19
「了解。ではこれより、体育祭実行委員を決めようと思う」
信二は教卓を両手で叩いた。
「なんであんなに気合い入ってるの?」
「普通は体育祭って気合が入るモノじゃないのかな?うちは体育祭なんてやった事ないから分からないけど。この世界では大きなイベントらしい」
「それはそうだけどさ~。またバカな事考えているんじゃ…」
納得のいかない夏織だった。
「え~実行委員は男と女一名ずつの二人です。男は俺と言う事で決まっているが…。女でやりたい人~」
「実行委員やる訳ないじゃん」
夏織は肘を机に着きながら、そんな言葉を言った。
誰も手を挙げないなか、一人。ピンと手を伸ばす物が一人いた。
「千夜?あなた…。なんで手を挙げているの?」
千夜は夏織の疑問を無視して手を挙げ続けた。
「千夜以外にいないか~?なら千夜と言う事で」
涼太は、パソコンに実行委員…伊藤信二。飯村千夜と名前を書き込んだ。
「千夜。こっちに来てくれ」
「はい」
信二に呼ばれた千夜が返事をして教卓へ向かう。この状況には全員が驚いた。
千夜が返事?どうしたの千夜?何か悪い薬でも飲んだんじゃ…。
「これは雨どころか、隕石でも降って来るんじゃ?」
「そ、そうだよね。あの千夜何かおかしいよね。どうしたんだろう」
信二は千夜に書類を見せて、鉛筆を持たせた。
「実行委員になるにあたって、この書類にサインを」
「はい」
千夜はその書類の内容を見る。
「ちょっと何にサインさせようとしているのーーー」
千夜は既に名前を書こうとしていた。
「千夜もよく分からないのにサインしな~い!」
「おいおい。部外者は引っ込んでくれるかな?」
「一応このクラスのリーダーだから。リーダー権限で、その契約を教えなさい」
夏織は声を荒げて言った。
「仕方ない。歩。読み上げてくれ」
「了解。第1条実行委員として協力し、男子実行委員に従う事。第2条実行委員として体育祭に参加する事。第3条女子の中でも最高権力者となり、女子の話をまとめ上に報告する事。以上だ」
「ちょっと待って!!!あんた達そんな契約を千夜に結ばせようとしてたの?」
「そうだ。これが実行委員会の契約だ」
「そんなの誰が結ぶって言うのよ」
夏織は熱くなり、立って会話していた。
「お前は関係ない。この契約を飲むかどうかは千夜だ。さ~千夜。どうする?」
千夜は迷う事無く、サインを書き終えた。
「早すぎるんですけどーーーー!」
信二はにやりと笑って言った。
「契約完了」
言ってて思ったがこんな契約を千夜に結ばせるなんて。信二。お前は何をやったんだ?
さすが伊藤先輩です。こんな私欲まみれた契約を結ばせるなんて。政治家ですか?
歩と涼太は改めて、信二のカリスマ性に驚いた。
「実行委員も決まった事だしこれからは俺と千夜が進行しよう。歩は席に戻っていいぞ?涼太はそのまま書記を続けてくれ」
信二は仕切り直して、話を始めた。
「今日決めたい事は二つある。まず、くらすスローガンを決めたい。そこで男子と女子に分かれて、それぞれ話し合って二つの案に絞ろう」
言われた通りに男女で別れ話合いを始めた。
まずは女子チーム。まずは千夜の事情聴取が始まった。
「どうしたの千夜?あんな人達の言う事を聞くなんて」
「そうですよ。いつもの千夜さんなら。何?殺すわよ?っていつも言ってたじゃないですか」
ルンルンの迫真の物真似があまりのも似ていて、一気に笑いを取る。
「似すぎ!!どうしてそんなに上手いの!!」
「ププププププ」
その時、初めてスズの笑った顔を見たのだった。
「スズ。貴女って笑えるのね?」
「そうですね。初めて見ました」
そう言われたスズは一瞬で顔をいつもの無表情に戻した。
「うちはいつも笑ってるし楽しんでる。ただ顔に出ないだけ」
「じゃ~今のは死ぬレベルの笑いだったのね?」
「そうだね」
と言いながら鼻血が出てくるスズ。
「鼻血鼻血。テッシュとか持ってないの?」
鼻を抑えながら、こくりと頷くスズ。
「テッシュ位、女なら持ってきなさいよね~」
「テッシュなら男の方が持ってるんじゃないの?」
「何で?」
と不思議そうに聞く夏織。その質問にスズがそのまま答える。ボイス全てピーーーーになるような言葉を連発した。
「あーーーーーあわわわわわわわ」
夏織とルンルンは顔を真っ赤にした。
「ちょ、何言ってるのスズ!!!」
「そうですよ!いきなりびっくりしたじゃないですか」
「うちは理由を聞かれたから答えただけだよ?」
「そうなのかも知れないけど、レディーならもっと慎みをもってさ~」
夏織は困った感じに言った。
「何々テッシュがどうしたの~」
「もっとめんどくさいの来たーーーー!」
花穂が来たのだ。これは夏織にとって最悪の出来事だ。
「なぜ男がテッシュを愛用しているのかを論議してたのです」
「論議してないからーーーー!!!」
と大声を上げて、両手を振りまくり話を逸らそうとする夏織。しかし花穂には通じなかった。
「そうですね~。これは教えるのも教師の務めですね」
花穂はそこから、スズの言った事とはレベルの違う事を言い出した。分かり易く言えば、スズが顔面モザイクだったら、花穂は全身モザイクだ。
その破壊力に夏織とルンルンはノックアウトした。
「あれ~?気絶しちゃいましたね~。何か間違っていましたかね~?」
首を傾げて悩む花穂。
「何も間違ってませんよ?花穂さんは全て正しいです」
千夜はすかさずフォローした。千夜にとって花穂は全てであり絶対なのだ。
「二人とも起きて。スローガンを決めないと」
千夜は二人の体をさすり、起こした。
「あれ?私今まで何してた?確かスローガンを決めようとして…。何か凄い事を言われた気がする」
「と言う夢を見たんだよ」
スズは二人の記憶からさっきの出来事を削除した。
「まぁスローガンを決めましょう」
夏織が仕切り、意見を求める。
「ん~雑草魂とか使う学校は多いらしいですよ?」
ルンルンは体育祭というモノを知らなかった。だから勉強して、今や色んな学校の事情まで知っているのだ。