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002

 □■□■


 ―――そこは広い寝室だった。


 星明りにぼんやりと照らされた闇に浮かぶ泡のなか、女がひとりいた。くすんだブロンドヘアに深い(あい)(いろ)の瞳の女だ。その中性的な顔立ちは一見性徴(せいちょう)前の少年のようでもある。

 薄雲のようなヴェールの垂れる天蓋の下、彼女は丁寧に口説いたばかりの新鮮な(・・・)恋人ともに安らいでいる。上品な華を思わせる芳香を堪能する女の吐息だけが、闇をゆるやかに波打たせていた。


 そんな静かな暗闇の中に、ノックの音が飛び込んだ。


 女は滑らかな肌にくちづけを触れて名残を惜しみ、それから気だるげに起き上がる。

「どうしたんだい」

『どうしたもこうしたもねえですぜお嬢』

 女の問いかけにこたえるのは、粗暴な口ぶりの男のダミ声。

『魔王陛下が殺られたってんであちこちパニックでさあ』

「そうかい。―――思ったよりも仕事が早かったね。さすがの腕だ」

 くぅ、とめいっぱいに伸びをして寝台から降りる。右の腰に刻み込まれた膨張する輝き(タトゥー)をなにげなく指でなぞり、女は恋人へと振り返った。

「悪いけれど、ボクはもう行かなければならないみたいだ」

 無口な恋人とキスをして、じわりと熱を注ぐ。

 どんなにクールな相手でも、そうすれば思いが伝わるのだと女は思っている。

「ゴルディ、例の妖精たち(・・・・)の方はどうだい」

『ちょうど運び出したところだって話ですぜ』

「ふふっ。これから忙しくなるね」

 衣装棚に並ぶ派手なグレーのスーツに身を包み、たっぷり30分は使って髪をオールバックに整える。最後にシンプルな腕時計をぶら下げ、軽く腕を振って位置を調整した。

 それ以上の装飾は化粧台に置き去りに、最後にもう一度恋人を振り返った。

「さようならアイリス。キミの輝き(・・)を忘れないよ」


 ―――藍色の闇の中に、女ひとり分の残骸だけが取り残されて。


 やがて曇り空が、星の灯りさえ奪った。

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