036
「……シロ」
セブンスは片手間に投げる短剣で女を破壊しつつ腕の中のシロを見下ろす。
ゆる、と動いたまぶたがそっと開かれる。
「もう、おわったです?」
「うん。シロのおかげ」
(助けるつもりが、助けられちゃったな)
そう思ってぎゅっと抱きしめると、シロはてれてれ笑う。
「えへへ。せぶんすががんばったからです」
「ううん。シロはね、本当にすごい魔法使いだったよ」
「そうです? シロ、すごいです?」
「うん。とっても」
「にへへ」
によによとほおを緩めて嬉しそうにするシロ。
セブンスに褒められると、シロはとても心がぽかぽかするのだ。
けれど彼女はふと周囲を見回した。もちろんそこに探す人の姿はなく、慌ててセブンスの顔を見上げる。
「ま、マリーはだいじょうぶです?」
―――その問いかけに。
セブンスは、目を伏せ沈黙するという―――およそ最悪の返答しかできなかった。
いままで見たことがないほどに沈んだセブンスの強烈な抱擁が、シロの柔らかな心を締め付ける。
「あ、ああ、あぅ、マリー、シロ、シロの、せいで、」
「違うッ! 違うの、私が、私が全部悪いんだ」
セブンスの懺悔をシロは受け入れられない。
シロは自分が狙われていたことを知っている。
それが原因でマリーまでも攫われたのだと思っている。
親しくなった優しいお姉さんの死に、マリーはどうしようもなく決壊した。
「うぅ、うぁ、あああああああああああ―――! ! ! !」
「シロ、ごめんね、ごめんね……っ」
わんわんと泣き喚くシロにひたすら謝罪の言葉を繰り返しながら、セブンスもまた涙を流す。
マリーの喪失と、シロの悲しみ。
そのどちらもが彼女の心を苛んだ。
(ああ、本当に、私のせいで、こんな、全部、全部私のせいで……)
セブンスはシロとともに泣きじゃくりながら、マリーとの最期のときを思い出していた。
隠れ家を出発するときの、あの楽しい朝のひととき―――では、なく。
それは、あの教会地下でのこと。




