ああ、今日も寒い
実にうるさい真夏の目覚まし、セミの泣き声で男は目を開けた、部屋は真夏の気温に支配され蒸し蒸しとしている、体は寝ている途中にかいた汗でビショビショだ、男は体を起こすとその場に寝巻きを脱ぎ捨ててシャワーを浴びるために浴室を目指す、冷やした水を汗どころか体の熱すら削ぎ落とすほどの量で体を洗い流すと男は適当にタオルで体を拭くとそのまま寝室に戻りクーラーのスイッチを入れるとスマホをいじって適当にニュースなどを確認する。
現在○○市は三十八度!かこ最高記録を更新!
「今日も暑いな。」
納得する、どおりで暑いはずだ。男は他のニュースを楽に見ずに納得すると携帯を置いて昨日買っておいた菓子パンを適当に口に運び適当な服を見繕いそれを適当に待とうと一通りの身支度を済ませて部屋を後にする。
外に出るとさらに日差しが強くて照りつけるような日差しに嫌気が差してくるがそれでもコンビニはすぐそこだと自分に言い聞かせて暑いその世界に足を踏み出す。
「あぁ、おはよう、今日も寒いねぇ」
「は、はい、おはようございます。ん、さ、寒い?」
近所に住む老婆の挨拶に男は聞き返してしまった、ついにボケてしまったのだろうか?そんなことを考えて聞き返す。寒いはずがない、だって今日は夏の一日で暑いのだ。
「あぁ、夏だからねぇ。仕方ないけどねぇ」
夏だから暑い。その言葉に違和感すら感じていない様子の老婆に男は思わずたじろいだ、曖昧な返事を返すとそのままコンビニまで早足で向かう、不気味だったのだ。
「いらっしゃいませー。」
店員の声を聞き涼しい風を浴びながらコンビニに入る、やはり夏のコンビニというのは落ち着くものだ、と男は思いながら自分の好きな週刊誌、飲み物、昼飯を適当に選ぶ
「いやー、外は寒いからやっぱりコンビニの中って最高だよねー」
不意にそんな言葉が男の耳を貫いた。思わず男は耳を疑う、おかしくなってしまったのだろうか?それとも周りがおかしくなったのだろうか?
「ほんっと、外なんかいれたもんじゃないわ。」
特にツッコミがいれられることはなく普通に会話は進行していく、男は聞き耳なんて趣味が悪いと思ったが思わず耳を聞き耳を立ててしまう
「ほんっと、最近毎日寒くてたまったもんじゃないわ
」
「ほんとにねー、いつになったら寒くなくなるのかなー?」
寒気がした、些細なことだが確かに狂っている、それが男にはどうしようもなく不気味に思えた、思わず商品をすぐにレジに持って行きながらようにお金を払ってコンビニを出ると家に早足で急ぐ。
「おー、よー、今日も寒いなぁ」
「あ、おはよう、今日も寒いわね」
「よっす、いやぁ、今日も寒いな。」
帰る途中何人か知り合いにあったがみな口を揃えて
『今日も寒い』
というのだ、意味がわからない、寒い?暑いはずだ、男は必死に考えるが答えは訪れない。
自分がおかしいのか、意味不明になってきて家まで走った、扉を開けるとほんのり風が吹いてきた。
あぁ、そういえばクーラーをつけっぱなしだったか、そんなことを思うがもはやそんなことはどうでもよかった、買ってきた物を投げ出してネットを確認する。
今日の東京は三十九度!どおりで寒いはず!
日本各地で記録的寒さ!
今日も寒くて絶好の海日和!
夏の寒さを乗り切る便利アイテム!
寒い、寒いと、何処を見てもそう記されていた、もう意味がわからなくなって、男は思考を放棄して部屋にこもって眠りについた。
次の日、男はセミの泣き声で目を覚ました、蒸し蒸しとした気温の中男は天井を眺めて息を吐く、考えることを放棄した男は意味がわからなくともこういうのだ。
「ああ、今日も寒い」