#5/9
誰かの叫び声で目が醒めました。
ぐっすりと眠っていた私は、それが夢なのか現実のものなのか、しばし判断できませんでした。ベッドの上で、眠気に負けそうな瞼を必死にこじ開けながら、どうにか起き上がりました。
ベッド下の靴に足を入れ、窓を開けます。夜風が吹き込んで、寝間着の隙間から寒さが襲い掛かります。
どうやら、叫び声は現実のもののようでした。
私の部屋からは先生のご自宅が見えます。
なにげなくそちらに目を向けた私は、一瞬で覚醒しました。
先生のご自宅に、赤々と炎が上がっているのです。
私は無我夢中で飛び出しました。夜道を駆け抜け、先生のご自宅へ。
先生のご無事を祈り、走る間は、五分よりも長く感じました。
先生のご自宅の前には、なん人か野次馬が集まっていました。
その集団は奇妙に佇んでいました。町の者に違いないのですが、誰ひとりとして、消火を試みる者がなかったのです。
「なにをしているんですか! 早く消火を!」
私は駆けつけるなり叫びました。
けれども、誰も応えません。私の顔を見て、気まずそうにしたり、おろおろとうろたえるものの、誰も動こうとしないのです。その間にも、炎は勢いを増していきます。
それは夜空を焦がさんばかりの業火でした。まるで、そう、異端者を処する火炙りのごとき炎でした。
「先生は? 先生はご無事なんですか!?」
いらいらしながら叫びました。もしかしたら、先生はすでに救出されているものの、火の回りが早くて、建物を見捨てるつもりなのかと考えました。
しかし、誰もなにも言わないのです。怖い顔を、あるいは悲しい顔を、互いに見合わせて、私を見るのです。それから、また先生のご自宅を見つめるのです。
私は、ようやく意味がわかりました。
夜風に煽られ、燃え盛るご自宅。
その前に立つ、軍人。
頭が真っ白になりました。息が止まりそうになりました。熱風が容赦なく吹き付けてくるのに、背筋が寒くてたまりません。
この火事は軍人の仕業だと、すぐに直観しました。町の人達は、逆らえば殺されるかもしれないと、黙っていたのです。
「せん、せい⋯⋯?」
喉からは引き攣れた声しか出ません。手はぶるぶると震え、足は鉛で固まったかのように動きません。
このとき味わった感情、これを、絶望と云うのでしょう。
軍人がふたりがかりで、先生を捕えていました。
そして、先生に向かって、別の軍人が細剣を突きつけていました。
それは、恐ろしく鋭い刃物でした。銀の刃が、炎を反射して赫々と輝いていました。
突きつけるその人は、昼間の軍人⋯⋯先生のお義兄さんでした。
お義兄さんは高らかに言いました。
「軍事機密漏洩の容疑で、クラウス・オールドマンを連行する!」
軍人たちは、表情ひとつ変えず、先生を馬車の荷台に押し込みました。それから、早々と王都へ馬を走らせました。
馬車の姿が見えなくなっても、私たちはその場に凍りついたように、動けませんでした。
気がつけばぽろぽろと、涙が頬を伝って落ちました。
2020/12/09