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022

 やがて、隠れ家というセーフスペースによる安心感もあってか、マリーとシロはまた眠りに就いた。そういうふうにセブンスが促した。

 そしてセブンスはひとり、万が一に備えてふたりを見守る。

 移動中にも彼女の警戒には捜索するような気配は捉えられていなかったが、それでも見つかるときは見つかるものだ。ギミックにより隠された扉であってもぶち破ってしまえば同じこと。それをよく知るからこそ、セブンスは警戒を解くことなどできない。

 いざというときは、戦う力のないふたりを守りながらの戦闘となるかもしれなかった。

(守る、か)

 セブンスは苦い経験を思い出す。

 もうとっくに過去となった話だ。

 はじめての恋人であった女の死に様をいまも鮮明に覚えている。もちろん他の誰だって、これまでの愛した者たちのことは永遠に色あせることなく覚えているが―――それでもなお鮮烈な記憶だった。


『―――愛を永遠にする方法を、知ってるかしら』


 恋とともに死を願うその心臓へと(こたえ)を突き立てた、彼女との最後の思い出。


 セブンスにとっては一人目の殺人と呼べるもの。


 死がふたりを別つまで―――


 その言葉は、もともと彼女の口癖だったのだ。


(……マリーとは、いったいいつまで一緒に居られるんだろう)

 ぼんやりと、そんなことを思う。


 これまで六度永遠を願った。

 けれどもうすでに五度も想いは別たれた。


 一度目の愛は恋となって散った。

 二度目の愛は告げることも出来ぬままに潰えた。

 三度目の愛は恋を謳歌し、

 四度目の愛と絡み合って砕けた。

 五度目の愛は些細なすれ違いが恋を歪めた。


 六度目の愛はいま、恋人の形で腕の中にいる。


 もしもと六度目の喪失を思えば、自らの死さえ恐れないセブンスにも怖気が走る。

(もっと器用になれればいいのに)

 全部を守って、全部を丸く収めるような能力が欲しい。

 けれど願ったところで、そんな都合のいい魔法があるわけもなく。

 セブンスが得たのは無垢の短剣と、それを操る技術、そして愛という感覚だけ。

 彼女ははじめてそれを知ったときからいつも愛に生きていた。それは肺を満たしたと思えば胸に宿っていて、触れた肌から、交わす言葉から実感する。そしてよく恋と呼ばれるものと一緒になって彼女の身を縛り付けようとする。心地よい束縛だが、時折それは誰かへの愛に差し障る。

 嘆息をこぼし、なんの気なしにシロの頭をなでる。

(この子の魔法。あの、なんども体験したような既視感。幸運の妖精……たとえば、本当に何度も体験していたとしたら。そしてその体験の中から、最良の結果を引き当てるまでいまを繰り返すような―――)

 現象のリトライ。


 当たりを引くまでトライ&エラーするような。


 屋上からの落下を繰り返し。

 連れ去られるまでのわずかな時間を繰り返し。

 その果てに助けの手をつかみ取るような。


 もしもそんな魔法があったのなら。

 きっとどんな過ちもない、永遠の愛さえも夢じゃないのに―――

 そこまで考えて、苦笑する。

(なんて。仮にそうだとしても、自分で操れない魔法なんてロクなものじゃない。そもそも私は清廉(せいれん)なんてガラじゃないし)

 やわらかほっぺたに触れると、シロはうにうにとくすぐったそうに身じろぎをして、しかし手の感触を求めるようにすりすりする。

 幸せそうな寝顔だ。

 いったいどんな夢を見ているのだろうと、考えるまでもなさそうだった。


 セブンスはシロを胸元まで抱き上げる。

 頬ずりするシロはひととき不思議そうに胸をまさぐり、けれどすぐに安堵の表情を浮かべてむにゃむにゃと寝言を食んだ。


 ―――多分きっと。


 七度目の愛はこれだろうと、セブンスはそう思った。

 大切な人を失った事実を気丈に乗り越えようとする真っ白にまばゆい少女にどこか憧憬のようなものを抱いていた。似たような境遇へのシンパシーもあるのかもしれない。いずれにせよ、こうして抱きしめると確かな幸福を覚えるのだ。


(ああ……いつまでも、この三人で一緒に居たいな)


 彼女は恋人と少女に寄り添って夜を明かした。


 とても穏やかな夜だった。

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