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「確かに見てないな。あんなにカッコいい事したのに」
さっきの技はめちゃくちゃカッコよかった。普通に惚れるレベルだ。
「みなさ~ん」
ルンルンの声が聞こえて振り返った。
「あっルンルン。なんだ心配…。何それ?」
ルンルンは変な生き物を抱えていた。子犬位の大きさで、それはそれは可愛いらしい…。な訳あるか!
「そこの道で弱ってたんで拾いました」
「いやルンルン?それどっから見ても、あやかしなんだが…」
「違います」
「いや違うとかじゃなくて…」
「違います。これは犬です」
ルンルンは一歩も引かず、犬と言い続けた。
「まぁしょうがないんじゃない?」
夏織が諦めた感じに言った。他の皆もそんな感じだ。
「良いんじゃないですか?見たところ、山のエレルギーは安定してますし」
涼太はパソコンのデータを見ながら言った。しかし涼太はこの時違和感を感じていた。
それにしても不思議だ。俺達は確かに一般人よりかは、世界のバランスを揺るがすかも知れない。けど特に、この世界を変える様な事はしていない。なら、なんであのクラスのあやかしが出て来た?いや、俺が考えてもどうしようもない。きっと何かが起きても、この人達がいれば何とかなるからな。
「皆さ~ん終わりましたか?」
そこに来たのは今更感の、花穂さんだった。
「花穂さん。遅いですよ~。大変だったんですからね」
「ホントですよ。今までどこいたんですか?」
「どこって…。教室ですけど。今日は授業が無くなったので、宿題の採点を…。どうしたんですか?」
その時俺らは目を点にした。そうだったこのクラスで最も変わり者は花穂さんだった。
「ところでルンルンさん。その生き物は何ですか?」
「この子は子犬のマスコットです」
そう笑顔で答えるルンルン。
「わぁ~~そうなんですね!可愛い!私もモフモフしても良いですか?」
「もちろんですよ!」
花穂はルンルンから、あや…子犬のマスコットをもらい、顔に擦りつけた。花穂の幸せそうな顔。しかし男達は燃えていた。
あのくそ芋虫がーーー!。そこは俺のポジションだろ。
あの野郎。新入りのくせになんたる大胆行動を。
「ちょっとあの芋虫絞めてきても良いですか?」
「あ~構わない。俺が責任を持とう」
「良い訳ないでしょ!バカやってないで帰るよ」
夏織、千夜、スズに男達は無理やり連れていかれた。3人は子犬を精一杯に睨み付けた。
過ぎてしまえば日常。そんな言葉があるが、正しく俺達の事を言っているんだろうと思う。昨日あんなヤバい奴と殺しあったなんて思えない程、皆いつも通りだ。
「ん?」
信二の机の上に、ルンルンのペットになった。あやかしがやって来た。
「ほれ!」
信二は無表情でナイフをあやかしに刺した。
「ひゃーーーーーー!」
ルンルンが慌てて、あやかしを抱える。
「いきなり、何するんですか!大丈夫?アク?」
「ごめんつい体が勝手に。ん?今アクって言ったか?」
ルンルンはあやかしに刺さっているナイフを抜き取り、あやかしを撫でた。傷は一瞬で治る。
「はい。言いました。この子の名前です。命名アク。黒っぽい感じなので」
なんて安直な。本当にこの子は、あやかしを飼うつもりか。しかもあのボスのあやかしが小さくなった訳だから。また大きくなるんじゃ。
「大丈夫なんか?また暴れたりされたら」
「それは大丈夫です。この子も反省してますし」
「ちゅうーちゅうー」
あやかしってのは、皆あんな感じの鳴き声なのだろうか。とてもあの殺人鬼のだったとは思えない程弱弱しい。
「はいみなさ~ん。注目してくださーい。大事な話があります」
花穂さんの言葉に生徒が耳を傾ける。
「体育祭が1週間後にあるらしいので、今日の放課後、役割を決めたいと思います」
それを聞いた男達の顔色が変わる。
「やっとこの時が来たか」
「あぁ~。やっと本校舎の連中に仕返しするチャンスがやって来た」
「そうですね。あいつらの度肝を抜きましょう」
男達は燃えていた。何故なら目立てば彼女が出来るという浅はかな思いがあったからだ。さらに本校舎の人にはD組はどうしようもない事をした人間の隔離施設となっている。すなわち見下されている。
「まぁ私達はどうでもいいわ。体育祭も休むつもりだし」
「そうか。なら好きにすればいい」
「何か今日は諦めが早いわね」
変な感覚を覚えた千夜だった。
「てかおねーちゃん。来週って言うの遅くな~い?」
確かに夏織の言う通り遅い気がする。来週には体育祭なんて。準備もあるだろうに。
「え~と…。あえて言うのを遅くして、皆の状況適応能力を高めようと」
頭を掻きながら誤魔化す様に言った花穂。
あっこれ忘れてただけだな。
心の中のセリフが揃った一同だった。
休み時間。男達は校庭で作戦を練っていた。
「どうする?千夜が出ないとなると損害がでかいぞ?」
「問題ない。そっちは俺に任せとけ」
千夜は一見感情の読めない怖い女のイメージだが。その性格は驚く程真っ直ぐだ。それは利用すれば、千夜を体育祭に出させるなんて朝飯前だ。
「ならその問題は伊藤先輩に任せます。問題はどうやって本校舎の連中に勝つかですね。本校舎の生徒何人か買収しますか?」
「いや。俺らの言う事なんて誰も聞かないだろう~。あっさりバラされて終わりだ」
ん~。女達はともかく、普通にやったら俺達は間違いなくやられるからな。あっ。
「どうした?何か思い付いたか?」
「良い事でも思い付いたんですか?」
やっぱり俺は天才だ。誰か俺に知的財産権を買ってもらいたいものだな。
「味方に付けるモノが人間である必要はないのでは?」
その言葉を聞いた歩と涼太は信二の言おうとしている事が分かった。世はこれを類友と呼ぶ。
「動かせる物は、競技道具から校庭に至るまで何でも使う。この仕事俺がやろう」
競技小細工班、局長佐藤歩。
「それは同時にコントロールし、尚且つこちらが有利になるように全てを計算するのは至難の業でしょう。俺以外には。ですけど」
プログラム設計。局長高木涼太。
「勝つ事だけが俺達の狙いじゃない。勝つ事は結果であり。決まっている事だ。俺らの最終目標は、体育祭で無防備になった女子生徒の撮影だ。このジョブ。俺が引き受けよう」
男達は燃えている。他の生徒とは比べられない程に燃えている。
放課後、体育祭の実行委員を決める、クラス会議が始まった。黒板には大きく、D組体育祭実行委員会決定会議。実行委員が決まるまでは、男達が進行をした。
「女子4名。男子3名プラス教師の花穂さん。全員揃いました」
歩が真剣な顔で信二に報告した。