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 □■□■


 やがてすっかり息絶えてしまった男を見下ろして、セブンスはそっとため息を吐いた。

 せっかく時間をかけたのになにも収穫がなかったので彼女は落ち込んでいるのだ。

(こんなことならすぐに殺して戻ればよかった。そしたらもっと早く戻れたのに)

 そんな後悔をしてももう遅い。

 セブンスは踵を返し、ふと少女に視線をやる。

(そういえばコレけっこう汚れてるな)

 なにせ見えざる縄で締め付けられたり飛び降りたりしたので、その衝撃のせいで皮膚が裂けてしまっている。

 いまからマリーと綺麗なカフェでランチタイムだというのに、こんなものを持っていては変に目立ってしまうだろう。

 そう思ったセブンスは、男のローブの一部を切り取ると少女をくるんでやった。まるで赤子のおくるみのようにしたので抱きやすい。

 そうしていても気がつかない安らかな寝顔も、すこしだけ血に汚れているようだ。引っ張られるまま壁や天井を歩いているときにでも唇を噛んだのかもしれない。口の端から赤黒い一筋が伸びている。

 特に意識もなく、セブンスは少女の頬を舌で拭う。

 張りつけた舌にとろける血はしょっぱく、なまぐさく―――ほんのわずか、果実のような甘酸っぱい香りがある。

 彼女が落ちたときに感じた気がする芳香。

 セブンスだけが感じられる、血液の美味。

(マリーよりも、瑞々しい、かな)

 拭い上げた舌を口内で丸めて味わった彼女は、無意識にゆるりと頬を緩める。

(イケナイと分かってても、こういうのには弱いんだ)


 ―――血みどろの中で生きているからだろうか。

 いい香りのする血液は、セブンスの中にいつも特別な感情を呼び起こす。

 血液の香りに惹かれるのか、それともほかのなにかの要素がセブンスの鼻とつながっているのか。どちらにせよ、セブンスは美味なる血液に目がない。

 さすがに殺す相手の場合はそんなときめきをしっかり殺してしまえるとはいえ、相手は殺さなくてもいい少女。せっかくだからすこしだけ優しくしてやろうかなとセブンスは思った。


 少女の血液にしばし酔いしれ、ふと我に返って軽く首を振る。

(いや、うん。あんまり調子に乗るとマリーに怒られちゃうな。自重しよう)

 そうやって女性関係に失敗したことも過去にはあった。マリーが実は案外嫉妬しいなのも知っている。

 とはいえ相手は少女。よほど間違いはないだろうと思いつつ―――

(……まあ、でもこの子が汚いとマリーも嫌だろうし。どこかで顔だけでも洗ってからいこう)

 それでも内心で誰かに言い訳のような言葉を聞かせながら、セブンスは公衆トイレにでも寄ろうとその場を後にした。

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