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私は、先生の助手をしています。
先生は私に医術を教えてくれます。先生が患者さんを診察する際、薬を取ったり、協力して手当てをしたり、一緒に医学書を紐解いたり。
三年、師事しているおかげで、私も医学の知識がかなりついてきました。けれども、先生にはまだまだ及びません。
師事しているといっても、田舎町ですし、いつも患者さんがいるわけではありません。また、ずっと医学書とにらめっこもしていられないので、先生と子供たちのご飯を作ったり、先生のご自宅の掃除をするのも、私の役目でした。
先生は、雑用はしなくてもよいと言ってくれるのですが、いつ急患が現れるかわからないので、なるべく先生の手は空けておきたかったのです。
今日は、先生に頼まれて買い物へ行きました。先生のお気に入りの茶葉をひと包み、籠に入れて先生の家へ向かいます。
先生宅の敷地の入り口は、薔薇のアーチが架かっています。秋を迎え、花は終わり、赤い実が成っています。この実が良い香りのお茶に、そして炎症の薬になることを、私は先生から教わっていました。
玄関から入ろうとして、庭の方から話し声が聞こえるのに気が付きました。誰だろう、と好奇心がもたげ、私は庭へ回りました。
庭では、たくさんの薬草が育てられています。一番奥には、食堂が営まれていた頃から植わっていた苹果が、枝もたわわに実を結んでいました。ふと、苹果は医者要らずとも云うのだと、いつだか先生が妙に楽しそうに仰ったことがあったと思い出しました。
その果樹の下に、子供たちが座っていました。枝からもいだのでしょう、手にはかじりかけの果実が握られています。子供たちは、先生から勉強を教わりに来ている面々です。授業が終わると、いつも先生は、好きに持っていきなさいと庭の植物を選ばせていました。大抵、人気なのはこの苹果でした。
ですので、この日の授業はもう終わったのだと私は思いました。子供のひとりが、私に気がついて声を掛けました。
「メリッサ姉ちゃん、どこ行ってたの?」
「先生のお遣いで、茶葉を買いに行ってたのよ」
私は籠から包みを持ち上げて見せました。紙の包みなので、中身はわからないのですが、その子はふぅんと納得したようでした。
「それより、授業は終わったの?」
「終わったっていうより⋯⋯」
子供たちは、困ったように顔を見合わせました。
「あのね、軍人さんが来てるの」
まず口を開いたのは、年長の女の子でした。その後は、それぞれが喋り出します。
「軍人さんが俺らのこと追い出しちゃった」
「でも先生が、お庭で遊んでていいよって言ったから⋯⋯」
「うん、軍人さんとのお話が終わったら、先生、歌ってくれるかもしれないから待ってるの」
軍人さん、という言葉に、私は背筋が寒くなるのを感じました。
この国の王は軍を持っています。第一の理由は国防です。軍人さんが国を守ってくれているのだと、子供は言い聞かされて育ちます。ですから、鎧姿だったり、剣を帯びていたり、物々しい格好をしていても、子供たちは怖がらないのです。
ですが、私は違います。今の私は知恵を付けています。軍人がこんな辺境の町にやってきたことは、なにかしらの異常なのです。
例えば、徴兵のため、とか。
五年前、国王が崩御し、その弟御に代変わりして間もなく、将軍も新しくなりました。
新しい将軍は相当な切れ者で、近隣の国に争いを仕掛けて勝利を掴み取り、この国の領土や資源を確保しているのです。
将軍の最も大きな功績は、軍の体制を大きく変えたことといいます。部隊編成や訓練方法を見直し、柔軟性を高め、様々な作戦を実行できる軍に育てたことなのだと、教わっていました。
他ならぬ先生から。
私はその時、妙に先生がお詳しいことが不思議でした。
その際に、先生は軍人なのかと訊ねました。結果は、はぐらかされておしまいでしたが。
2020/12/02