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千夜は信二を追いかけながらそんな事を思っていた。
それは千夜だけでなく、他の皆も思っていた。類ともという言葉がある。この教室には、変わり者にして最強の戦闘民族が集まっているのかも知れない。
「た、助けて下さーい!やめてやめて。こっち来ないでーー」
ルンルンの手から放たれる、光の矢を逃げながら避け続ける涼太。しかし、涼太に運動神経なんてものはない。涼太は転び、近くにいた信二の足にしがみ付いた。
「俺の事見捨てないでくださいよ」
「へっ自業自得だ。ここで大人しく死ぬんだな」
涼太の手を振り払い、足り去る信二。
「この~裏切りモンがーーーー!」
立ち上がり、全速力で信二を追いかける涼太。涼太のすぐ後ろには、千夜が迫っていた。
ゲッ。何でこっち来んだよ。
「おい涼太。俺と同じ方向に逃げてどうすんだよ。このままじゃ二人ともやられちまうじゃね~か。別々に逃げて、少しでも犠牲者を減らすのが目的だったハズ」
「えぇ知ってますよ。だからこっちに来たんですよ」
薄気味悪い笑顔で信二を見る涼太。
カス人間が~。そこまでして俺を巻き込みたいか。そこまでして俺を殺したいか。
「ね!一緒に死にましょう。赤信号、皆で渡れば怖くない。と同じで。殺される、皆で死ねば怖くない。です」
「怖いわ!」
「お~それは名案だな~」
逃走する二人の間に入って来たのは歩。
「何でお前までこっち来るんだ~!」
「涼太の川柳に惚れてしまってな」
あれ、川柳って言えんのかよ。
「何だっけ?殺される、皆で仲良く総玉砕。だっけな?」
「玉砕してんのはお前の頭の中だろ」
どうするんだよこの状況。幸いルンルンは光の矢を打ってこなくなったが、その代わりにこいつらのせいで千夜だけでなく、スズまで来てるし。スズの銃弾、めっちゃそば通ってるし。いつ死ぬか分かんないし。
ルンルンは考えた。
ん~どうしよう~。これじゃ涼太君以外にも当たっちゃう。でも体育をサボる訳にはいかないし、でも打てば皆に当たるし~。ん~八方塞がりだよ!落ち着いて考えるのよ私、授業をしっかりやるのと、皆さんの命、どっちが大切か。ん~。
スズは昔から銃を撃つ時は必ず発砲の擬音を言ってから打つのだ。
「バンバンバンバンバンバン」
「スズ!そのバンバン言うやつ止めてくれるかしら?聞いてて耳障りなんだけど」
「それは無理だね。何故ならうちにとっては生理現象の様なものだもの…みつお」
「なに名言風にしてんのよ。あんまり舐めてると、殺すわよ?」
「あなたの様な下等生物に殺れるんですか?」
二人は足を止めて向き合った。その瞬間、二人の顔の間を光の矢が突き抜ける。
「え?」
千夜は冷や汗を掻きながら驚く、スズは表情何一つ変えずに矢が飛んで来た方を向く。
「ルンルン~?貴女何して…」
「すいましぇ~ん!やっぱり私には授業をサボれませ~ん」
ルンルンは大泣きしながら、大量の矢をこちらに放ってきた。
「おいーー!完全に世の中の優先順位間違えてんじゃねーか!!」
俺達は、それはもう死ぬ気で逃げ回った。泣きたいのはこっちだ。
「おい信二、このままじゃいづれ」
ぐサッ。その効果音と共に、歩の声が消えた。
「涼太、お前がルンルンのパートナーなんだから、お前が何とかしろよ」
「キングボンビー相手に出来る事なんかないですよ!」
「なら早くあっち行けカードでも使って…」
矢が飛んでこない。さっきまでこの世の終わりって位飛んで来たのに。
俺は恐る恐る振り返る。そこで俺達の見た光景は。
「バンバンバン」
スズが飛んで来る矢を目掛けて銃弾を撃った。自分の方に高速で飛んで来る矢に銃弾を当てるなんて、到底一般人には出来ない。しかしスズはそれを何喰わぬ顔で成し遂げる。しかし飛んで来るのは矢でありながら、物質は矢ではない物。銃弾が矢に当たった瞬間、まるで豆腐の様に、鉄の弾は切られる。
これは予想外だ。予想の外に行ったよ。なら。
「バンバンバン」
スズは再び銃弾を撃った。すると弾の当たった矢がまるで人を避ける様に方向を変える。
隣では千夜が脇差で矢を弾きまくる。弾かれた矢は地面に落ちると同時に消えてしまう。
「へ~やるじゃない。銃弾を矢に対して斜めに当てる事によって、矢の軌道を変えた。考えたじゃない」
「当然だよ。うちを誰だと思っているんだい?君達の一族はそんな事も忘れてしまったのかい?バンバンバンバン矢がゴミの様だ」
メガネ大佐が高笑いをしているような口調で、バンバン言うスズ。
「矢がゴミって何?」
ともかくそんな事より、まさかスズがこんなに腕のある人間だとは思わなかったわ。あの速さで飛んで来る矢に対して複数に同時に斜めから当てるなんて、ほとんど奇跡だわ。いくら私でもあそこまで正確な銃撃は出来ない。まったくこの世界に来てから驚いてばかりだわ。この魔法少女だってそう。私同等かそれ以上の人間がこの学校、いやこの世界に来て、世界のバランスなんて取れるのかしら?正直分からない事だらけだわ。
ド――――ン。何かがルンルンの所に飛んで来て、音と砂煙が辺りを包み込む。
「何?今の音」
「どうしたんだ~?」
逃げていて何も見ていなかった信二達が歩み寄って来る。
「何にかがルンルンの所に落ちてきたみたい」
俺達はルンルンの元に歩み寄った。そこにあったのは。
「夏織!」
夏織が目をクルクルさせて倒れていた。
「痛った~い。何々?」
「ルンルンは無事みたいだな」
「も~ういきなり何ですか?ってあ~!夏織さん!しっかりして下さい。誰がこんな事を」
「誰ってそりゃ~」
俺達はある人物の方を振り向いた。
夏織相手にこんな事出来るのは、地球上たった一人しかいないと思う。
「体育で怪我人出しちゃだめですよ。花穂さん」
「そうなんですか?それは初耳です」
正真正銘の夏織の姉貴なのだ。
「えー?これって花穂さんがやったんですか?」
「だって夏織がそれなりに戦いたいっていうから~」
指を咥えながら目が水たまりになる。
「あ~そこまで悪いとはい言ってないですから~」
「なら良かった~。わ~いわ~い」
俺はジャンプしながら喜ぶ花穂さんを見て思った。相変わらずこの人の頭の中はお花畑だと。
「夏織も潰れちゃった事だし、誰か私とやりたい人~?」
その発言に全員が手を挙げ、小学生の様に「はいはい」と連呼した。
「私、私がやります」
「何を言ってるんですか?うちの方が強いのだからうちがやります」
「貴女は銃だけでしょ?」
千夜とスズはまるで母親の膝の上を取り合う兄弟の様に揉めていた。
「ちょっと待て、やるのは俺だ!」
信二が指を指しながら、自信満々の声で言った。
「何であんたみたいなカスがやるの?」