ながれぼしのごはん
かなた君の小学校では、沢山の植物を育てています。
「今年の冬は、流れ星を育てることになりました」
冬美先生が朝の会の時間に、にこにこ顔で言いました。
「流れ星って、どうやって育てるんですか?」
「流れ星の種に土を被せてから、お水をあげたら良いんじゃないかな?」
「育つのにどのくらいかかるのかしら?」
目をまん丸にしたみんなが口々に質問をするので、冬美先生が「質問は手を挙げてからにしましょう」と注意をしました。「種屋のおじいさんが二時間目に持ってきて下さるので、育て方はそのときに聞いてみましょう」
種屋のおじいさんが持ってきた流れ星の種は、様々な色や形をしていました。
赤色の種 黄色い種 緑色の種
丸い種 四角い種 三角の種
みんな種屋のおじいさんの周りにわっと集まって、どれが良いかな、と真剣に選んでいます。
かなた君は、みんなの輪の中に入れませんでした。
押しのけたら、誰かが怪我をするかもしれないからです。
みんなが種を取って席に座ってから、かなた君は立ち上がりました。
種屋のおじいさんが持っている箱をのぞきこみます。
たった一つ残った、真っ黒で胡麻のように小さな種を見て、かなた君の目からは一粒の涙がこぼれました。
隣の席のゆいちゃんは、宝石みたいにきらきら光る流れ星の種を持っていたからです。
種屋のおじいさんは言います。
「わしにも、流れ星の育て方は分からないんじゃ。どうやったら育つか、分かったら教えてくれんかの? 流れ星の種は来年には消えてしまうから、今年中に植えないといけないよ」
次の日から、男の子も女の子も流れ星を育てることに夢中になりました。
「きっと、綺麗な流れ星が咲くと思うわ」
「咲いた後には、流れ星の実が生るってことだよね?」
「流れ星は食べられるってこと? 早く食べたいな」
学校の校庭には、沢山の植木鉢が並んでいます。
かなた君以外の人は、もう流れ星の種を植えてしまったようです。
お昼休みには、みんな揃って楽しそうに水やりをしています。
「まだ芽が出ない」
「そろそろ、植えてから一週間経つのにね」
「まだかなあ?」
「二週間も経ったのにね。流れ星を育てるって難しいのかな?」
明日からは冬休みです。
なかなか芽吹いてくれない植木鉢を持って、みんなお家に帰って行きました。
冬美先生は、かなた君を呼び止めます。
「かなた君は、流れ星を育てないの?」
かなた君の目には涙があふれました。
「植木鉢がないから、流れ星の種を植えられません」
十二月の学級だよりには<流れ星の種を植える植木鉢を持って来て下さい>とちゃんと書いてありました。かなた君のお母さんは、読んだのにすっかり忘れてしまっていたのです。
「忙しい、忙しい」
「後にしてね」
かなた君のお母さんは、お仕事がとても大変そう。
かなた君は、植木鉢のことを言い出せなかったのです。
かなた君の隣には、ゆいちゃんがいました。
「ゆいちゃんは、流れ星を育てないの?」冬美先生は、ゆいちゃんにもかなた君と同じ質問をします。
「育てられないんです。こうた君が、種を壊しちゃったから」
ゆいちゃんは、えーんと泣き出してしまいました。
「ママは『お姉ちゃんなんだから我慢しなさい』って言うの」
ゆいちゃんには、こうた君という二歳の弟がいます。
こうた君は、ゆいちゃんの流れ星の種を見つけて、なんと机に叩きつけてしまったのです。
ゆいちゃんはこうた君を怒鳴りたくなりましたが、こうた君はやって良いことと悪いことがまだ分からないので、じっと黙っていました。
ゆいちゃんの宝石みたいにきらきら光る流れ星の種は、真っ二つに割れてしまっています。
「先生と一緒に、流れ星の種を植えましょう」
かなた君とゆいちゃんの頭を撫でてから、冬美先生は言いました。
「でも、私の流れ星の種はきっと死んじゃったわ」
「ゆいちゃん、僕の流れ星の種と取り替えっこしてあげるよ」
ゆいちゃんが涙をぽろぽろとこぼすので、かなた君は、自分の種とゆいちゃんの種を交換することにしました。かなた君の目からも、涙のしずくが落ちています。
冬美先生が、校庭に二つの植木鉢を持って来てくれます。
三人で、流れ星の種を植えました。
「あ、かなた君、芽が出た!」
「ほんとだ。僕の流れ星の芽も出たよ!」
冬美先生は、目をぱちくりとさせて驚いています。
お星さまのように輝いた葉っぱは、ぐんぐんと大きくなっていきます。
大きくなって、大きくなって、とうとう校庭をすっぽりと覆ってしまいました。
「お花は咲くかなぁ?」
「実は生るかな?」
かなた君とゆいちゃんは、嬉しくてぴょんぴょんと飛び跳ねています。
「お花が咲くだって?」
「実が生るだって?」
「おかしいの」
「おかしいね」
『流れ星は飛ぶに決まっているじゃないか!』
流れ星たちはかなた君とゆいちゃんを乗せて、空高く飛んでいってしまいました。
校庭では、冬美先生が尻もちをついておろおろとしています。
「うわー。街が見えるよ」
流れ星たちは新幹線なんかより、ずっとずっと速いのです。
小学校から見えるお山をぐるりと一周します。
鳥たちが慌ててばたばたと羽を動かして、道をあけてくれました。
海の水面を走っていると、船長さんがあんぐりと口を開けて新聞を落としました。
後ろからは、イルカたちが駆けっこをするように追い駆けてきます。
「あ、お母さんの会社が見える! お母さん!」かなた君は、大きな声で叫びます。
秘書のお姉さんが驚いて、偉い社長さんの頭にお茶をこぼしてしまいました。
商店街をものすごいスピードで飛んでいると、ゆいちゃんが誰かを見つけたようです。
「ママ! こうた君!」
手を振りながら、ジェットコースターのようにぐるんぐるん。
ゆいちゃんのお母さんはあまりにびっくりして、買い物袋を手から落としてしまいました。
気が付くと、こうた君とゆいちゃんの後ろを沢山の人が追い駆けています。
トランポリンを持って走っていた消防隊の人たちは、足がもつれてすってんころり。
ピピーッ!
お巡りさんの笛が鳴り響きました。
流れ星たちから降りると、かなた君とゆいちゃんのお父さんとお母さんが駆け寄ってきました。思いっきりぎゅっと抱きしめられて、かなた君とゆいちゃんは嬉しそう。
かなた君とゆいちゃんは、手を大きく振ります。
「流れ星さん。ありがとう!」
「楽しかったよ! ありがとう」
流れ星たちはひときわ大きな光を放ち、星屑の雪を降らせて消えていきました。
『流れ星のご飯をありがとう』
流れ星のご飯
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優しい涙
(分かりにくいようなら一文追加します。)