第32話【バグレット】
数時間後、二人は孤島へとたどり着いた。
「久しぶりだなー! アンジ! とりあえずかたっぱしから殺っちゃう?」
「そうですね、それもいいですが、獣などいくら殺したところでたいした余興にもなりません、まずは一体、兇承獣を作りましょう、この島で一番能力の高い獣を見つけ、テツ様の目の輝きが戻り次第、それを兇承獣と致しましょう」
「この島で一番能力の高い……要は強いってことだよね、どいつかなー?」
「バグレット……」
「え? バグレットって前に言ってた伝説って言われてる?」
「はい」
「でもどこいるかわかんないんじゃないの?」
「いえ……恐らく、そこであろうという目星はついております」
「そうなの!? やった! バグレットに会えるんだ? どんな奴かなー? 強いのかなー?」
「テツ様に比べればなんてことはない小物でございます、今の私であれば、私でも十分に倒せる程度でございます」
「そうなの? でも僕やりたい! アンジ取っちゃだめだよ!」
「承知致しました、では今回はテツ様にお任せいたします」
「やった! じゃあ早く会いに行こうよ!」
「しかしまだテツ様のスクリアが完成されていないので、今殺してしまっては……」
「ちょっとだけ、ちょっと見るだけ」
「承知致しました、では……気づかれないよう、存在の確認だけということで」
「いやったー!」
アンジはテツを連れ、島の東にある火山へと向かった
「ここは…火山? なんか見覚えあるけど……」
「はい、バグレットは獣の中でも巨大なアークを持つと言われております、先ほどこの島へ来た時からこの火山の下から大きなアークを感じていたので、ここで間違いないかと」
「へー、アンジそんなのわかるんだ? 前いたときはそんなこと言ってなかったのに」
「これもテツ様が私にスクリアを授けてくれたおかげです、以前の私であればとても見つけることは出来なかったかと思います、そして無論、テツ様もバグレットのアークを感じることは容易に出来るかと思います」
「え? 僕も? んんー……」
テツは目を閉じて火山の下へと集中した。
「……うん……確かに感じる……なんかこう……うっすらと圧力みたいなのが渦巻いてる」
(うっすらと……)
アンジは不敵な笑みを浮かべた。
「はい、それがバグレットのアークでございます」
「へー……でも……アンジからの方が全然感じるね、本当に強いの? あいつ?」
「はい、人間界においては伝説とされる程でございます」
「そっかー、まあいいや、いこっか」
「はい」
そう言うと二人は火口から火山内へと入り、燃え盛るマグマの中へと入ると火道を降っていった。
「アンジ、マグマの中って入れたんだ? 普通熱くて入れないんじゃないの?」
「はい、普通の人間なら瞬時に溶かされてしまうでしょうが、私がうっすらとオームので膜をを張っているので」
「へー、そんなことも出来るんだ? なんでもありだね」
「テツ様には必要のないことでしたが、お召し物が燃えてしまわないよう、勝手ながらご配慮させていただきました」
しばらく火道を降ると中には大きな横穴が有り、二人はその横穴を進んだ、またしばらく進むと横穴は行き止まりになり、次は上へと続いていた。
「テツ様、そろそろ近くなってまいりました、奴に気づかれないよう、気配を殺しましょう」
「え!? 気配をころすって?? どうやって?? なんでも殺せばいいってもんじゃないって!」
「呼吸を薄く、自身の中に流れる血液の脈動を抑え、体温を消すイメージでございます」
「こ、呼吸をうすく……」
目を瞑るとテツは言われた通りのイメージに集中した。
「……」
「素晴らしい、まるでここにすらいない感覚でございます」
テツは目を開いた。
「よし、行こう」
火道を上がりきると、そこには大きな空洞が出来ていた。
二人はマグマの中から頭半分だけ出すと、辺りを見回した。
「こんなところにこんな空間があったんだ」
「どうやらここがバグレットの寝床のようですね」
「あの奥だね、あの奥から感じるよ」
「はい、ではゆっくりと、物音を立てずに行きましょう」
「うん、行こう」
二人はマグマから出ると空洞内に降り、アンジはオームを解いた、そしてゆっくりと奥へ進んで行った。
「テツ様……」
「うん、あいつだ……」
テツが見据えるその先に、巨大な塊がうずくまり、呼吸をしていた。
「寝てるのかな?」
「そのようですね、では居場所もわかったことなので、戻りましょうか」
「うん……」
「テツさま……?」
「……」
テツの首筋から鳥肌が立ち始め、髪の毛が逆立ってきた。
「テ、テツ様、」
テツは不敵な笑みを浮かべた。
「テツ様、どうかお気をお沈め下さい……」
テツの鳥肌は止まらず、髪はどんどん逆立ってきた。
「ピクッ」
その時、バグレットは何かを察知した。
「ピギャアアアァァァァァアアアッッッス!!!!」
バグレットは瞬時に起き上がり、臨戦態勢に入ると、テツに向かって咆吼した。
その大きさは十五メートル以上はあり、鋭い牙と爪を生やし、皮膚はまるで溶岩のようで背中には大きな翼を生やしていた。
「ははは、かっこいいー」
「テツ様……」
「グルルルルルルゥゥゥゥ」
「?!」
バグレットは口を閉じると上を向き、頬を膨らました。
そして次の瞬間、口を広げるとテツとアンジに向け、大量の炎を吐いた。
「グアアアアアアアアアアアアアァァァァァァ……」
バグレットが炎を出し切ると辺は炎に包まれた、しかしそこにはテツとアンジの姿はなかった、バグレットは落ち着かず、辺りを歩き回っていた。
その頃、テツとアンジは火道をに入り、島へと戻っている最中であった。
「テツ様……」
「ごめんごめん、なんか興奮しちゃって! でもあいついいね! かっこいいよ! 是非部下にしたいね! でもさ、あいつ言葉とか話せないし、無駄にでかいし、なにかと不便なとこはありそうだよね」
「ご安心を、大きな力を持つ者程スクリアを授けられると知能も発達します、バグレット程の力の持ち主であれば言語等は容易いかと、恐らく形態なども変えることが可能ではないかと考えられます」
「そうなんだ? 楽しみだなー! 早くスクリア出来ないかなー」
「そうですね、気長に待ちましょう」
「ところで、この後どうするの? いつ戻るかもわからないし、このまま何もしないで待ってるのは流石にヒマだよね……」
「ではどこか近場の国を一国落としに行きましょう、私たちの拠点も必要ですし、私もスクリアを授かり、その後本格的な戦闘もしていないので、良き運動になるのではないかと」
「本当?! いいね! 行こう行こう! お城があるところがいいなー!」
「承知致しました、では」
二人は速度を上げ、火口から島の上空へ飛び出した。
次回第33話【伝説】