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 □■□■


「……シロ」

「うっ、ぐすっ……しぇぶんす」

 セブンスが呼びかければ、シロは涙と鼻水でぐずぐずになった顔を上げる。

 きっと自分も似たり寄ったりのひどい顔をしているのだろうと思った。

 現にシロはぱちくりと瞬いて、それからぷふっと吹きだした。

「せぶんす、とってもおもしろいです」

「シロだって。同じだよ」

「えへへ」

 濡れた目元を拭ってやる。

 するとシロも小さな手で真似っこして、ふたりで互いを慰め合った。


「ねえ、シロ。これから、どうしたい?」

「わからないです……」

「そっか。そうだよね」

 死体の転がる路地裏で、ふたりは語らう。

 この場を離れるべきだろうとセブンスは思ったけれど。

 なにかとても疲れて、少しだけ休んでいたい気分だった。

「……でも」

 腕のなかのシロが、セブンスの服を掴む。

 繊維の弱くなった生地はそれだけでびりと破けて、驚いたシロが手を離すのを、迎えるように抱きしめる。

 少女はぎゅっと抱き返して、胸の内をそっとこぼした。

「でも、せぶんすと、いっしょがいいです」

 暖かな言葉が胸に溶ける。

 込み上げる喜びと安堵に、またひとしずく落ちた。

 たまらないほど愛おしくて、セブンスの腕にはさらに力がこもった。

「私も、私も、シロと一緒に居たいよ。ずっと、ずっと」

「えへへ。おそろいです」

 くすぐったそうに笑うシロの額にそっとくちづけを落とす。

 この白の少女を守りたいとそう願った。

 こんどこそ守りたいと、そう強く。


 だから彼女は告げる。


「―――ねえ、シロ」

 少女のビードロのひと房を指先に愛で。

 月のように愛らしく弧を描く背を押し、ふにやかな腹を押し付け。

 降り注ぐ太陽からさえ庇うように身体を丸めて。

「私が、あなたのクロになってあげる」

「せぶんす、?」

「私じゃ頼りないかもしれないけれど……こんなふうに、もしかしたらまた、怖い思いをさせてしまうかもしれないけれど……」

 見上げるシロの瞳は、困惑に揺れている。

 それも当然だろうとそう思う。

 シロにとって、絶対の守護者はクロだった。

 寝起きの彼女はいつもクロを呼んだ。


 だからこそ、彼女はそうなりたかった。

 それはとても自然な感情だった。

「私はあなたのクロになって、あなたのことを守ってあげたい」


 シロは、はく、と空気を噛んで。


 クロのことを、思い出して。


 それから彼女と出会ってからのわずかな時間を思い出して。


 最後に、夢まどろみの中にあった優しい人を思い出した。


 ソレはつやつやした黒い髪をしていて。

 赤く優しい瞳で、自分を見つめている。


 ―――シロの手が女の髪にそっと触れる。

 黒くて、少し、硬めの髪。

 クロとは違うけれど、でも、クロの髪だった。


「……せぶんすも、クロですから……だから、クロって呼んでも、いいです?」

「うん」

 少女の言葉を抱きしめて、女は緩やかにほほえんだ。

 誓いの言葉は決まっていた。

 力も誓いも名前さえも、ただただ愛する人のため―――それが彼女のすべてだった。


 これまでもそうだった。

 これからも変わらない。


 こんどこそはと、七度目になる誓いの言葉を。


「死がふたりを別つまで―――あなたのことを愛してる、シロ」

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