表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インヘリテンス  作者: 梅太ろう
18/64

第18話【逃走】


「……ん……っ……テ、テツくん!!」


 目を覚ましたサオは布団から勢いよく身体を起こした。


「え……? こ、ここは?」


「気が付きましたか……」 


「え?」


 サオは声がした方を振り向くと、一人の男が立っていた。


「あ、あなたは?」


「私はこの国の警備隊長のメザと申します、お怪我の具合はいかがですか?」


「警備隊……はっ! テツくんは!? 痛!」


「動くとお怪我にさわりますよ、安心して下さい、殺人鬼はここにはおりません、あなたは私達の保護下にあります」


「さ、殺人鬼!?」


「ええ、一般市民一人と駆け付けた警備隊三名を殺害した殺人鬼です、危ないところでしたね、でももう安心です」


「ち、違う! テツくんは私を守ろうとして!」



「やはりあの時アンジと一緒にいたあの子供じゃったか」


「!!」


 部屋の奥から男が出てきた。


「国王様!!」


「久しぶりじゃのうサオ、お前が今アンジと、その子供と一緒に暮らしているのは知っとる、お前と一緒にいたのはおそらく、そのテツという子供じゃろう……そして殺人鬼も……」


 サオは顔をしかめた。


「テツくんは、殺人鬼なんかじゃ」


「経緯がどうかは知らん、しかしその子は色々といわくがあっての……実際こうして事件を起こしてしまった今、こちらとしても黙っとるわけにもいかんのだよ」


「いわく……?」


「うむ……数日前、うちの訓練所での、調査隊の副隊長であるサルバが組手で、そのテツという子供に一方的に打ちのめされ重傷を負った、その光景はまるでなぶるようでな、アンジが止めたから重傷ですんだものの、そのまま続けていたら殺していてもおかしくない勢いじゃったらしい……」


「……」


 サオは数日前、アンジが珍しくテツに対して声を荒げていた事を思いだした。


「それだけじゃない」


「え?」


「ダーチを知っとるのう?」


「ダーチさん……アンジのお師匠様……」


「そうじゃ、この国随一の魔法使いじゃ」


「ダーチさんとなにが……?」


「前にアンジとテツがダーチの元を訪ねた時の事じゃ、ひょんな事からテツの魔法力を試す事になったらしい……」


「……」


「結果は……計り知れない程強大な力の持ち主じゃったらしい、本人はそれにまだ気が付いとらんらしいし、魔法の使い方すらまだ知らんみたいじゃがな、ダーチが言うには、もし魔法を覚えたならば、とんでもない魔法使いになるとのことじゃ……」


「……」


「そして、今回のこの事件……わかるじゃろう? あの子は人間の常軌を逸する程の力を持っておる、その力をもし、人間に悪意を持って使ったなら……とんでもない脅威じゃ! 最悪の事態を招く前に、人類の平和の為にも、あの子の処分を考えざるをえない……」


「しょ、処分て! テ、テツくんを殺すおつもりですか!!」


「ワシとて! まだあんな幼い子にこんな処分を下したくはない!! しかし……幼いから、まだ幼いからこそ、今のうちに手を打たねば、取り返しの付かないことになる……」


「そ、そんな……」



 ―― 取調室


 ダダンは警備隊の詰め所で取り調べを受けていた。


「だからー! いきなりあいつが現れて、兄ちゃんを真っ二つにしたんだよ!!」


「真っ二つに? なにか武器を所持していたという事ですか?」


「武器? 使ってねーよ! 素手でだよ!! 本当だよ!! あいつ人間じゃねーよ!! 早く捕まえて殺してくれよ!!」


「現場に女性が傷だらけで倒れていましたが、お知り合いですか?」


「女?? ……あぁー、あれだよ! 最初、女があいつに襲われてたんだよ!! んで俺と兄ちゃんが助けようとしたら、あいつが襲いかかってきて兄ちゃんを真っ二つにしやがったんだよ!!」


「……そうですか……わかりました、今日のところはまだ興奮状態にあるようですし、もう結構ですので、また後日詳しくお聞かせ下さい」


「ああー?! なんだよ! まだ終わってねーよ!! おい!」


「こちらからどうぞ」


 ダダンは半ば強引に追い出された。


「おい! まだ話は終わってねーぞ! あの怪物どうすんだ! おい! へぼ警備!! おい!」


 ダダンは扉を叩くが、応答はなかった。


「くそっ! へぼ警備が!!」


 ドアを蹴り、その場を離れた。


「ああー!! イライラするー!! あの野郎!! よくも俺の兄ちゃんを!!」


 ダダンは道のあらゆるものに八つ当たりをしながら歩いていた。


「おらあ!!」


 力を込めて蹴り飛ばそうとした石は、思ったより大きく硬かった。


「痛ってー!! あぁぁああ!! くそっ!! ……ん?」


 すると道の先にトビとタローの姿を見つけた。


(あれは、トビじゃねえか?)


 ダダンは不敵な笑みを浮かべ、トビの元へと向かった。


「よおトビー」


「ダ、ダダンくん……や、やあ、ごきげんよう……そ、それじゃ……」


「おーっと、なんだよつれねえなぁ、俺たち友達じゃねえかよー」


「は、はは、僕、母さんに買い物頼まれてる途中だから、悪いけど失礼するよ……」


 トビはそそくさとその場を立ち去ろうとした。


「おい! ちょっと待てって言ってんだろがよ!」


 ダダンがトビの肩を強引に引っ張ると、トビの持っていた荷物が落ちた。


「ワンワン! ワン!」


「あーん? またこの犬かよ、うっせーなー!」


 ダダンはタローを蹴り飛ばした。


「ギャン!」


「ああ! タロー!」


 トビはタローの元へ駆け寄った。


「タロー! 大丈夫かい!?」


「へっへっへ」


 再びダダンがタローとトビに近寄った。


「ダダンくん、お願いだよ! タローには手を出さないでおくれよ、僕はどうなってもいいけど、タローだけには、手を出さないでおくれよ……」


 ダダンはそれを聞くとトビの前にしゃがみ込んだ。


「そうか、悪かったな……お前がそんなに犬を大事にしてたなんて、気が付かなかったよ……悪かった……」


「ダダンくん……」




 次の瞬間、ダダンはトビの髪を掴んだ。


「じゃあお前でがまんしてやるよ!」


「え!?」


「おら! 立てー!」


 ダダンはトビの髪を掴んだまま持ち上げた。


「痛っ!」


「おらあ!」


 トビは頬を殴られた。


「ぐぁっ!」


「んふー! きんもちいいー!! やっぱムシャクシャしてる時はトビを殴るに限るねー!」


「ぐふっ! がはっ!」


 ダダンは執拗にトビを殴り続けた。


「!? 痛っっってぇぇぇ!!」


 その時、タローがダダンの足に噛み付いた。


「ワンワン!!」


「ぎゃあ!」


 タローは転んだダダンの腕にも噛み付いた。


「ヴヴー! ヴヴー!」


 タローはダダンに向かい威嚇をしている。


「ぐぁぁぁ……痛ぇぇぇ……ってこの、馬鹿犬がぁぁああ!」


 ダダンはタローを蹴り飛ばした。


「キャイン!」


「こ、こんのやろう……この、クソ犬があああああ! ぶっ殺してやる!!」


 ダダンは助走をつけて思いっきりタローを蹴り飛ばした。


「ギャンッ!」


「オラオラオラ!!」


「キャン! キャイン!」


 ダダンは何度も何度もタローを蹴り続けた。


「タ、タロー……や、やめて、タダくん……やめて、おくれよ……タロー……タロー!!」


 トビの声も空しく、ダダンは執拗にタローを蹴り続けた。


「ひゃははははー!! 気ん持ちいいいぃぃー!!」




「おい」


  ダダンの後ろにテツが現れた。


「!!!!」


 するとテツはダダンの後頭部を掴んだ。


「ひぃ!!」


 そしてそのまま地面に叩きつけると、ダダンの頭部は粉々に砕けた。


「ピク、ピクピク」


 トビは呆然とそれを見ていた。


「…………え……あ……はっ! タロー!」


 トビは正気に戻るとタローの元へと駆け寄った。


「タロー! タロー! 大丈夫かい? タロー!」


 タローはぐったりしたまま動かない。


「そ、んな……タロー! タロー!」


 タローはピクリとも動かなかった。


「タロー……ぐっ、うわああぁぁぁぁぁあああ!! タロー!! いやだぁぁあああ!!」


 トビはタローを抱きしめ泣き崩れた。


「…………」


 テツはそんなトビをジッと見つめていた。


「……動かないの?」


「うっ、うっ、うっ……」


「動くようにしてあげようか?」


「うっ、うっ……え? ……で、出来るの……?」


「うん……」


「じ、じゃあお願いだよテツくん! タローを! タローを助けてやってくれよ!」


「…………いいけど、じゃあ少し離れて……」


 するとテツはトビをタローから引き離し、タローの前にしゃがみこんだ。


「?? テツくん??」




 ックン……ックン……ドックン、ドックン


「?! タロー……?」


 暫くすると、突如タローの方から鈍く低い音が聞こえてきた、トビはテツに恐る恐る問いかけた。


「え……テ、テツくん……この音は? これは一体…?」


「いたぞー!! あそこだー!!」


「え!?」


「……」


 数人の警備隊がテツを発見し、こちらへと向かってきた。


「え? え?」


 トビは混乱している。


「取り押さえろー!」


「おおー!!!!」


 数人の警備隊がテツに襲いかかった。


「……」


 テツは一瞬で襲い掛かってきた数人の警備隊を素手で切り倒した。


「なっ!!」


「……」


 テツは兵長らしき男にゆっくりと近付いていった。


 そして目の前で立ち止まると、鋭い目で睨みつけた。


「うっ……」


「サオはどこだ?」


「うう……」


「サオはどこにいる?」


「う、うわあぁぁぁあああ!」


 男はテツに剣を振りかざしたが、その瞬間、男の両腕が切り落とされた。


「ぎゃぁぁぁあああぁぁああ!!」


「もう一度聞く、サオはどこだ?」


「ひっひぃぃ!! わ! わかんないですぅぅうう!!」


 テツは男の首を落とした。


「……」


「う! うわあぁぁぁあああ!!」


 それを見た残りの警備隊は逃げていった。


「ブルブルガタガタ……」


 唯一残った警備隊の一人がテツに震えながら構えている。


「……居場所を言う気がないなら死ぬだけだよ」


「ブルブルガタガタ……」


 テツはゆっくりと震えている警備隊員に近付た。


「ブルブルガタガタ……」


 テツは片手を上げた。


「ブルブルガタガタ……」


「――テツくん!!」


 その時、トビがテツに叫ぶとテツは手を止め、トビの方を振り返った。


「テ、テツくん、君は……」


「……」


「!!」


テツは姿を消した。


「テツくん……」


 その時、横たわるタローの目からは、赤黒い光が輝きだしていた……。

次回第19話【警備隊】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ