、俺が助けてあげられなかった母さんのように……お前を、戦場で守れるのか……また死なせてしまうのではないか……そう考えると、怖かったんだ……」


「に、にいさん……」


「俺は……また戦場で大切な人を……お前を失いたくない……だから、だから頼む……逃げてくれ!」


「そ、そんな……兄さん……」


 その時、アンジは右手を振った、すると、右手から小さな風の刃が放たれ、カダン隊長の太腿を切り裂いた。


「うぐぅ!! うがあああああああ!!!」


 太腿を切り裂かれたカダン隊長は、その衝撃で動いてしまい、バルウィンドの無数の刃の餌食となった。


「にいさん!!!!」


「逃げろお!! ロム!!!! うがあああああああ!!!!」


 バルウィンド内にカダン隊長の血が舞い散り、だんだんと血の牢獄と化してきた。


「うううう!!!! にいさんんん!!!!」


「うがあああああああ!!!!」


 アンジはロムを見てほほ笑んでいる。


(ふふふ、さあ、見せてみろ……兄弟の絆を……愛を!!)


「ぐううう!!! あああ!! うう! ああああああ!!!!」


 その時、ロムの身体から、白い湯気のようなものが出てきた。


「ぐううううううう!!!! がああああああああ!!!!」


 ロムは立ち上がりバルウィンドへと飛んだ、そして右手を構え、その手をバルウィンドへと突っ込んだ。


「馬鹿な! 無茶じゃ!!」


 国王が叫んだ。


「うをおおおおおおおおお!!!!!!」


 ロムは構わず左手も突っ込んだ。それを見たエイルは驚いていた。


「な、なぜ手を入れられるんだ?」


 なんとロムは自分の両腕を氷で覆っていた、風の刃は氷を切り裂くも、ロムの生身までは届かないでいた、そして両腕で強引にバルウィンドをこじ開けようとしていた。


「素晴らしい! 風の刃を受け流せるほどの硬度な氷を纏わせるとは!!」


 アンジは恍惚とした表情を浮かべていた。


「うおおおおおおお!!!! ああああああ!!!!」


 しかし次第に纏った氷も削れ、風の刃はロムの腕を切り裂き始めていた、しかしロムは構わずに力を込めた。


「うあああああああああ!!!! がああああっっ!!!!」


 そしてついにバルウィンドをこじ開けた。


「ロ、ロム……」


 カダン隊長は遠のく意識の中で、自分に手を伸ばすロムを見た。


「に! 兄さん!!」


 カダン隊長は力を振り絞り、ロムに手を伸ばした。


 ……その時


 アンジの右手がカダン隊長の背中に突き刺さった。


「ようこそ……」

次回第45話【力と技】

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