#9/9
その翌年の秋のことです。
国王が崩御されました。
どうやら、肺を患っていたらしく、季節の変わり目に体調がついていけなかったのが原因とのことでした。度々の戦争による心労も祟ったのでしょう。
さらに、将軍も勇退を決し、情勢は大きく変わることとなりました。
そのことを、私は父が持ってきた新聞で知りました。
また彼は、母が昔使っていた喪服も持って来ました。国王が亡くなったのですから、国全体で喪に服します。私は喪服を持っていなかったので、たいへん助かりました。
それから数日後、私は真っ黒な喪服に白衣を羽織るちぐはぐな格好で、庭の薬草を摘んでいました。
数日の間に、冬が近付いてくるのが感ぜられました。あるいは、天すらも喪に服して控えめに活動しているのかもしれませんが。
風が冷たくて、摘んだ薬草を数えながら身震いしました。
こんな日はシチューを食べよう、そう決めました。私のシチューは、子供たちにも人気が高いので、作ると喜ばれるのです。
張り切って買い出しに出ようとすると、門扉のところに、人が立っているのに気が付きました。
「どうされましたか?」
具合が悪いのかと思い話しかけると、その人はこちらを見て、目を大きく見開きました。そして、気まずそうに逸らすのです。
「あぁ、いや⋯⋯ここはあなたの御宅かい?」
その人は、国民の例に漏れず、喪服に身を包んでいました。
片手にくたびれた大きな鞄を持っています。
顔はやつれ、髪もやや伸びていましたが、見覚えがありました。
「小さいけど、立派で美しい家ですね。きっとあなたを慕う人達が、心を込めて建てたのだろう?」
彼は言いました。そして去ろうとしました。
私は素早く答えました。
「いいえ、ここはクラウス・オールドマン先生のご邸宅です。私は単なる代理の管理者です」
言い切ると、彼はこぼれんばかりに目を瞠りました。私は大きく頷きます。
「野蛮人の行いで、かつての家は焼かれてなくなりました。けれど、先生を尊敬する町の人達の働きで、この家は蘇りました。住民一同、この家を以って、先生をお待ちしておりました」
私は歩み寄り、彼の手をしっかりと握りました。
「おかえりなさい、先生」
[fin]
2020/12/18
最後までお付き合いくださり、誠にありがとうございます。
タイトルの『心に形があるのなら』、誰にも解けないなぞなぞのような問。少女メリッサとクラウス先生の出した答えは、無数に存在する答えのひとつに過ぎないでしょう。
もしかしたら、別の答えを見出す人を、また書くかもしれません。
これにて、少女メリッサとクラウス先生の物語は終了⋯⋯なんですが、番外編なぞ書くかもしれません。書かないかもしれませんけれど。
最後までありがとうございました!