モブ令嬢に強制終了された転生ヒロイン
コルネリアはシュワルツ男爵家の長女であった。
輝く金髪に透き通る青い瞳、キメの細かい白い肌、桜色の唇。
とびきりの美少女であるが元気いっぱいの気さくな人柄で家族に愛され使用人にも好かれていた。
15才になり、明日はいよいよ貴族学園に入学という夜半、唐突に前世を思い出した。
ベッドの中で驚愕に目を剥く。
「あのゲームのヒロインは私だった!」
♡♡♡♡♡
入学から1ヶ月が経ち、コルネリアの攻略は順調だった。
といっても、まだルートは定めなくてもいい時期なので王太子・次期宰相・次期騎士団長といった攻略対象
それぞれの出会いイベントをこなしての好感度上げくらいのものだ。
校内で遭遇した際の雑談程度である。
まだ悪役令嬢も起動前なので特段の注意を払っていなかったのだが…
「男爵家の貴女、ちょっといいかしら?」
休憩時間に教室で同じクラスの栗色の髪を縦ロールにしたモブ令嬢に話しかけられた。
たしか名前はアマーリエ・リューベック。
侯爵家の令嬢でいつも取り巻きを1人だけ連れてるモブ。
高位貴族ではあるが小物だ。
「なんですか?」
これから隠しキャラである身分を偽って留学している隣国の王子との出会いイベントをこなす予定であったため
ちょっと横柄な感じが出てしまったかもしれないがシナリオの強制力があれば問題ないはずである。
「入学以来、目にする貴女の振る舞いが少しばかり新鮮で気になるのよ。
特に高位の殿方への接し方が刺激的過ぎないかしら?」
(はいはい例のやつですねー)
悪役令嬢のフラグでこの高位貴族モブから苦言を呈されてるんだなと秒で事態を把握したコルネリア。
教室中の注目が集まっている。お助けキャラの子爵家令嬢の友人が寄り添ってくれている。
ちょうど良い。ここでヒロインとしての立ち位置を明確にすべきと気合を入れる。
「王太子殿下方と親しくさせていただいておりますが、それに関することでしょうか?」
「誰方がというのではないわ。接し方と申しましたでしょう?」
「どのようなことが問題なのか具体的にお教えください。」
ここで今までは鷹揚に話していたアマーリエが微笑みを消して目を細めた。
「あら、自覚がないのね。貴女の振る舞いは礼にかなってないのよ。」
「ここは貴族学園ですよね?」
「そうよ。その問いはどういう意味なのかしら?」
(ハマった!)
完全論破の御膳立てが出来て昂るコルネリア。
「学園内では身分に関係なく自由なはずです!」
(プークスクス)
ドヤ顔が抑えられないコルネリア。
「ウフッフフ、あらごめんなさい。はしたなくも笑ってしまったわ。
貴女、それは勘違いされていらっしゃるわ。」
「何が…」
「学問に貴賎なし。
貴女はこの学園が掲げる理念のことをそのように解釈されたのでしょう?」
「当然です!誰でも分かることでしょう。」
「私は侯爵家の令嬢で貴女は男爵家の令嬢、身分が違いますけど同じ授業を受けられている。
分かるわね?」
「そうです!そういうことでしょう?」
「ええ、そういうことです。」
「だからー、何も勘違いなんかしてなかったじゃありませんか!」
「いいえ。身分に関係ないのは学問に関してだけだったでしょう?
なのに貴女は身分に関係なく自由に振る舞えると解釈した。」
「ウッ…」
モブに完全に論破されてしまった。
とんだ赤っ恥だ。モブのくせに生意気な!
「いいじゃないですか!王太子殿下だって認めてくれてます!」
「無礼者!この国は身分制度が基盤となっているのですよ。
礼節を守れない者は貴族として認められません。
貴女の恥知らずな発言は王家を貶める行為です。とても不快だわ。」
教室の空気が凍りついた。お助けキャラの子爵家令嬢もいつのまにか距離をとっている。
これはバッドエンドの構図である。
「あ…」
「クロエ、シュワルツ男爵家に抗議の文を送るように手配なさい。
気分が悪いわ。帰ります。皆さま、お騒がせしてごめんなさい。
お先に失礼いたします。ごきげんよう。」
コルネリアが勝手に取り巻きと思っていた令嬢はリューベック侯爵家に所縁のある子爵家の令嬢で
行儀見習いとしてアマーリエの侍女をしているのであった。
貴族学園に侍女を伴えるというだけで相当な家格であることが分かる。
侯爵家は言うまでもなく大貴族であり、当然アマーリエは小物などではないのだ。
♡♡♡♡♡
コルネリアが残りの授業を心ここに在らずで受けて帰宅すると直ぐにお父様に呼ばれた。
執務室で待っていたのはお父様お母様お兄様、家族全員である。
そして全員の顔色が悪い。
「コルネリア、やってしまったことはしようがない。
リューベック侯爵家に謝罪の機会を頂きたいと使いを出したがキッパリ拒絶されてしまったよ。
お前にきていた婚姻の申し込みも貴族家のものは全て撤回されてしまった。
ハッキリ言うがお前に貴族としての将来はなくなった。
修道院に入って余生を静かに過ごすか老人の後妻かもしれないが裕福な平民と婚姻するか…
お前はどうしたい?」
「私は…」
♡♡♡♡♡
あれから3年。
今頃は貴族学園の卒業式でシナリオ通りであれば攻略対象の誰かが婚約破棄して悪役令嬢をやっつけてたことだろう。
そうはならなかったし、それで良かったとも思う。
コルネリアは王都随一のブティック経営者の妻として幸せを噛み締めていた。
貴族ではなくなったが元男爵家令嬢として平民ばかりの商人の社会では羨望の的である。
服飾業において貴族令嬢の思考に基づいたセンスは強力な武器になった。
金持ちの夫はとても大事にしてくれる。
男爵家も決して貧しくはなかったが今ほどではなかった。
なにより社交もなく自由なのがいい。
あの後、平民からの婚姻申し込みから見つけたのだ。
ゲームでは王太子が卒業式後の舞踏会で着るためのドレスを贈ってくれた。
採寸のために王太子と共に訪れたブティックの店主からの婚姻申し込み書。
ゲームで見たスチルの端っこには若くイケメンで優しげなモブが写っていた。
転生ヒロインだけどモブにシナリオを強制終了された後、モブと結婚して幸せになりました。