第21話【雨】
「ガアアァァ! ゴアアァァァ!」
アンジはタローの攻撃をかわしつつ、背後へと回り込み、すばやく後頭部まで登った。
「おお! なんという身のこなし」
警備隊達はアンジの身のこなしに驚いていた。
「はああぁぁぁ……」
そしてアンジは精神を集中させ、両手をタローの頭へとかざした。
するとアンジの両手から優しい光が放たれ、タローを包み込んだ。
「グゥ、グルルゥゥ……」
(ど、どうだ?)
「グルルゥゥ……」
タローの目が虚ろになってきた
「グゥグゥグゥ……」
ついには倒れこみ、タローは眠りについた。
「よし! 効いた!」
「今だー! かかれー!」
「!?」
眠りについたタローに警備隊が突撃しようとしていた。
「ま! 待て! やめるんだ! とりあえずこのまま捕縛するんだ!」
アンジは慌てて警備隊の前に飛び出し、突撃を止めた。
「なにを言っておる! 捕縛なんか効くものか! それにこんな化け物を捕縛してどうする! またいつ暴れ出すかわかったもんじゃない! 直ちに抹殺する!」
「な!? 抹殺!? やめるんだ! この子に罪は無いんだ! こうなってしまったのは原因があるんだ……!!」
アンジはテツの事を思い出し、言葉に詰まった。
「貴様……? なにか知っておるのか? まさか、貴様の仕業か? この怪物を抹殺したら貴様も連行して取り調べる必要がありそうだなぁ」
「違う! だが!」
「ガアアァァ! ゴアアァァァ!」
「ぐわぁぁあ!」
アンジ達は目を覚ましたタローに吹き飛ばされた。
「ぐっ、効き目が浅かったか……」
「ガアアァァ! ゴアアァァァ!」
目を覚ましたタローは再び暴れだした。
「ぐぬぅぅぅ……ええーい! 早くあいつを殺せー! これ以上王国を破壊させるなー!!」
「おおおお!」
再び警備隊がタローへ突撃していった。
「グヲオオオ!!」
「ぐわぁぁあ!」
が、またも警備隊達はいとも簡単に蹴散らされた。
「グルルル……」
するとタローは一人の警備隊に目を付け近づいた。
「ひっ! ひぃぃぃいい!」
警備隊の男は恐怖でその場に剣を捨てて逃げ出した。
「グルアアァァァアァ!!」
タローは逃げ出した警備隊員に飛び掛かり、かぶりついた、そして上半身を食いちぎった。
「クチャクチャボリボリ……」
「なっ……」
アンジや警備隊達は驚愕している。
「ゴクン……グヲオオオアアアアア!!」
タローは警備隊員の上半身を飲み込むと咆哮した。
「うっ! うわああぁぁぁあああ!! ひぃぃいいい!!」
数人の警備隊が逃げ出した。
「ま! 待て! わ、私を置いてにげるなあぁぁ!」
そして兵長が逃げようと振り返った瞬間、何かにぶつかった。
「!!!!」
「……」
そこにはメダイが立っていた
「メ、メダイ兵隊長!!」
「……」
メダイは兵長を睨みつけた。
「うっ、い、いや、こ、これは……」
「……」
メダイは特に何も声を掛けることもなく、ゆっくりとタローに近付いて行った。
(あ、あれは、メダイ隊長?)
アンジもメダイに気が付いた。
「ぐっ」
アンジは身体を起こし、メダイへと近づいた。
「メ、メダイ隊長!」
「!? アンジさん?」
メダイもアンジに気付き、少し驚いた表情を浮かべた。
「メダイ隊長! その犬は、何者かの手によってそんな姿に変えられてしまったんです! その犬に罪は無いんです! そして、その犬の無事を! 帰りを待っている少年がいるんです!」
「……」
メダイはアンジの話を聞くも、黙って剣を抜いた。
「メダイ隊長! 待っ、はっ!!」
アンジはその時、メダイから滲むとてつもない程のアークを感じ取り、一瞬怯んだ。
「ガアアァァ! ゴアアァァァ!」
その時、タローがメダイとアンジへと向かって飛びかかってきた。
「!!」
「ぐわっ」
メダイはアンジを民家内へと突き飛ばした。
「ガアアァァ!」
そしてメダイはタローの噛みつきをなんなく交わした。
「グルルル……ガアアァァ!」
鋭い爪での薙ぎ払いもことごとくかわしている。
「ガアアァァ! ゴアアァァァ!」
そして次の攻撃を交わした瞬間、タローに剣を振り上げた。
「ぬうん!」
メダイはタローを切りつけた。
「グガアアァァァ!!」
するとタローから血が吹き出した。
「おお! さすがメダイ隊長!」
警備隊員たちはメダイの攻撃に驚嘆している。
「グガアアァァァ!!」
メダイは次々にタローへと斬撃を食らわせた。
「や、やめろ、やめてくれ……」
アンジは吹っ飛ばされたダメージとメダイのアークに圧され、声を出すのが精一杯になっている。
「グゥゥウ……」
タローはもうフラフラになっていた。
そしてメダイはタローに向い、再び剣を構えた。
「や、やめろ……」
アンジの訴えはメダイに届いていない。
「ガアアァァ! ゴアアァァァ!」
タローはメダイに向かい突撃してきた。
「やめろぉぉぉおおおー!!」
「ぬうん!」
メダイはタローの眉間を貫き、赤い鮮血が空に舞った。
「グ、グゥゥウ……」
そしてタローは倒れた。
「あ、あああ……」
「……」
メダイは血の付いた剣を払い、鞘へ納めた。
「……」
メダイは放心状態になっているアンジの元へとゆっくりと近付いた。
「アンジさん、自分は調査隊隊長である前にこの国の軍隊長であります、この国の秩序や治安、平和を乱すものがいれば処分、排除するのが私の責務、たとえどんな理由があろうともです」
「……」
アンジは呆然としている。
「たとえ誰であろうとも、それが……あの少年であったとしてもです……」
「……」
「失礼……」
メダイはそういうとアンジの元を去って行った。
アンジは暫くそこを動けずにいた。
――――
暫くすると雨が降ってきた。
アンジは立ち上がり、重い足取りでトビの元へと向かった。
「!!」
トビがアンジに気が付き、走り寄って来た。
「アンジさん! タローは?! タローはどうなりました?! 無事なんですか!?」
「……」
「ア、アンジさん……?」
アンジはトビの前に膝を落とし肩を掴んだ。
「す、すまない……」
「え?」
「タローを、タローを守ってやれなかった……」
「ま、も、って……って……? ま、まさか……」
「……」
アンジは顔をうつむけたまま、小刻みに震えていた。
「そ、だ……うそだ……ああああああ!! うそだぁぁああああ!! うそでしょ!? うそだって言ってよ!! アンジさん!! なんとかするって言ったじゃない!! ねえ!! うそだって言ってよ!!」
トビはアンジの両肩をつかみ、何度も揺すりながらもアンジに訴えかけた。
「……すまない……」
アンジはうつむいたまま、か細い声でトビへ謝った。
「うぅ……」
トビはアンジの肩を離し、突き飛ばした。
「うそつき……あんたは嘘つきだ……」
トビはアンジを睨みつけた。
突き飛ばされたアンジは泥だらけになりながらも、立ち上がることもなくその場にうなだれていた。
トビはそんなアンジを顧みることなく、その場から走り去って行った。
「ト、トビくん……」
雨はますます勢いを増していった。
次回第22話【取り調べ】