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001

 壁に、天井に、床に、テーブルに、絵画に、花瓶に、ランプに、像に、棚に、窓に、

 豪奢(ごうしゃ)な寝室のそこかしこに突き立てられたましろ色の短剣、短剣、短剣、短剣―――


 ―――総計97の鋭利が、合計124の警戒を射抜いている。


 そうして拓かれた寝台に腰かけ、女が短剣を弄んでいた。

 薄い金属板からくり抜いたようなシンプルな短剣は、部屋を飾るのと同じもの。

 そうでなくともこの光景を作りだしたのだと一目でわかる―――短剣のような女だ。

 短く切りそろえられた静かな黒の髪。鋭い目つきは今はどこか退屈そうに細められ、薄暗闇の中でまたたく鮮血色の瞳だけが妙に印象に残る。


 そんな見も知らぬ女がいるのを自分の寝室に見た老人は。

「なるほど。貴様が、そうなのか」

 ただただ深い納得を吐息に乗せ、晩酌となるはずだったワインを一息に煽った。


 額を中心に膨張する輝きのタトゥを戴く堂々たる老人。

 絢爛(けんらん)なる魔王と呼ばれるその人物は知っていた。

 おのれの仕掛けた124の魔術、その全てを破壊する無垢の短剣(しろいろ)を。

 けれど老人はその女の、特徴的な色彩さえも知らなかった。

 その意味することを理解しながら、老人はワイングラスをサイドテーブルに置いた。


「―――神父様によろしく」

「ふむ」

 とつぜん放たれる女の言葉。

 魔王が問い返せば、女はひいらと魔王を見すえる。

 静かな瞳だった。

 いま自分が放った言葉にも、目の前の魔王にもなんの感情も抱いていない。

「そう伝えるように依頼を受けた。それだけ」

 女が老人とすれ違う。

 なにげなく胸に突き立てた短剣が、あっさりと魔王の命脈を絶っていた。

 それでもなお彼女の中にはなんの感情も芽吹かない。

 思うことはただひとつだった。

(これでようやく、めいっぱいいちゃいちゃできる……)

 自宅で待つ愛おしい人に一刻も早く会うために、彼女はさっさと寝室を後にした。

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