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「聞いてるよ。朝ごはんは卵かけご飯だったんでしょ?うちも食べたかったな~」
「誰がいつそんな話をした?」
キレながら言う信二。
「まぁまぁ落ち付いてください。スズさんも悪気があった訳じゃないですし」
信二はスズの方を見る。スズは口笛を吹いていた。
あいつのどこに反省の色が?
「とにかく、私達は、あやかしを殺しまくればいいって事?でもそれじゃ、また新たにあやかしを生む事に」
「それなら大丈夫ですよ。要はエレルギー体に私達を倒せないと思わせればいいんですよ」
「そんな事でいいんですか?」
俺達を倒せないと思わせる。つまりあやかしを片っ端から倒しまくればいいって訳だ。
「今あやかしは、この山に集中しています。なので今日、この山を攻めたいと思います。山の中にいるあやかしを、どんどん倒していってください」
俺らはその後山に入りあやかしを見つけては狩りまくった。といっても俺ら男連中に出来る事は無い。女達は狩りながら、バラバラにどこかへ行ってしまった。
「もうほとんどのあやかしは倒したんじゃねーか?」
「だよな。あの悪魔達からは誰も逃げられないからな。あっあやかしだ」
俺らの前に、一体のあやかしが現れた。サイズは小動物程度だ。あやかしは俺ら目掛けて一直線に走って来た。
「どうしますか?逃げますか?」
涼太は落ち着いた感じで聞いてきた。
「その必要はないだろ。だって、あやかしが俺達の所に来るまでより先に」
物凄い速度で、あやかしの両サイドから現れた千夜と夏織。
「あいつらが来るじゃん」
二人はそのままの勢いであやかしを木っ端微塵にした。どちらが悪者か分からない位に二人は楽しんでいた。
粉々にされた、あやかしは、そのまま自然消滅した。まるでそこには何も無かったかのように。
「ちょっと千夜!あれは私が先に見つけたのよ!横取りしないでよ」
「何言ってるのかしら。あやかしは全部私のモノなんだけど。私のモノに勝手に触らないでくれる?」
「何ですってーーー」
二人は顔を近付けて、言い合っていた。
「すみません。地球終わる気がしないんですけど」
二人の様子を見てそんな事をふと言った。人間に遊ばれるあやかし。この世界に来てしまったのが、一番の間違いだ。
「俺もそれ思うわ。だって、人間を滅ぼす力がある生き物をあんなに雑に扱われたら誰だってそう思うだろ」
「だな。あやかしが弱く見えてしまうぜ。お前ら、いつまでそんな事やってんだ。早く残りを倒して来いよ」
俺は二人の喧嘩を止めようとした。
「弱いくせにうるさい」
「殺すわよ?」
俺にこの世界は辛かった。前の世界なら俺の事は知らない人はいない位人気だったんだが。この世界に来てから俺は主人公なのに虫も同然の扱いを受けている。何とか俺の威厳を取り戻さなければ。
「おいお前ら。いい加減にしろよ?」
俺は強めの口調で言った。これで少しは俺の事…。
「あっ!あっちにもいた!」
「今度は渡さないわよ」
二人はまた、あやかしを求めて消えていった。
「そういえばスズ達は?」
「見てないな~。まぁやられている事は無いと思うけどな」
その時、銃声が鳴り響いた。俺らはその銃声はスズの銃声だと確信していた。
銃声が聞こえた方角へ走るとそこには衝撃的な光景が広がっていた。
「あんたら何しているんですか?」
そこで行われていたのは、あやかしが的に張り付けられていて、それを射撃ゲームの様に撃っているスズの姿だった。
「バンバンバンバンバン。外れ無し」
「さすがスズさんですね」
そこにはルンルンも居た。
「お前ら何してんだ?」
「何って。見たら分かるとしか言えないんだけれども。何?一緒にやる?」
「やらねーよそんな可哀そうな事」
俺達は、あやかしの味方だ。こんな悪魔はいずれ、自分がやって来た事が返ってくるだろう。
「スズさん!これはどうですか~!」
ルンルンがあやかし10体位を宙に浮かせて、速く不規則に動かしだした。
「なんのこれしきってね。バンバンバンバンバン」
あやかしは銃弾の雨を食らい、次々に消えていく。惨い。まさしくこれは昔の処刑を見ている気分だ。
「ちゅうちゅうちゅう」
ネズミの様な声が背後から聞こえてきた。
「何だこの声は。凄い数がいる感じだぞ」
「あの先輩。後ろ振り返りたくないんっですけど…」
その青ざめた涼太の顔を見て、俺達は振り返った。
「ん、なんだこれーーーー!」
おびただしい数のあやかしが、こっち目掛けて一直線に来ていた。
「おいどうすんだよあの数。あれはヤバいだろさすがに」
信二は恐怖のあまりに、歩の胸ぐらを掴んで言葉で攻め立てた。
「んな事言ったって俺にも分かんねーぜ」
「私に任せて下さい」
俺達の前に、ルンルンが現れた。そして、あの光の剣を出した。
「フィールド展開」
この前の様に、フィールドが辺りを包んだ。ルンルンは腰を低くし構えた。こうしている間にも、あやかしはどんどん近付いてくる。
「天真流。トリックソード!」
その言葉を発したルンルンはその場から消える様な動きで斬りかかり、凄い数のあやかしを一網打尽にした。
俺らにはルンルンの事が速すぎて見えなかったが、それでも光の剣が、あやかしの集団の中で回転をしながら、高速に動いているのは見る事が出来た。
ルンルンは居合切りで、刀を振り切った後の構えを維持していた。頭を低くし、手をしたから回して、上に剣を向けていた。俺らは、初めてルンルンをカッコいいと思った。
「久々に使ったんですけど、上手くいって良かったです」
しかしその笑顔はとてつもなく可愛かった。
「何だ今のは」
「そうだよ。天真流なんて聞いた事ないぞ」
そもそもこの世界観に、必殺技なんかあったのか。俺も何か使ってみたいものだ。
「天真流の名前の由来は…。確か、魔法っていうのは神様からの授け物と考え、魔法が使える人間の中で一番の魔力がある人が最も神に近いとして天真流を身に着ける事が出来るんです」
「なんかスゲーモノ見せてもらったな」
「ですね。目が奪われました」
これである程度のあやかしは倒しただろうか。
「今の音何~」
草むらから千夜と夏織が出て来た。
「ちょっとあやかしが大量に出て来てな。でももう片付いたから大丈夫だ」
「別にあんたがやった訳じゃないでしょう?」